14話 勇者の弟子と天駆ける魔女
・・・何だろ?何が起きたのかな
「みなさん!満月が出ました!これから繁殖期が始まります!さあ!相手を見つけて子孫繁栄に励んでください!」
突然ニニが宣言した。
「えっ!ニニ?どういう事?」
私は隣にいたニニに尋ねた。
「この時期の満月が出ると獣人たちはみんな発情期になるんです。これからの一週間は、みんなで一斉に子作りに励むのですよ」
「ええっ!聞いてないんだけど!」
「最近天気が悪かったので満月に気が付きませんでした。でも繁殖期が始まってしまいましたので、終わるまではみんな発情したままになります」
「そんなあ!ニニ!」
「せっかくだからララも一度獣人の子供を産んでみてはいかがですか?実はわたしも今回初めて繁殖に参加するのですよ」
ニニは頬を赤らめながらも、ちょっと嬉しそうだ。
「そんなお気軽な話なの?」
「ここではこれが普通です」
ニニとそんなやりとりをしていたら、獅子頭にぎゅっと抱きしめられてしまった!
・・・そうだった!私、獅子頭のお腹の上で寝てたんだった!
・・・あれ?これってもしかして?
「期は熟した!さあ!子作りを始めようではないか!」
やっぱりこうなっちゃったよ!
「これはもういらんな!」
獅子頭は、私の顔の布を掴んで投げ捨てた!
「おお!やはりその顔!最高のエロさだ!」
だから、その褒め方、何とかして!・・・っていうよりも、この状況、もう詰んでない?
発情した獅子頭に、全裸の私は抱きしめられてしまったのだ。
私の腕力では獅子頭の腕から逃れるのは不可能だよ!
このまま、ライオン耳の赤ちゃんを産む事になっちゃうの!
(ララ!脱出するぞ!)
そうだった!私、ジオ様を抱きしめてたんだった!
ジオ様が、獅子頭の腕を振り払ってくれたので、その隙に獅子頭の懐から抜け出す事が出来た。
「逃がさんぞ!お前に子を産ませるのは俺だ!」
獅子頭はすかさず私を追いかけて来た。
このままじゃ、また捕まっちゃう!
そうだ!
「ニニ!ごめん!」
私はそばにいたニニを掴んで、獅子頭の方に押し付けた!
「えっ!ララ!何するの!」
「おお!まずは長が俺の子を産みたいか!まあ、それも良かろう。実は長の事も前から気にかけていたのだ」
獅子頭がニニをぎゅうっと抱きしめた。
「えっ!えっ!ええーーーっ!」
・・・そして・・・そのまま獅子頭がニニと、事を始めてしまった・・・
猫科同士だから大丈夫なのかな?
ニニには悪い事をしたけど、これで少し時間が稼げたよ!
他のみんなはどうしてるかな?
「レダ!俺の子を産んでくれ!」
「狼さんの事は好きだけど、あたしはその前にシンの子供を産みたいんだもん!」
・・・レダと狼頭も同じ様な状況になっていた。
「レダ!とりあえずこの島から出るよ!」
ジオ様が狼頭を吹っ飛ばした隙に私がレダを連れ出した。
「ごめんね!狼さん!また会いに来るからね!」
女性の獣人ばかりが集まっている中にミラがいた。
ミラは女性の獣人たちに囲まれてまんざらでもなさそうだったのだが、その中から引きずり出した。
「ミラ!お取込み中悪いんだけど、とりあえず島から脱出するよ!」
勢いあまって私はミラと絡み合って倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、彼女たちも良かったですが、やっぱりララが最高です!」
ミラは私にぎゅうっと体を押し付けてきた。
素肌と素肌がこすれ合って、私もちょっと変な気分になっちゃったよ!
「ミラ!今はそれどころじゃないから!」
私はミラを引きはがして起き上がり、ミラの手を引いて走り出した。
「みなさん!また会いに来ますね!」
・・・ミラはちょっと名残惜しい様子だったが、獣人たちに別れを告げた。
「ララ様、皆さんの荷物はまとめておきました」
シィラが、ルルと、私たちの着替えや荷物を持って待ってくれていた。
「ありがとう、シィラ!着替えるからちょっと待ってて」
「そんな暇はなさそうですよ?そのまま荷物を持って海岸まで走り続けて下さい!」
後ろを見ると、発情した獣人たちが押し寄せていた。
「ほんとだ!立ち止まってたら捕まって妊娠しちゃう!」
「ララ様はルル様をお願いします」
「うん、わかった。シィラは私の荷物をお願いね!」
私は走りながらシィラからルルを受け取った。
そして私達は、全裸のまま森の中を走り続け、海岸までたどり着いた。
森の中を走るので、足を怪我しない様にブーツだけは履いたんだけど・・・全裸にブーツって、余計エッチな感じになっちゃたよ!
とりあえず発情した獣人たちは引き離したけど、多分すぐに追いついて来るだろう。
「このまま魔動馬車のところまで泳ぐよ!」
みんな全裸なので、そのまま海に入っても問題ない。
ブーツを脱いで荷物の中にしまって海に入った。
一人だけ服を着ていたシィラも、布地が少なめの水着の様な格好だったのでそのまま泳ぎ始めた。
「みんな!あと少しで魔動馬車だよ!」
「ララ!」
あと少しで魔動馬車に届くところで海岸から声がした。
振り返ると、体の前にニニを抱えた獅子頭が立っていた。
・・・まさかとは思うけど・・・その状態のまま走って来たんじゃないよね?
「ララ!・・・ありがとう!・・・また会いに来てね!」
・・・赤い顔で激しく息を切らしながらニニが叫んだ。
・・・うん、やっぱりその体勢でここまで獅子頭に運ばれてきたみたいだね・・・・それはきっと、すごい事になってそうだよね・・・
「エロ女よ!次こそは俺の子を産んでもらうぞ!」
・・・獅子頭、ニニとその状態で、それを言うのはどうかと思うよ?
「ニニ!きっとまた会いに来るからね!」
・・・もちろん発情期じゃない時期にだけどね・・・
「その時は、わたしの子供も紹介するね!」
・・・うん・・・幸せそうで何よりだよ・・・
「じゃあ、楽しみにしてるよ!」
魔女のママ友が出来るのはちょっと嬉しいかもね?
私は魔動馬車に全員が乗り込んだのを確認したら、魔動馬車を魔法で空に上昇させ始めた。
島に近づかない様に迂回すると、とんでもなく遠回りになってしまうのだ。
それなら空の上を通過した方が手っ取り早い。
魔動馬車は満月の光に照らされて、夜空に向かって進んで行った。
海岸で見送っているニニと獅子頭が、だんだん小さくなっていく。
「わあ!この馬車って空も飛べたんだぁ!」
月明かりに照らされた獣人の島の夜景を見ながら、レダは興奮していた。
「まあね、今回だけ特別にね」
本当は魔女の魔法で飛ばしているんだけどね。
・・・それにしても、何だか今回は空の上に登ってばかりになっちゃったな。
こうして私は、繁殖期で大騒ぎの獣人の島を眼下に見下ろしながら、次の目的地に向かって魔動馬車を駆るのだった。
第二部 第9章 完結です。




