13話 勇者の弟子と空の散歩
「ララ、そしてみなさん、本当にありがとうございました」
魔物の掃討が終わったその日の夜に、ニニが宴を開いてくれた。
「それにしても空から中級の魔物が大量に振ってきた時には驚いたぞ」
さすがに獅子頭も、あれには驚愕したみたいだ。
「ええ、この世の終わりかと思ったわ」
黒豹頭も遠い目をしていた。
「だがほとんどが槍で貫かれて倒されていた。あれは一体どうやったんだ?」
まあ、当然気になるよね?
「ええと・・・勇者の力を使って・・・」
「すごいな、勇者ってのは!あんな事も出来るのか?」
「・・・まあね!」
ちょっと苦しいけど、こう言ってごまかすしかないよね?
そして宴会のあとは恒例の、みんなで全裸になってもふもふに包まれるイベントだった。
顔さえ見せなければ大丈夫だとわかったので、今度は思いっきりもふもふを堪能した。
全裸で獅子頭のもふもふに埋もれた時はちょっと緊張したけど、顔さえ見せなければ本当に何にもしないんだね。
獅子頭のお腹の上はふっかふかのベッドみたいで結構快適だったよ!
・・・でもこれ、裸で男の人と抱き合った事になるんだよね?
でもまあ、ジオ様にも裸になってもらって、ジオ様を胸に抱いたまま一緒に獅子頭のもふもふを堪能したから、ぎりぎり浮気じゃないよね?
獅子頭のもふもふを堪能した後、最後はニニのところへ行って抱き合っていた。
やっぱり、ニニのもふもふが、一番柔らかくて気持ちいいよ!
そして何故かジオ様は、そのまま獅子頭のもふもふの中でまどろんでいた。
獅子頭もそんなジオ様に優しく手を添えていい雰囲気だ。
ジオ様・・・まさか今度は獅子頭とそういう関係に!
それにしても、獅子頭はすっかりジオ様の事が気に入ったみたいだね。
あれから毎日飽きずに二人で模擬戦をやってるよ。
「最後のあれは、魔法を使ったのですよね?」
ニニのもふもふが気持ち良くて、眠りに入ってしまいそうな私に、ニニが小声で尋ねた。
「うん、実はそうなんだけどね・・・そうだ、ニニと一緒に試したい事があったんだ」
「なんですか?」
「うーんとね・・・今日は眠いから、明日説明するね」
私はそのまま、ニニと抱き合って眠りについた。
翌日、私はニニにお願いして、大きな布をたくさん集めてもらった。
それから丈夫な縄と、人が入れるくらいの大きなかごだ。
「これで何を作るのですか?」
「とにかく指示した通りに縫い合わせてもらえるかな?」
縫い合わせた布に縄を繋いでいって、それをかごに結び付ける。
獣人たちみんなが手伝ってくれて、結構早く出来上がりそうだよ。
「よし!完成だよ!」
「なんですか?これ?」
「これは熱気球だよ」
そう、私が作ったのは熱気球だ。
「さっそく浮かべてみよう!」
かごの上で火を焚いて布地で作った袋の中に暖かい空気を送り込む。
袋は次第に膨らんでいって、かごの上で丸くなった。
「さあ、ニニ、一緒に乗って!」
「大丈夫なんですか?これ」
「うん!浮力は十分に発生してるし大丈夫だね!」
ニニと二人でかごに乗り込むと、地面に縛ってあった縄を緩めた。
「わあ、本当に浮き始めました」
「さあ、このまま雲の上まで上がっていくよ!」
気球はゆっくりと上昇し、やがて雲の高さを越えた。
「ずいぶん高く上りましたね?地面があんなに遠く見えますよ」
「じゃあそろそろかな?ニニ、ちょっと魔法を使ってみて?」
「えっ!魔法が使えるんですか?」
「うん、この高度なら使えるはずだよ」
「じゃあ、ええと・・・久しぶりなのでちょっと待って下さい」
するとニニの姿が次第に変化し、普通の人間の顔に変わった。
ちょっと釣り目の猫っぽい感じの美少女だ。
でも、猫耳と尻尾はしっかり残っていた。
「どうですか?」
「うん!ちゃんと変身できてるよ!すごくかわいいよ!ニニ」
「ふふっ、ありがとう、ララ。でも、こうすれば魔法が使えたんですね?」
「うん、これからはどうしても魔法が使いたい時はこの気球を使えばいいよ」
「何から何までありがとう、ララ」
「ふふっ、大した事じゃ何よ!あっそうだ!ちょっと海の方に移動していいかな?」
私は魔法で風を吹かせて熱気球を北側の海岸の方に移動させた。
「ええと、あの辺かな?」
私は魔法で視力を強化して海の中を覗き込んだ。
「あったあった!」
海の中に魔動馬車を見つけた私は、魔法で海流を起こした。
魔動馬車の沈んでいる場所は魔法がかからないが、少し島から離れた位置なら魔法が使える。
そこの海水を動かして、魔動馬車が島から離れて行く向きに海流を発生させたのだ。
魔動馬車は、その海流に乗って、魔法が使える位置まで上手く移動出来た。
ここまで来れば、魔動馬車は魔力で海上に浮かぶ事が出来る。
これでこの島から出発できるよ!
それから、数日間は、島でのんびりしながら出発の準備を整えた。
そしていよいよ出発の前日になった。
最後の夜という事で、今夜もニニが宴会を開いてくれた。
さすがに慣れてきたので、私たちは宴会が始まると早々に全裸になって獣人たちのもふもふを堪能しながら宴会を楽しんでいた。
すっかり獣人たちの前では顔を隠して全裸なる事に抵抗が無くなってしまった。
元の生活に戻っても、うっかり全裸になってしまいそうでちょっと怖いよ。
私はすっかり獅子頭に気に入られてしまったので、獅子頭のお腹の上が定位置になってしまった。
まあ、ふっかふかの高級ソファーって感じで座り心地は抜群なんだけどね!
「どうだ、ララ、そろそろ俺の子を産んでくれる気になったか?」
「そうですね、いつか気持ちの整理がついたらそういう事もあるかもしれませんね?」
獅子頭が誠実で頼りになる事はこれまでの事で良くわかっているのだ。
旦那様候補として申し分ない相手である事は間違いないし、実際、獣人の女性たちの中では、人気ナンバーワンなのだった。
今後、気持ちの整理がついて、シンの子供を産む決心がついたら、その次はそういう事もあるのかな?
・・・それって、ゴア国王の子も産んでたりするのか・・・いや、それはやっぱりないかな?
ちょっと頭の中が混乱し始めているかな?
何だか最近、いろんな国のいろんな文化に触れすぎて、倫理観念がすっかり崩壊し始めているかもしれない。
「少しは気持ちが進展したという事だな!」
「いえ、まだですよ!まだ、気持ちの整理はついていませんからね!」
そんな事を話していると、雲が晴れて、夜空に大きな満月が現れた。
「わあ!きれいな満月ですね!」
すると狼頭が突然遠吠えを始めた。
そして眠りにつき始めていた獣人たちが、目を覚ましてざわめき始めたのだ。




