12話 勇者の弟子と天空の魔物
空高く放り投げられた私は、雲が浮いている高さに到達した。
この雲の上から魔物が降って来ているのは間違いないのだ。
更に上昇を続け、雲を突き抜けて上に出ると・・・そこには巨大な岩の様な上級の魔物が浮遊していた。
この形!・・・何となく見覚えがあるんですけど!
空中に浮かんだ岩の塊は、四方八方に棘の様な物が伸びていた。
・・・これって、『終焉の魔物』だよね?
もっとも、大きさは本物の『終焉の魔物』よりも全然小さかった。
つまり、『終焉の魔物』を模した『上級の魔物』って事だよね?
とは言っても、普通の『上級の魔物』サイズの数倍はある大きさだった。
などと考察している内に、私は推進力を失い、落下し始めていた。
「いけないいけない!ええと・・・うん!やっぱり魔法が使えるよ!」
思った通り、島の上空は、一定の高さを越えると魔法が使えるのだ。
この島では魔法が使えず、そのせいで島の中では魔物が発生していなかった。
それにも関わらず、島の真上から魔物が降って来たのだ。
そこで私達は、上空なら魔法が使えるのではないかと考察したのだが、まさにそのとおりだった。
私は取り合えず浮遊魔法で自分の体を宙に浮かせた。
高度が下がったらまた、魔法が使えなくなっちゃうから、下がらない様に気を付けなきゃ!
そして『終焉の魔物もどき』と同じ高度まで上昇し、魔物に接近した。
すると、私に気が付いた『終焉もどき』は全身に目玉が現れたのだ!
「こんなところまで一緒なんだ!・・・そうすると・・・」
思った通り、目から光線が放たれた!
私は『シールド』を展開してこれを弾き返した。
すると、今度は無数にある目から、無数の光線が同時に放たれたが、私も同じ数のシールドを発生させてこれを防いだ。
『強欲の魔女』の魔法を出し惜しみしなければ、これくらいの事は余裕でできてしまう。
さて、あんまり時間をかけていると地上に被害が出てしまうからさっさと片付け無いとね!
魔法の出し惜しみをしないと決めた以上、最大火力で一瞬で勝負を決めるよ!
私は、魔力を一気に高めた。
私の髪と瞳の色が黒に変わる。
「残骸が落下しちゃうと危険だし、跡形もなく燃やし尽くしちゃえばいいかな?」
私は『終焉の魔物もどき』に向かって『ヘルフレイム』の魔法を放った。
『終焉の魔物もどき』が一瞬で業火に包まれる。
「これで終わりだよ」
『ヘルフレイム』程の凶悪な魔法をノーアクションでいきなり使われたら、どうしようもないよね?
しかし、『終焉もどき』は炎に包まれると同時に、とんでもない数の魔物を放出したのだ!
ざっと見ても中級の魔物百体以上だ!
自分の最期を悟って、残りも魔力全てを使って魔物を作り出したのだろうか?
そして、魔力を使い果たした『終焉もどき』本体は、干からびた様になり、みるみるうちに燃え尽きてしまった。
魔物の発生源は倒したけど、これで終わりじゃない!
落下していった中級の魔物を何とかしないと、地上のみんなが全滅しちゃうよ!
そう思って急いで地表に向かって下降しようとしたが、ふと気が付いて慌てて止まった!
「このまま降りたらだめじゃん!」
高度を下げると魔法が使えなくなってそのまま地表に落っこちてしまう。
それなら、むしろここから魔法で攻撃した方が効率が良いのではないかな?
私は落下していった魔物たちを確認するために、下方に向かって広範囲索敵魔法を展開した。
しかし、地表付近は索敵魔法が機能しなくて、魔物が認識できない。
そこで私は風魔法で、自分の下ある雲を全て吹き飛ばした!
よし!これで落下中の魔物が目視できる!
私は落下している全ての魔物の位置を把握できた。
おそらくあと数十秒で地表に到達する。
その他、既に地表に落下して暴れている中級の魔物の位置も把握できた。
詳しくはわからないが、獣人たちがかなり苦戦していると思われる。
よし!みんなまとめて倒しちゃおう!
私は自分の周囲に中級の魔物と同じ数の『ストーンランサー』を出現させた。
実体のない魔法は、魔法が使えない高度に達すると途中で消滅してしまうので、島の地表付近の魔物に有効な攻撃は質量を持った土系魔法だ。
しかも、中級の魔物を一撃で倒すために、通常のストーンランサーの数倍はある特別仕様の『特大ストーンランサー』だ。
私は全てのストーンランサーに対して、中級の魔物への照準を合わせ、一斉に地表に向かって発射した。
魔法で制御できるのは射出時のみで、その後はストーンランサーの慣性と重力のみで落下する。
それを考慮して照準を定めて発射したのだ。
そして、地表に向かって降り注いだ無数の岩の槍は、見事全てが『中級の魔物』を射抜いていた。
やった!これでほとんどの中級の魔物を倒せたかな?
おそらく、ほとんどの魔物は魔結晶を射抜けたはず。
魔結晶を外したとしても、特大ストーンランサーで地面に縫い付けられて、身動きできないだろうから、その間にみんなが倒してくれるはずだ!
ちなみにこんな芸当が出来たのは、単に『強欲の魔女』の力だけではない。
『上級弓士』のスキルがあって成し遂げる事が出来たのだ。
普通の魔女や魔法士では、制御できなくなったストーンランサーを的に当てるなんて事はおそらく不可能だ。
さて、私も地表に戻って、魔物の残党の相手をしないとね!
そう思って高度を下げ始めたけど・・・だめじゃん!普通に降りたら途中で魔法が使えなくなってそのまま落下しちゃうよ!
また同じ事をやりそうになってしまった。
降り方を考えないとね!
・・・とか思っている間にも、私の体は落下を続けていた・・・
気が付くと髪の色が元の金髪に戻っていた!
「・・・って!魔法が使えなくなってるじゃん!」
さっき、降り始めた時に、既に魔法が使えない高度に達してしまっていたのだ!
「まずいまずいまずい!このままだと地上に落下して死んじゃうよ!」
足場となる魔物も、さっきの攻撃で全て地表に落下した後だった。
そうしている間にも、どんどん落下速度が増している。
すごい風圧が体にかかる。
ええと、とりあえず体を広げて、少しでも空気抵抗を増やして落下速度を下げないいと!
私はおなかを下にして両手両足を広げ、出来るだけ体の面積を大きくした。
全身の手足にかかる風圧がすごいけど、落下速度は安定した気がする。
とは言っても、このまま地面に激突したら死ぬ事には変わりない。
あと出来る事といったら・・・剣を振るって風圧で減速するくらいかな?
迷ってる時間も無いからとりあえずやってみよう!
レイピアを抜いて真下に向かって技を繰り出してみる!
・・・私の剣術って、剣速と効率重視で、細身のレイピアに出来るだけ空気抵抗の影響を受けずに振り抜く技だから、まさに空を切っただけで全然効果が無かった・・・
違う違う!できるだけ空気抵抗を発生させるように技を変化させなきゃ!
私は、刃の向きを垂直ではなく、角度を付けて振ってみた。
うん!剣の抵抗は増えたけど、その分、空気抵抗による反力が発生した気がする。
つまりは、剣の刃出来るのではなく、刃から衝撃波を放つ、ゼトさんとかが得意とする技を繰り出せばいいんだ!
本当はもっと幅広のロングソードの方が効率が良いんだけど、今は手持ちのレイピアで何とかするしかない。
刃の面積の小ささは、その分剣速を上げて何とかする。
とにかく私は真下方向に向かって、剣戟を繰り出し続けた。
一回の剣戟の反力は小さいけど、連続で繰り出す事により、効果を上げるしかない。
休みなく必死で剣戟を繰り出す事により、次第に落下速度が緩くなった気がする。
とは言っても、この速度で落下したらやはり死ぬ事に違いは無い気がする。
運が良ければ大怪我で済むかもしれないが・・・
地面がぐんぐん目の前に近づいてくる!
剣戟の衝撃波が、地面に伝わり始めたのがわかった。
・・・運よく死なない程度の怪我で済みますように!
そう願っていた時に、頭の中に声が聞こえた!
(ララ!いま助ける!)
「ジオ様!」
斜め下方向からジオ様が飛んできた!
私は剣を振るのをやめてジオ様を受け止めた!
ジオ様を受け止めた衝撃はすごかったけど、おかげで落下速度は軽減された。
これなら大怪我程度で済むかな?
とか思っていたら、ばすっと布地に包まれた。
「ララ!大丈夫?」
「ララ!無事ですか!」
「ララ様!生きていらっしゃいますか?」
レダとミラとシィラがいた。
みんなが獣人たちと一緒に布地を広げて私たちを受け止めてくれたのだ!
「みんな!ありがとう!私は無事だよ!」
私は抱きしめていたジオ様と見つめ合った。
(空からララが降って来た)
「・・・そこは女の子が降って来たと言って下さい・・・」
(何のことだ?)
「・・・何でもないです」
(とにかく無事で良かった。まさか本当にそのまま落ちて来るとは思わなかったが、万が一のために準備しておいて正解だったな)
「すみません、うっかり高度を下げ過ぎて、そのまま落ちてしまいました」
(そんな事もあるかと思ってな)
私のうっかりまで、想定してくれたジオ様に感謝だよ!
・・・ちょっと複雑な気持ちだけど・・・
「とにかく死なずにジオ様と会えてよかったです!」
私はジオ様を抱きしめてキスをした。
(まだ、魔物が残っている。ゆっくりはしていられないぞ!戦えるか?)
「はい大丈夫です!」
ジオ様との感動の再会は後にして、魔物を片付けないとね!




