9話 勇者の弟子と晴れ時々魔物
「魔物です!魔物が出ました!」
ニニが私たちのところにやって来て魔物の襲撃を知らせた。
ついに魔物の襲撃が始まったみたいだね。
「魔物はどこから来たの?やっぱり南の海岸?」
「いえ・・・空から・・・空から降って来たみたいなんです!」
「なんですって!」
私達は建物の外に出て空を見上げた。
すると上空に小さな黒い点がいくつか見えてきた。
それは次第に大きくなり、やがて地面に激突したのだ。
「なんで魔物が空から降って来るの?」
「わかりません。最初は海の上空に現われてそのまま海に落ちたみたいなのですが、落下地点が次第にこちらに近づいているみたいなのです」
今落下した魔物はだいぶこの都に近い場所だった。
「とにかく落下地点に行ってみよう!」
私とジオ様、そしてミラとレダの四人は今、魔物が落下したと思われる地点に向かった。
「ララ、真上に何かいるよ!」
その途中で、レダが空を見上げて言った。
上を見ると確かに青い空に黒い点が見える。
新たな魔物が上空に現われたのだ!
それはだんだん大きくなってきた。
「みんな!避けて!」
私達は走るのをやめて一旦後ろへ下がった。
すると目の前の地面に猛スピードで黒い塊が落下したのだ。
そして、その塊は轟音と共に地面に激突すると、ぐしゃっと潰れてしまった。
・・・あの速度で落下したら、まあ、当然こうなるよね?
潰れてぺしゃんこになった肉片は蒸気を噴き出している。
その肉片の中央には魔結晶らしきものが見えた。
・・・これって倒すまでもなく、死んだって事?
様子を窺っていたら、魔物は次第に元の形に戻り始めたのだ!
「しまった!まだ死んでなかったよ!」
私とジオ様は同時に飛び出していた。
そして形を取り戻し始めていた魚頭の魔物を二人でばらばらに切り刻んでいた。
出てきた魔結晶は、今度は確実に掴んで抜き取った。
「ふう、潰れたと思って安心したらだめだったね」
肉片の中に魔結晶が残っていたら魔物はそこから復活してしまうのだ。
「ミラ、レダ、みんなに通達してきて!落下した魔物はすぐに魔結晶を抜きとる様にって!」
「はいわかりました」
「うん、わかったよ!」
二人は手分けして、今の情報を伝達に行った。
運よく落下地点に出くわしたら、戦わずして魔物を無力化できるからね!
その間にも空には新たな黒点が現れていた。
「ジオ様、とにかく空に魔物が見えたら、落下地点に向かいましょう!」
(ああ、そうだな)
私はジオ様と共に、魔物の落下予想地点に向かった。
魔物が特に集中して落下してると思われる地点に行くと、すでにそこには獅子頭たちが到着して、落下した魔物の対応をしていた。
多くの魔物が、すでに潰れた体の修復を完了し、獣人たちはそれと戦っていた。
「おお、来たか、ララ。そしてジオよ」
「魔物は落下直後に魔結晶を抜き取れば無力化できるよ!」
「おう、それはわかっておる。だが、次第に数が増えて来て、追いつかなくなってきたのだ」
・・・確かに、別の魔物と戦ってい最中に、もう一体落ちてきても、それどころじゃない。
これって、落下してくる魔物がさらに増えて来ると追いつかなくなるよね。
獅子頭たちも次々と魔物を倒しているが、落下してくるペースがそれを上回り始めたのだ。
「ジオ様、とにかく魔物を迅速に倒していきましょう!」
(ああ、そうするしかないな)
私はジオ様と共に、復元の完了した魔物の討伐を始めた。
私とジオ様が加わった事により、魔物殲滅速度は格段に向上した。
特にジオ様は遠慮なくその実力を発揮している。
今回ジオ様は『光の剣』ではなく自分のロングソードを使っている。
この島では光の剣を発動できないからだ。
身長の三倍はあるロングソードを自在に振り回し、超高速で魔物を殲滅していく。
戦いの度に、ジオ様は赤ちゃんの体での戦い方を進化させており、さながら、『刃の生えた弾丸』といった印象を受ける。
一方で、私の方もジオ様に負けず、高速で魔物を殲滅している。
効率重視で最小限の動きと打ち込み回数で、とどめを刺し、魔結晶を切り落としてはすぐに次の魔物に移っていく。
「すげえな、あんたら。強いのはわかっていたが、魔物を倒す速度が尋常じゃねえ」
「私たち魔物退治のベテランだからね!キャリアが違うよ」
「あんたがベテランなのはまだいいとして、その赤ん坊もベテランなのか?」
「あはは、まあね!」
確かに赤ちゃんがベテランっておかしいよね?
でも実際に、私よりもずっと前から魔物退治を続けてるからね。
復元が完了した魔物を私達が減らしていったので、獅子頭の部隊の獣人たちが落下直後の魔物の魔結晶回収に専念できるようになった。
離れた場所に落下して復元してしまった魔物の対処は、私たちや獅子頭が担当するという役割分担でだいぶ効率が良くなった。
・・・このまましのぎ切れればいいんだけど。
しかしそこに、一回り大きい塊が落ちて来たのだ。
激しい衝撃と、その後に爆風が周囲を襲った。
土煙が次第にはれると中からその姿を現した。
落下で潰れずに形を保っていたそれは・・・亀の甲羅の様な中級の魔物だった。




