11話 勇者様と力加減
「あー!ジオ君が嫁さん泣かせてるー!」
セナ様たちがやってきた。
「違う!嫁ではないし、泣かせてない!」
ジオ様は抱きしめていた私を慌てて離した。
「遅いから様子を見に来たら二人で何やってたの?って、また中級一体倒してたみたいだね?」
「ジオ!てめえ嬢ちゃんに何した?」
ゼト様も問い詰めてきた。
「違うんです!私が勝手に勘違いしただけで」
「「はあ?」」
私は二人に事情を説明した。
「そりゃ、ジオが悪りいな」
「戦いの最中にかわいい嫁さんに見とれちゃうとかサイテーだね!まぁ気持ちはわからなくもないけど」
「・・・もう好きに言ってくれ」
「さて、どうしたものかな?目撃情報では上級1体だったところ実際には中級3体と遭遇したね」
「他にも魔物が残ってんなら勝手に俺たちの方に集まってくんだろ?」
「そうだな、もう少しここにいて様子を見よう」
私たちはあと1日このあたりに滞在し、魔物が現れなかったら一旦帰還する事になった。
周りを警戒しつつとりあえず夕食を食べる事にした。
夕食は狩っておいた山うさぎのシチューだ。
材料が足りないので採ってくると言ったら、ジオ様がベッタリついてきた。
文字通りベッタリで、私のすぐ隣の手をつなげるくらいの一定距離を正確に保って付いてくる。
結構めまぐるしく飛び回っていたが、まったくブレずにきっちり同じ位置から離れない。
私が振り返ると、邪魔にならない様に正確に同じ角度に回り込んでいる。
もう手をつないでいてもいいのでは無いか?と思えるくらい常に同じ位置にいた。
(なんだろうこれ?私のオプションパーツ的な?)
材料を集め終わって帰る時は、ジオ様の手をつかんでみたら優しく握り返してくれたので手をつないだまま帰ってきた。
「「「「いただきます!」」」」
4人で夕食を食べる。
「そういえばジオ様って強いのに繊細な力の加減も上手ですよね?」
ふつう『身体強化』で腕力を増強すると、繊細な作業は難しくなると言われている。
だけどジオ様は戦闘中でも私に触れる時は優しくあつかってくれる。
「俺の力は通常の『身体強化』とは質が違うらしい」
ジオ様が答えてくれた。
「一般的な魔力による『身体強化』は『腕力』の『加算』だが、俺の場合は本来の力が『倍増』されている」
「・・・どう違うんですか?」
「例えば『加算』の場合は10の力を上乗せすると、力を抜こうとしても10の力が残ってしまう。だが『倍増』の場合は元の力が10倍になっても力を抜けばゼロにする事ができる」
「ああ!なるほど!足し算と掛け算の違いですね!」
「ちなみにララちゃんの装備も『倍増』型だよ」
セナ様が教えてくれた。
「あぁ!たしかにそうですね!」
小手を付けたまま魔法陣を描いたり、弓を引いたりしたが、思った通りに繊細な作業ができていた。
自然すぎて気が付かなかった。
「安物の『附加装備』だと『加算』型になっちゃうけどね!」
『附加装備』に安物なんてあるのだろうか?
そもそも私の装備いくらするんだろう? 聞くのが怖いからやめておこう。
「『身体強化』も訓練次第で『倍増』的な使い方もできなかねえが、ふつうは最大火力の底上げしか考えねえからそこまで訓練する奴はいねえな」
・・・ゼト様は最大火力追及型だった。
「ごちそうさま、今日も旨かった!」
「ありがとうございます!ジオ様!」
「後は俺が警戒してるから、お前たちは休んでおけ」
勇者は眠らなくても疲労を回復できるから、野営の見張りはジオ様が担当になっている。
「申し訳ありませんが、そうさせてもらいます」
無理を言って徹夜をしても結局は足手まといになってしまうので、ここはお言葉に甘えておく。
「気にするな、今日は疲れただろう?」
ジオ様が気遣ってくれている。
横になって少しうとうとし始めた時だった。
ドオオオオオオン!
遠くの方から轟音が響いてきた。