6話 勇者の弟子と獣人の会合
宴のあと片付けが終わって、朝食を食べたあと、あらためてニニやこの島の幹部達と会合を行なった。
会合の席にはニニの他に、狼頭や獅子頭などの獣人たちが並んでいた。
一方、私の方は、ミラとレダ、それにジオ様が出席している。
シィラにはルルのお守りをお願いして席を外してもらっている。
ジオ様は私の隣に席を設けてもらった。
座るとテーブルに隠れて見えなくなるので、椅子の上に腕を組んで立っている。
「ではあらためまして、異国からの使者の方々との会合を始めます」
ニニの挨拶で会議が始まった。
「では、ララ、皆さんの紹介をお願いします」
「それでは、改めて自己紹介させていただきます。『勇者』ララです。今回はこの地域に魔物の大量発生が起きると予測があったのでまいりました。この島の存在や習慣など把握していなかったために、皆さんにはご迷惑をおかけしました」
私は自己紹介のあと、続けてミラやレダの紹介をした。
そして最後にジオ様を紹介した。
「そして、この子が私の息子のジオです。こう見えて私に匹敵する戦闘力を持っていますので魔物相手に有効な戦力になります」
「ばかをいうな!そんな赤子に魔物が倒せるもんか!」
・・・まあ、当然の反応だよね?
「それは実戦で証明できると思います」
「まあいい、それほど言うなら後で力試しさせてもらおう」
獅子頭がそう言った。
獅子頭はどうやらこの国で最強の戦士らしい。
「それで、魔物の攻勢の対策を考えたいんだけど、この国って今までも魔物の襲撃はあるんだよね?」
「はい、下級の魔物でしたら、日常的に出現します。それほど多くはありませんが、毎日一定数の下級の魔物が海からやってきます」
「海から?・・・地上では魔物は発生しないの?」
「魔物は必ず海からやってきます。海辺以外の内陸部で魔物が発生したという話は聞いた事がありません」
・・・魔法が使えないこの島の特性と関係があるのかな?
魔物の発生原理はわかっていないけど、島の中では魔物を発生させる条件が成立しないって事だね。
「海からって事は、やっぱり魔物の種類は水棲の魔物ばかりって事かな」
「そうですね、魚の様な魔物や、海の生物っぽい魔物がほとんどです」
・・・それは良かったよ。陸上系の魔物は動物に似たものが多いから、ここの獣人たちの前で倒すのはちょっと気が引けるからね。
・・・特に『山羊頭』なんて、ここの獣人の山羊の顔した人とそっくりだからね!
「魔物がやって来るのはどの方角からとか、傾向はあるの?」
「魔物は大体南側の海岸から上陸してきます。ララ達がやって来た北側の海岸から来た事はほとんどありません」
「じゃあ今回も南側の海岸を警戒していればいいかな?」
「はい、その体制は既にできています。常時交代で南の海岸を監視させています」
「そっちは問題なさそうだね。じゃあ、魔物の大量発生の兆候が見えたらすぐに駆け付けるよ」
「もし『上級の魔物』が現れたらどうします」
「その時は私とジオで対応する。みんなは危ないからその時は退避して!」
「おいおい、さすがにおかしいだろ?『上級の魔物』を女と赤ん坊だけで倒すだと?」
獅子頭が私を睨みつける。
まあ、当然の意見だよね。
「そうですね、じゃあ、この後、腕試しに模擬戦でも行いますか?」
「望むところだ。あんたらがどれほどのものか試してやる」
話し合いも大体終わったし、みんなを納得させるには実力を見せるのが一番だよね!
私達は競技場らしきところへ連れて来られた。
「その赤ん坊の相手は俺がやる。それでいいな?」
獅子頭がジオ様の前に出た。
「ええ、問題ないわ。私の相手は誰がやるの?」
狼頭とは一度戦ってるけど、あの時はレダも一緒だったからね。
「あたしがやるわ」
黒豹頭のお姉さんが名のりを上げた。
「そいつはここで俺の次に強い戦士だ。実力を試すには丁度いいだろう?」
「ええ、望むところよ」
「じゃあ、あたし達が先で良い?」
「ああ、かまわん」
まずは私と黒豹頭の対決となった。
私は練習用のレイピアを手にした。
相手の黒豹頭は何も持っていない。
「あなたは武器はいいの」
「あたしの武器はこれよ!」
黒豹頭は両手の爪をむき出した。
そして鋭い牙を見せた。
「なるほどね、じゃあ始めましょうか?」
開始の合図とともに、黒豹頭は私に急接近してきた。
予想以上の速さだ。
そして距離をつめたところで鋭い爪が襲い掛かる。
これ、練習用のレイピアで受けたら、刀身がばらばらに切り刻まれる奴だよね?
私はレイピアで受けずに体を逸らしてこれを躱し、そのまま体勢を低くして体を捻りながら黒豹頭の脇をすり抜けた。
「初見で今の攻撃を避けるなんて、あなた、中々のものね」
「避けるのは得意なので」
言いながら私は反撃に入っていた。
脇をすり抜けながら進路を変え、Uターンして背後からレイピアで切り付けていたのだ。
黒豹頭はありえないくらい体をくねらせて、私の攻撃を躱した。
・・・さすが、猫科だけの事はあるよね。
私でもあそこまで体を曲げるのはさすがに無理だ。
「あそこから、攻撃が来るなんて、やっぱり、ただ者では無かったわね」
「あなたの方こそ見事な身のこなしだったよ」
話ながら私は既に次の攻撃に入っている。
反撃の隙を与えない連続攻撃だ。
しかし、黒豹頭は私の連続攻撃を巧みに躱していく。
そして、その連続攻撃を躱しながら、私に攻撃を仕掛けてきた。
私も紙一重でそれを躱す。
すると今度は黒豹頭の方が、私に連続攻撃を仕掛けてきた。
私の方もそれを全て躱しながら、更に攻撃を返す。
お互い有効打を決められないまま、激しい攻防が続いた。
そして、 黒豹頭が一旦距離を取った。
「まさか、ここまでやるとは思わなかったわ」
「あなたもね、私とここまでやり合うなんて、かなりのものだよ」
「・・・でもこれで手加減しなくて済むわね」
黒豹頭はそう言うと、服を全て脱ぎ捨てたのだった。




