10話 勇者の弟子と初めての島
「ララ!陸が見えて来たよ!」
レダが指さす方を見ると確かに陸地が見えた。
・・・しかし、予定の新大陸まではもう少し距離があるはずなのだ。
この場所に島や陸地は無かったはずなのだが・・・その地図もどこまで信ぴょう性があるかわからない。
何せこの海域に立ち入って戻って来た者の記録など無いのだから・・・
「とりあえず一旦上陸してみよう」
魔動馬車の進路を目の前の砂浜にむけて、速度を落としながら近づいていった。
しかし、あと少しで陸地というところで異変が起きた!
魔動馬と魔動馬車が突然水没し始めたのだ!
魔動馬も魔動馬車も魔力で水面から僅かに浮いているはずなのだが、水の中に沈み始めてしまったのだ。
とにかく、このまま完全に沈んでしまうと脱出が困難になってしまう。
「みんな、一旦魔動馬車から出て海に飛び込んで!」
私はルルを抱いて、魔動馬車のまだ水没していない御者台に登って馬車の外に出た。
他のみんなも脱出できたね?
「原因がわからないけどこのままだと沈んじゃうから陸にあがろう」
私たちは海を泳いで砂浜までたどり着いた。
その頃には魔動馬と魔動馬車は完全に沈んでしまっていた。
「どういう事でしょう?これは?」
シィラが私に質問した。
陸地にあがった私にはその理由がなんとなくわかっていた。
「この陸地に近づくと、どうやら魔法が使えなくなるみたいだね」
「魔法が使えなくなるというと、『鬼』みたいな効果があるという事ですか?」
「魔力が阻害されているというよりは、どちらかというと周囲から魔力自体が消失している感じだね」
「魔力が消失というのは?」
「魔力を体の外に放出しようとすると、その瞬間に消滅するんだよ。体の中で使おうとしても同じみたいだから、身体強化や治癒魔法なんかも使えないみたいだね」
「つまり魔法使いが、ただの人間になってしまうという事ですか?」
「うん。それに魔道具や魔動馬、それに魔動馬車の様な魔力で動いている物も動かなくなってしまうって事だよ」
「それで馬車が沈んじゃったんだね?」
「それで、これからどうすればいいのでしょうか?」
「この島から脱出するんだったら、沈んじゃった魔動馬車と魔動馬を沖まで引っ張っていって、魔力が使える様になったら、ここから離れればいいんだよ」
「では早速、海の潜って魔動馬車を移動させましょう」
「まあ、焦らなくてもいいよ。それよりも人類未踏の島にはじめて上陸したんだよ。折角だから島の中を探検してみようよ」
「・・・ララ様ならそう言うと思いました」
シィラが少し呆れ顔だ。
「とりあえず、海に潜って魔動馬車から必要な物をとって来るよ」
「あっ!あたしも行く!泳ぎは得意だよ!」
レダも私と一緒に海に潜った。
・・・レダはもちろん全裸になっていた。
私の方は前に買っていた水着に出来る服を着ていたのでパレオを外して水着になっている。
魔法が使えないから人魚モードにはなれないので、下もしっかり穿いたままだよ。
海に潜ると、それほど深くないところに魔動馬車と魔動馬が沈んでいた。
転倒したり引っかかったりはしていなかったので、これなら沖まで移動させるのは何とかなるかな?
魔動馬車の中に海水が入らない様に床下の蓋を外して中に入った。
一応、浸水はしていなかったみたいだ。
「わあ!何だが海底の秘密基地みたいで楽しいね!」
窓からは海名の中の様子が良く見えた。
「みんなの着替えとか、必要最小限の物だけ持って行くよ」
みんな普段着で脱出してしまったので、装備や武器、それに着替えなど見繕って、水を通さない袋に詰めた。
「じゃあ、戻るよ。レダ」
荷物を半分レダに持ってもらって、床の穴から外に出た。
床の蓋は水が入らない様にしっかりと蓋をしておく。
一応、魔動馬車が海流で流されない様にロープで近くの岩に縛り付けた。
倒れたままの魔動馬たちは、ちょっとかわいそうだけど、このままで待ってもらう事になる。
砂浜に戻ると、ジオ様が取ってきてくれた魚が並んでおり、同じくジオ様が切って来てくれた木材が転がっていた。
どうやらジオ様の腕力はいつも通りに使えるみたいだ。
勇者の力はやっぱりこうい時でも特別なんだね。
でも魔法は使えない様だった。
「じゃあ、折角だから食事にしようね」
私はジオ様が取ってきてくれた魚を料理し始めた。
こんな事もあろうかとサバイバル用の料理セットを魔動馬車から持ってきたのだ。
ジオ様の方はその間に木材で簡単なテーブルや椅子を作り始めていた。
今までに何度か家作りや家具作りを経験して、ジオ様はすっかり木工が得意になってしまった。
いいお父さんになれるよね!・・・ってまだ赤ちゃんだけどね。
「さあ!出来たよ!」
私はジオ様の作ったテーブルの上に料理を並べた。
「定番の魚料理だけど、この島で初めて見た魚だから、いつもとちょっと違った味になってるよ」
初めて使う食材なので一応毒見はしている。
色や形は少し違うが、いつも食べている魚と同じ種類だとわかるから、調理方法もそれに合わせてみたのだ。
「さあ!召し上がれ!」
「「「「いただきまーす!」」」」
半ば遭難状態の私たちは、砂浜で暢気に食事を楽しんだのだった。




