10話 勇者様と魔物の牙
ジオ様の背後に口を大きく開いた棘狼がいた。まさにジオ様に噛みつく瞬間だった。
「ジオ様!」
私はとっさにレイピアを抜いて棘狼の方に跳躍していた。
今の装備なら棘狼でも倒せる!
『附加装備』のブーツのおかげで私の速度は格段に速くなっていた。
しかし、私のいた場所からの距離と棘狼の速度を考えると間に合うのだろうか?
ジオ様の元まで移動する一瞬がとてつもなく長く感じた。
(もっとはやく!もっと!)
私はさらに加速する。
棘狼の牙の先端がジオ様の肩口に突き刺さろうとしている。
ジオ様はまだ私の方を見ていて、棘狼に反応していない。
(だめだ!間に合わない!)
ジオ様が死んでしまう!!
私は頭の中が真っ白になった。
次の瞬間、
棘狼は上下の顎が分かれ、口から尻尾の先まで全身が真っ二つに上下に分かれていた。
何が起きたのか、見えなかった。
上下2つに分かれた棘狼は上側が左に下側が右にずれて、左右に吹き飛んで蒸気を吹きだす。
間には何事も無かったかのように、そのままこちらを見て立っているジオ様がいた。
私の目からは時間差で涙があふれ出していた。
「ジオさまぁぁぁ!」
私はそのまま泣きながらジオ様に抱き着いた。
「どうした?怖かったのか?」
ジオ様は少し困惑しながら私の頭にポンっと手を置いた。
「ジオ様が・・・死んじゃうかと・・・思いました・・・」
「そうか?心配させたな。あれくらいは大丈夫だ」
私は絶望感と安堵で頭の中がぐちゃぐちゃになり、しばらく泣き続けてしまった。
泣くだけ泣いたらようやく落ち着いてきて涙がおさまってきた。
冷静に考えたら勇者があの程度の魔物に殺されるわけが無かった。
「・・・お見苦しい所をお見せしました」
私が泣いている間、抱き着いている私をジオ様は両手で優しく包み込んでいてくれた。
「いや、こちらこそすまない。すぐにあいつを倒せばよかったんだが、必死の表情で駆けてくるララに見とれていて対応が遅くなった」
「私に、・・・見とれていた・・・んですか?」
(あの時、動かないと思ったら私を見ていたから・・・ですか?)
あの緊急事態の最中にいったいどうゆう事?
「俺に対してあんなに必死に『助けたい』という感情をぶつけてくる者はいなかった」
(あっ、あの時は私がジオ様を助ける事しか考えてなかった。ジオ様だったら当然自分で対処できたのに!)
「ララの感情があまりにも強烈で、新鮮で、・・・目が離せなくなってしまった」
「すみません、私が余計な事をしたために・・・」
「そうではない。誰かが自分を助けようとしてくれる事がこんなに嬉しい事なのかと初めて知った。勇者である俺までも救おうとするララの魂は、すでに俺以上に勇者にふさわしいのだろうな」
「ジオ様・・・」
私は再び涙が溢れ出していた。
ジオ様は私を優しく包み込んでくれた。




