2話 勇者の弟子と家族の再会
久しぶりに、自分の家でしばらく過ごす事が出来たけど、そろそろ次の魔物の大量発生の予想時期が近付いてきた。
剣術大会も無事に終了したし、次の遠征に行かなければならない。
今度の予想地点は、これまで誰も行った事の無い、未知の島だ。
一応世界地図の中には描かれているのだけど、過去に誰も訪れた記録が残っていないのだ。
というのも、私達が住んでいるこの大陸から、シンの帝国のある大陸を越えた、更に向こう側にある島なのだ。
シンの帝国のある大陸も、人類が住み始めた歴史はこの大陸よりも浅く、その向こうにいくつかの島や陸地がある事はわかってはいるのだけど、人類がそれらの地に行って来たという記録は残っていないのだ。
というのも、海には海の魔物がいるからだ。
人魚の里を襲った水棲の魔物たちは世界中の海に存在していて、船で長い時間海を渡るのは自殺行為とされている。
この大陸からシンの帝国の大陸へ渡るにしても、船での移動は、大きなリスクを伴うため、多くの護衛を引き連れての、大船団で移動する必要があるのだ。
それでも毎回、多少の犠牲は発生している。
少人数で気軽に行き来ができる場所ではなかったのだ。
だから年に数回の貿易船の行き来があるだけで、それぼど密に関係があったわけではなかったのだ。
前回、国家間の戦争が起きると懸念はしていたものの、大規模な戦争を起こすためには多大な犠牲を必要としていたのだった。
まあ、とは言っても私にとっては海の魔物は大した脅威ではないし、今となっては転移魔法陣を繋いじゃったから、いつでも気軽に行けるんだけどね!
でも、一応表向きは、帝国には簡単に行き来は出来ない事になっているのだ。
「ララ!しばらくはこっちにいられるの?」
レダはティータイムのお菓子をつまみながら、私に尋ねた。
「数日はここに滞在しようと思うんだけど、すぐに次の目的地に行かないといけないんだよね」
「えーそうなの?しばらく一緒にいられると思ったのに!」
「わたくしも、久しぶりにララと会えて嬉しかったのに、またすぐにお別れだなんて!これでは何のためにシンの妻になったのかわかりません」
ミラってば・・・皇帝の妃になったのにそれってどうなの?
そう・・・ここは帝国の後宮の私の屋敷だ。
久しぶりに顔を出したら、すぐにミラとレダがやって来てお茶会が始まってしまった。
「ジオとルルも大きくなったよね?」
「そうだね、ルルも寝返りができるようになったし、そろそろ離乳食の時期かな?」
そして、ジオ様の方は、普通に座ってティーカップで優雅に紅茶を飲んでいた。
ジオ様は、ここではすっかりこれが当たり前になってしまったので、あえて赤ちゃんの演技をする必要は無くなってしまったのだ。
赤ちゃん大好きなレダも、ジオ様には絡みづらいみたいで、さっきからルルをあやして遊んでいた。
「そういえば、ミラにもそろそろ赤ちゃんが出来てもおかしくないよね?」
レダがミラに問いかけた。
「今のところは、まだみたいですね」
「ミラってば、シンと毎日してるんだもん、そろそろなんじゃないかな?」
「ええっ!毎日って、シンとミラってそんなにアツアツなんだ!」
「いえ!これには事情が・・・・」
「事情って何?」
「それは・・・・・」
「ララが来ていると聞いたが?」
そこにシンが現れた。
「シン!ひさしぶり!」
「おお、相変わらず元気そうだな、ララ」
「シンも元気そうでなによりです」
「ジオ殿とルルも元気そうだな。しばらく見ないうちにまた大きくなったか?」
「はい!ルルもだいぶ活発に動く様になって来たんですよ」
「そうか、順調に育っている様で何よりだ。ジオ殿も元気そうだな」
シンがジオを見るとジオ様もシンの目を見つめてうなずき、しばらく二人は目と目で会話している様だった。
・・・なんか、やっぱりこの二人、親密度があやしいんですけど?
「ところで今回は長くは滞在できないと聞いたが?」
「はい、次の任務が入っていますので3日後には出発します」
「そうか、まあ、それまではここでゆっくりと休むといい」
「はい!そうさせて頂きます!」
「今度はどこに行く事になったのだ?」
「この大陸から海を渡った、未開の島です」
「なに!この大陸の南の海を渡るのか?」
南の海というのは、先日のレダの国に魔物が押し寄せてきた海の事だ。
「この大陸の南側は、北側の海のよりも水棲の魔物の出現数も多く、魔物の脅威度も高い危険な海だ。だから我々もいまだ進出していない」
「そうなんだけど、行かなきゃいけない事情が出来てしまったんです」
「そうか、手伝える事があれば出来る限り力を貸すが、あいにく、大陸の外では俺が同行するのはさすがに無理だ」
確かに、皇帝がそう簡単に長期で不在になる訳にもいかないよね。
前回のレダの国は一応帝国の中だったからね。
「じゃあ、あたしが手伝おうか?」
「それなら、今回はわたくしもついて行きます!」
レダとミラが二人とも来てくれるの?
「妃が全員不在になったらまずいんじゃないの?」
「俺が王都に残るのから問題無いだろう」
シンってば・・・愛する妃が一人もいなくなても大丈夫なの?
「やったあ!じゃあ決まりだね!」
「これで今回はララとずっと一緒にいられます!」
二人ともすっかりその気になっちゃったよ!
「でも、出発までの間は四人で一緒に過ごそうよ!」
「そうですね、こうして家族が全員揃う事も少ないですし」
「じゃあ、早速今日は四人で一緒にお風呂に入ろう!」
「レダ、四人一緒って?」
「いつもはシンとミラとあたしの三人で一緒に入ってるんだよ」
「そうなの、レダも一緒って・・・シン、レダにはまだ、変な気を起こしちゃだめですよ?」
「それなんだが・・・」
「その・・・シンがレダにそういう気を起こさない様に、わたくしが毎晩、その・・・相手をしているのです」
「ああ、なるほどね!そういう事か」
「あーあ、あたしも早くシンとしたいなぁ」
「もう少し大きくなるまで我慢しようね!」
「はーい」
ふふ、レダは相変わらず素直でいい子だよね!
「その代わり、今日はララにいっぱい甘えちゃおう!」
「うん!今日は私がいっぱい甘えさせてあげるよ!」
レダって、何だか自分の娘みたいでかわいいんだよね!
「わたくしも・・・ララに甘えたいです!」
ミラってば・・・シンの相手もしてあげてね。
そうして、私は帝国における家族のみんなと一緒に、のんびりとお風呂に入ったのだ。
・・・ちなみにジオ様は、ミラとレダの裸を見る訳にはいかないと言って、ルルと二人で別のお風呂に入ったのだった。




