13話 勇者の弟子と希望の魔女
「師匠!ヒナ!無事か?」
元の場所に戻ってくると、弟子のゲンが待っていた!
「ゲンさま!来て下さったんですね!」
ヒナちゃんはゲンに抱きついていた。
「怪我はないか?ヒナ」
「はい!大丈夫です!」
「そうか、良かった・・・」
ゲンもヒナちゃんを抱きしめていた。
いい雰囲気だけど・・・シアちゃんと遠距離恋愛中に浮気しちゃだめだぞ!
「師匠!ヒナをこんな危険な事に巻き込むなよ」
そんなゲンから私が怒られた。
見事な過保護っぷりだよ!
「ゲンさま、わたしのせいなんです!ララさまは悪くないです!」
「いや、ゲンの言う通りだよ、私が甘かったせいでヒナちゃんを危険な目に遭わせてしまった。でも今回、ヒナちゃんのおかげで助かったところも多かったんだよ」
「そうなのか?」
「うん、それにゲンのおかげも大きかったかな?」
「俺が?今回俺は何もしてねえぞ?」
「ゲンがヒナちゃんを大事にしていた事が大きな意味を持っていたんだよ」
「・・・意味がわからねえな」
(ララ、転移先で何があった?)
ジオ様は目を覚ましたルルをあやしながら私に話しかけていた。
(そうだ!、ジオ様。向こうで『魔王』に会ったよ!)
私はルルを抱き上げながらジオ様に返事をした。
(魔王だと?大丈夫だったのか?)
(うん、ヒナちゃんのおかげかな?)
「ゲンも聞いて、転移先で『魔王』に会ったよ」
「何だって!『傲慢の・・・』・・・・・いや・・・何でもない」
ヒナちゃんにはこの話はまだしてないからね。
ヒナちゃんは不思議そうな顔でゲンを見て、首を傾げていた。
「大丈夫だったのか?あいつがヒナを連れて行こうとしたのか?」
「うん、でも今回は見逃してくれたみたい」
「今回はって、次もあるってのか?」
「この件は簡単に解決するものではないからね。でも、本当に、ヒナちゃんが助かったのはゲンのおかげっていうが大きかったんだよ!」
私は背伸びして、ゲンの頭をぽんぽんした。
だいぶ私より背が高くなってきたよね。
このままいくとジオ様に追いつきそうだよ!
って、今のジオ様と比べたら、全然大きいんだけどね・・・
「子ども扱いすんなよ!師匠!」
「大人になったって言ってるんだよ?」
「なっ!」
ふふっ、赤くなってうろたえてるゲンがちょっと面白い。
「お二人とも仲がいいんですね!羨ましいです」
「ヒナちゃんだってゲンと抱き合ってたじゃない?十分仲がいいよね?」
「ふふふっ、ゲンさまが来てくれたのが嬉しくって、咄嗟に抱きついちゃいましたけど、シアさまに嫉妬されてしまいます。この事はシアさまには内緒にしておいて下さい」
「あはは!次にシアちゃんに再会した時にゲンがシアちゃんの事を目一杯愛してあげれば大丈夫だよ!」
「・・・師匠!その、含みのある言い方、やめてくれ!」
私のイケメンの弟子は本当にモテモテだよね!
それもこんな、とびっきりの美少女ばかりだもんね!
出会った頃は、まだ少し子供っぽさが残ってたけど、最近ではすっかり大人びて来て、私でも時々、ドキッとする瞬間があったりするからね。
・・・本人には言わないけど!
見た目の容姿もだけど、やっぱり目的をしっかり持って、頑張ってる男の人ってかっこよく見えちゃうものだよね?
「それで?・・・詳しい話を聞かせてくれよ」
ゲンが、真面目な顔で聞き返してきた。
・・・そういう、真剣な表情がかっこいいんだってば!
まあ、それはさておき、ジオ様も同じ様に真剣な表情で私の話を聞こうとしてるから、真面目に説明しないとね!
「『魔王』はどうやら仲間を集めようとしているみたいだね」
ヒナちゃんがいるし、ここはあえて『魔王』って単語で話を進める事にした。
ジオ様とゲンにはそれでも話が通じるからね。
「仲間を?・・・それって師匠に対抗するためって事か」
「私というか、人類を一掃するためにって事だろうね。どうやら、『力』を秘めた人材で人間に恨みを持っていそうな人を自分の陣営に引き込もうってつもりみたいだね」
「それって、あの囚人が・・・そうなのか?」
「多分ね。それに、ヒナちゃんにもその可能性を感じてたみたいだよ。まあ、ヒナちゃんは違うって事はわかったみたいだけど、同様の力を持っている事は確かだからね。仲間に引き込めるなら引き込むつもりだったみたいだよ」
「それじゃ、やっぱりヒナがまた狙われる可能性が・・・」
ゲンってば、ほんとヒナちゃんの事が心配みたいだね。
「それなら大丈夫だよ」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
「『魔王』が仲間にしたいのは、人間に対して強い恨みを持っている人なんだよ。だけど、ヒナちゃんは『魔王』に向かって人間が大好きです!って、思いっきり宣言したからね。それが本心だっていうのは十分伝わったと思うよ」
「ヒナ!あいつに向かってそんな事言ったのか!」
「はい!だってほんとの事ですから!」
「『魔王』もヒナちゃんが人間に対して本気で希望を持ってるって事は察したみたいだから、今後ヒナちゃんが狙われる事は無いと思うよ」
「結果的に解決したんならいいけど、あんまり危ない事するなよ」
ゲンも納得したみたいで、少しだけ安堵の表情をした。
「今回ヒナちゃんが無事だったのは、ゲンがヒナちゃんを助けてあげたからだよ。だから、今回の事件の一番の功労者はゲンかもしれないね」
「なんだよ、その、取って付けたみたいな功績は?」
「でも本当ですよ!ゲンさまや、シアさま、それにララさまやみなさんのおかげで、わたしはこの世界のみんなが大好きになったんですから!」
「ヒナちゃんがその中でも一番好きなのは誰かさんかもしれないけどね!」
「ララさま!それはっ!」
「師匠!何言ってんだ!」
ふふふ、二人とも真っ赤になってるよ!
これはシアちゃん、早く帰って来ないとまずい事になるかもよ?
(それにしても、『傲慢の魔女』が協力者を集めているとなると油断は出来ないな)
ジオ様が念話で話しかけてきた。
(はい、ジオ様、今回魔女の可能性のある女性を連れていかれてしまいました。彼女が人間に憎しみを持った状態で覚醒してしまったら厄介です)
(こちらも早めに手を打った方が良さそうだ)
(はい、『静慮の魔女』との接触は引き続き継続しつつ、こちらも他の魔女候補の捜索を本格的に考えた方が良さそうですね。覚醒前の魔女は不幸な境遇の場合が多いですから)
(そうだな、本当の魔女ではないが、ヒナやあの事件にかかわった少女たちは、下手をすると『傲慢の魔女』に引き込まれていたかもしれないのだからな)
そうなのだ・・・その事件にかかわった、ヒナちゃんをはじめとする大勢の少女たちは、皆が不幸な過去を背負って人間と世界に絶望していたのだ。
(でもそれも、シアちゃんたちが、彼女たちの心のケアを頑張ってくれているおかげで、きっと他の子たちもヒナちゃんの様に立ち直ってくれるはずです)
(そういう意味では見事に立ち直ったヒナは、あの事件の少女達や、覚醒前の魔女たちにとっての希望なのかもしれないな)
さすがジオ様、いい事言うなぁ・・・
「師匠?さっきからジオと何話してんだ?」
私が念話でジオ様と話し込んで無言になってしまったので、ゲンとヒナちゃんが不思議そうにのぞき込んでいたのだ。
「ふふふ、ヒナちゃんが魔女たちの希望になるかもしれないって話だよ!」
「わたしが魔女の希望ですか?」
ヒナちゃんは人差し指を口元に当てて首を傾げていた。
「うん!もしヒナちゃんが魔女だったら・・・さしずめ『希望の魔女』ってとこだよね!」
第二部 第7章 【勇者誘拐】 完結です。
今回の章はスピンオフ作品である【勇者を名のる剣聖の弟子】の、逆スピンオフの様な内容になっています。
そちらも併せて読んで頂けると、より楽しめると思います。
それから、新作【A.E.エゴロイドと世界で最後の少女】も連載しています。
まだ始まったばかりですが、興味のある方は読んで頂けると幸いです。




