9話 勇者様と魔結晶
「でもさすがだね。中級の魔物を単独で倒すなんて、上級剣士レベルだよ?」
セナ様が話しかけた。
「下級の魔物だと思ってました。下級剣士になったからには倒せるようにならないとって思って」
「普通はね、下級の魔物は下級の剣士と魔法士が数人のパーティーを組んで倒すものなんだよ」
「えぇ!そうだったんですか?」
「中級の魔物は中級のパーティー、上級の魔物は上級のパーティーで倒すのがセオリーだね」
「中級以上の魔物を単独で倒そうなんて変態はジオ君とゼトぐらいなもんだよ」
「・・・私も変態の仲間入りですか・・・」
「お前もそうだろうが!」
ジオ様がセナ様に突っ込みを入れた。
話している内に、鱗猿は完全に蒸発してしまった。
「ララ、魔結晶を拾ってこい」
ジオ様に言われて鱗猿がいた場所に行く。
「これが・・・魔結晶?」
自分の握りこぶしより少し小さいぐらいの赤い石がほんのり光っている。
「ああ、この光り方だとまだかなりの魔力が残っているな?」
「どういうことですか?」
「魔結晶は魔力を蓄える性質があってね、まぁ魔物のエネルギーの源ってところだね」
セナ様が説明を始めた。
「魔力っていうは人間の体内で生成されるけど、自然界や大気中にもわずかに存在するって事は知ってるよね?」
「はい」
「魔物の発生原理はいまだ解明されていなんだけど、膨大な魔力を秘めた魔結晶を持って誕生する。その後は自然界の魔力を吸収したり人間を殺して魔力を奪うんだ。でも魔物の活動に必要な魔力に比べて自然界の魔力は希薄だから魔物は人間から魔力を吸収しないと魔結晶の魔力が減少してやがて消滅してしまのさ」
「この魔結晶は魔力がほとんど減っていないという事は、あの魔物は生まれたてか、大量の人間を殺したかどちらかという事ですか?」
「その通り、この近辺で最近で人間が大勢被害にあったという報告はないから、おそらくこの魔物はまだ発生したばかりじゃないかな?」
「とりあえずその魔結晶はお前が持っていろ」
「はい」
魔結晶をポーチの中にしまった。
「ゼトの方はどうなったかなあ?」
「片付いたぞ」
ゼト様がやってきた。
「まったく、中級を俺一人に押し付けていきやがって!」
「でも楽勝だったでしょう?」
「まあな」
「お嬢ちゃんの方は無事だったか?」
「無事も何も、ララちゃん一人で中級を倒しちゃったよ」
「へぇ!そりゃすげえな!」
「この装備のおかげです!色いろすごくってびっくりしました!あっそうだ!」
「どうしたの?」
「魔物用の矢を放ったままでした。ちょっと回収してきます」
私は、矢を放った方に駆け出した。
「一人で行動するな!」
すると隣にジオ様がついて来ていた。
「すみません。矢を回収したらすぐ戻るつもりでしたので」
「目撃情報は『上級の魔物1体』だったが、実際には中級2体だ。まだ他にもいるかもしれん」
「そうか!そうですよね」
(ジオ様、心配してきてくれたのかなぁ?)
「矢はどのあたりだ?」
「この先で最初に魔物を射抜いて、矢は貫通して向こうに行ったはずです」
矢の軌跡を追うのは簡単だった。
魔物を貫通した後、さらに一直線上にある木を何本か貫通してその先の木の幹に刺さっていた。
「すごい貫通力ですね。ここで止まってなかったら見失うところでした」
「もう一本はこれだな?」
すでにジオ様が2本目を回収に向かっていた。
「ありがとうございます!」
「あいつらのところに戻るぞ」
「はい」
ジオ様の方を振り向いたところで、私は凍り付いた。
こちらを見ているジオ様の背後には大きな魔物が迫っていた。