10話 勇者様と廃村
(ララと出会う前の事だ。魔物の出現の報告を聞いて、この村に駆け付けたのだが、俺が来た時にはもうほとんど壊滅状態だった)
「ひどい状態ですね・・・私が住んでいた町もジオ様が来るのが、あと少し遅かったらこうなっていたのかもしれませんね・・・」
(その、あと少しをララがつないでいてくれたから、あの町はこうならなかった)
ジオ様は小さな手で私の頭をぽんぽんとしてくれた。
ちょっと、ジオ様と初めて出会った時の事を思い出して、感傷にふけってしまったよ。
「さて、手下の話が正しければ、村の中に比較的損傷の少ない家が一軒だけ残っているはずです」
この村のいたるところに、初めて見るタイプの索敵魔法や索敵攪乱魔法が掛けられてる。
これらはおそらく、あのリーダーの仕業だろうから、あいつらのアジトはここで間違いは無いはず。
ルルとヒナちゃんの安否にかかわるから向こうに気が付かれない様にしないとね。
しかし、次から次へと新しいタイプの索敵魔法やら攪乱魔法やらが出て来るんだけど、あのリーダー、ほんと何者なんだろう?
そして・・・索敵魔法は妨害されてるけど、私は普通に人のわずかな気配を察知する事が出来る。
この廃村・・・かなりの人数が潜んでいるよね?
私とジオ様は一応、がれきなどに身を隠しながら村の中を調べて回った。
やはりほとんどの家屋が全壊していたが、一軒だけ比較的大きな破損もなく残っている家を発見した。
おそらくこの家だろう。
周囲の人の気配がこの家に注目しているのを感じている。
あからさまに罠だよね?
とは言っても、私とジオ様だし、いざとなったら強行突破すればいいだけだからね!
私たちは、その家の近くまで移動し、窓から中を覗き込んだ。
・・・部屋の中央には・・・ルルが寝かされていた。
他には・・・誰も見当たらない。
リーダーや奪われた囚人、それにヒナちゃんはここにはいないのかもしれない。
でも、とにかくルルを助けよう!
私は窓をけ破って家の中に入った。
ルルさえ取り返せば見つかっても問題ない。
「ルル!」
私はルルを抱き上げた。
ルルは寝息を立ててすやすやと眠っていた。
「こんな時まで眠っているなんて・・・でも無事で良かった」
私はルルに頬ずりをした。
「へっへっへ、言われた通り張り込んでたら本当に来やがったぜ」
そこに誘拐犯の手下どもが現れたのだ。
「多少腕が立つのかも知れねえが、女一人でこんなところまで来るとはな」
「一人じゃないよ、二人で来たんだよ」
私は肩にしがみ付いているジオ様とアイコンタクトした。
「はっ!赤ん坊を連れて来ても足手まといが増えるだけだろ?赤ん坊を二人も抱えてこの人数相手にどうする気だよ?」
「いいからさっさとやっちまおうぜ!しかし、子持ちとは思えねえくらいいい女だな」
「バカ野郎!女ってのは子供を産んだ後の方が具合がいいんだぜ!」
「そうなのか?そいつは楽しみだぜ!」
・・・さっきから好き勝手な事言ってるよ。
今のは完全にセクハラ発言だよ!
(しかし、ララの体が出産後、更に魅力的になったのは本当の事だ)
ジオ様!そういう事、素で言わないで下さい!嬉しいですけど!
「おっ!この女赤くなったぞ!その気になってんじゃねえのか?」
「もう我慢できんねえ!俺から行くぜ!」
バカな男どもが一斉に襲い掛かって来たよ。
ズボンを脱ぎ始めているバカもいる。
ジオ様は私の元から離れて、迫って来た男の一人に体当たりして吹っ飛ばした。
そして次々と、男どもを蹴散らしていく。
大方はジオ様が倒してくれているのだが、数が多すぎて、何人かは私の方に来てしまう。
私はズボンを脱いで迫ってくる男の股間にルルを抱いたままで膝蹴りを入れた!
戦闘の最中に急所をさらけ出して迫って来るって、どういう了見なの?
って、ところでこの男・・・どこぞの王様って事は無いよね?
・・・見るからに品がなさそうだし・・・さすがにそんな偶然、二度は無いはず・・・だよね?
それよりも、私の服装はスカート姿のままだったので、生膝で直にあれを蹴っちゃったよ!
男が下着を脱ぎ掛けだったから、蹴った時に下着がずれて、ちょっとだけあれに膝が直接触れちゃったのだ。
うわー!最悪!
男は股間を押えてもだえ苦しんでいるけど、表情がちょっと嬉しそうなのが更に気持ち悪い!
そこのあなたたちも!股間をおさえて苦しんでる仲間を羨ましそうに見るんじゃない!
っていうか今すぐ膝を洗いたいよ!
この気持ち悪い男のあれに触れたところを一秒でもそのままにしておきたくない!
私は男どもににらみを利かせて威嚇しながら、その隙に魔法で膝のところに水を発生させて膝を洗い流した。
「「「「おおーっ!」」」」
すると、なぜか男どもがどよめいて興奮し出したのだ。
・・・・・あーっ!もしかして!・・・私がお漏らししたと思ってる!?
傍から見ると、私の太腿をつたって、おしっこが流れて来た様に見えてたってこと?
「ちっ!ちがうからっ!これはおしっこじゃないからねっ!」
・・・失禁じゃないと言っても、それじゃあ何なのか、説明のしようもないのだけど・・・
しかし変に興奮度が増した男どもが一斉に私の方に迫って来た。
ルルをだっこしてるから基本的に足技でさばくしかないんだけど・・・
乱戦になって来て、時々ハイキックも織り交ぜないと対処できなくなっていたのだ。
胴体よりも頭に一撃を入れて気絶させた方が手っ取り早いからね!
ルルに負担をかけない様に、軸足はしっかり地に付けたままで、もう一方の足を蹴り上げるしかないんだけど・・・
・・・当然、見る角度によってはスカートの中が丸見えって事だよ!
っていうか、こいつら、わざと高い位置に攻撃させようとしてきてるよね?
一撃で相手を気絶させるには、後頭部に蹴りを入れるか、鳩尾に膝蹴りを入れる事になるんだけど・・・どっちも片足を高く上げる事になってしまうのだ。
そしてスカートの中が見える位置に他の連中が待ち構えてたりする。
私が一人倒すごとに、どよめきと歓声が上がるのだ。
・・・なんで、愛する旦那のいる前でこいつらにスカートの中を見せてるんだろう・・・
でもスカートの中の下着を見せたから、さっき私が失禁したわけじゃないって事はこいつらに証明できたよね!
それだけは良かったよ・・・・・って!全然良くないよっ!
魔法で倒せば足技を使わずに済むんだけど・・・両手が塞がったこの状態では魔法陣が描けないから魔法は使えないはずなんだよね・・・普通は!
この状態で魔法を使ったら魔女って事がばれて大騒ぎになっちゃうよ!
・・・って違う違う!私『勇者』だったよ!
『勇者』って事で魔法を使えばいいんだった。
と思ったら、既にジオ様が風魔法を使って、全員を一気に吹き飛ばしてくれたよ!
っていうか、ジオ様の事を聞かれたら、その説明の方が厄介だよね!
もう、今更って感じだけど!
でも、とにかく今のでほとんどの敵を無力化できたね!
「そこまでだ」
すると・・・いつの間にか家の玄関に盗賊のリーダーが立っていた。
その隣には・・・首に剣を突きつけられたヒナちゃんがいたのだった。




