4話 勇者の弟子と誘拐犯
「ヒナちゃん、物音を立てない様に気を付けてね」
「はい、わかりました」
私とヒナちゃんは慎重に山小屋に近づいていった。
幸い、今は山小屋の外に見張りはいない。
小屋の周りに魔力感知が張られていないか確認したが、おそらく大丈夫そうだ。
小屋の壁にたどり着くと中から話声が聞こえてきた。
木の板を張り合わせただけの壁にはよく見ると隙間が空いている。
隙間を覗くと中の様子が少しだけ見る事が出来た。
小屋の中には5~6人の人影が見える。
この角度からではジオ様とルルは見えないが、泣き声が聞こえないという事は二人とも眠ったままなのだろうか?
とりあえず小屋の中の会話に耳を傾けた。
「騎士団総長の子は女だと言っただろう!しかも一人っ子だ!双子じゃねえ!何やってんだ!」
「すみません。副総長が掴んでいたベビーカーにいた赤子がてっきりそうかと・・・」
「親子連れがもう一組いたんだな?そっちが総長の子だ!」
「今からそっちを攫ってきやす」
「もう警備を固めているだろう。この作戦は失敗だ」
「じゃあ、あいつらはどうするんで?」
「騎士団総長の知り合いの子なら人質として価値があるかも知れねえ。とりあえず身元を調べておけ!」
・・・やっぱりレィアさんの子供狙いだったよ。
大方、騎士団に恨みを持ってる連中だろうな。
「とりあえず、ガキどもは予定通り本拠地に連れていけ」
「へい、すでに別動隊が連れて行ってやす」
しまった!ジオ様とルルはもうここにはいないんだ!
どこへ連れていかれたんだろう?
・・・こいつらの後をつけて行けば本拠地とやらの場所がわかるかも?
「じゃあ、おれたちは王都に戻って総長の屋敷の監視を続ける」
「俺ら全員ですかい?」
「ガキどもは別動隊に任せておけばいい、おれらまで本拠地に戻る理由がねえ」
「そんなぁ、これで帰れると思ったのに」
「まだ仕事が終わってねえんだ!きっちり働け!」
・・・こいつら、本拠地とやらには帰らないみたいだよ。
どうやってジオ様達を追跡しよう?
相変わらず、強力な魔力妨害が掛けられていて、ジオ様達が連れていかれた方角を探知する事が出来ない。
・・・となると、あれしかないかな?
「ヒナちゃん、私がわざと捕まって、敵の本拠地を突き止めようと思う。ヒナちゃんは見つからない様にここから逃げて、この事をレィアさんに伝えて」
「そんな!危険です、ララ様」
「私が誰だか知ってるでしょ?危険な事なんて無いから!」
「・・・わかりました・・・くれぐれも無茶はしないで下さいね」
「うん、ヒナちゃんも気を付けてね」
ヒナちゃんが、山小屋から離れようとしたその時・・・
「捕まえたぜ!何やってんだ?お前ら?」
「きゃっ!放して下さい!」
ヒナちゃんが捕まってしまった。
屈強な男に後ろ手に掴まれている。
「ちょっと!その子を放しなさい!」
「あんたもじっとしてな!」
私も後ろ手に掴まれて首筋に刃物を突き付けられていた。
・・・どうする?強行突破でヒナちゃんを助けるか?
でも、そうしたら、私を人質として本拠地に連れていく事は無くなるだろう。
いや、迷っている場合じゃない!今はヒナちゃんの命が優先だ!
しかし、私がこいつらを制圧しようとした時・・・ヒナちゃんが私に目配せしたのだ。
・・・ヒナちゃん、私と一緒に人質になるって事?
私が首を傾げると、ヒナちゃんがうなずいた。
・・・やっぱりそういうつもりらしい。
まあ、いざとなったら瞬時に全員倒せばいいわけだし・・・ここはヒナちゃんの好意に甘えさせてもらおうかな?
ヒナちゃんに危害が及びそうになったら迷わず助けるからね!
「命が惜しかったらおとなしくな!」
私もヒナちゃんも抵抗せずに言う通りにした。
私たちは小屋の中に連れ込まれた。
両手は後ろで縛られて、首には刃物を突き付けられている。
「こいつら、副総長と一緒にいたやつらですぜ!」
「ほう、よくここまで追跡できたものだな」
・・・この声は、さっきの会話の、ここの連中のリーダーと思われる奴だ。
「それにしても・・・二人ともとんでもないべっぴんですぜ!」
部下の男たちが私とヒナちゃんをいやらしい目つきで眺めている。
「私の赤ちゃんをどこに連れて行ったの!」
「やはり、あのガキどもの母親か?騎士団総長とはどういう関係だ?」
「・・・友人よ」
「あの様子だとかなり親しい間柄みたいでしたぜ」
「なるほど・・・それならお前も人質としての価値があるかもしれんな」
しめた!うまくジオ様たちと合流できるかも?
「そっちの娘は?」
リーダーらしき男がヒナちゃんの方を見て尋ねた。
「その子は我が家に下宿している学生さんです。この子は関係無いので見逃して下さい!」
「関係ねえなら、こいつは俺らで頂いちまっても問題ねえっすよね?」
部下の一人がヒナちゃんのスカートに手をかけてめくり上げたのだ!
「きゃっ!やめて下さい!」
ヒナちゃんのすらっとしてきれいな太腿が半分くらいまでむき出しになった。
「やめて!その子には手を出さないで!」
ヒナちゃんにもしもの事があったらゲンに合わせる顔が無いよ!
「ああん?お前にそんな命令する権利なんかねえんだよ!」
「その子には一切手を出さないと約束するなら、私には何をしてもかまいません!」
「ララさん!だめです!何言ってるんですか!」
「ほお!本人がそう言うなら問題ねえっすよね?遠慮なく頂いちまいますよ」
手下の連中が嫌らしい目つきで私の方にやって来た。
「こんなべっぴんさんを頂いちまえるなんて!俺らついてるぜ!」
そう言って私のスカートの裾に手をかけ・・・めくり上げたのだ。




