2話 勇者様とお散歩
今日は天気もいいし、最近はルルが起きている事が多いので、ジオ様とルルを連れて公園に散歩に行く事にした。
ジオ様は、体はまだ一歳にも満たないにもかかわらず、勇者の能力のおかげで大抵の事は自分でこなせるようになっている。
ただ、見た目が赤ちゃんなので、さすがに人前で自由に動き回る訳にはいかないため、街中に外出する時はルルと一緒にベビーカーに寝かせるか、スリングに入ってもらっている。
そんなジオ様は、ただいま睡眠中だ。
勇者の能力で自在に動ける様になったと言っても、やはり体は赤ちゃんのままなのだ。
本来、勇者は睡眠を全くとらなくても良かったはずなのだが、今のジオ様は一定周期でまとまった睡眠をとる必要があるみたいなのだ。
一度眠りにつくと2~3日目覚めない事もある。
「ララあま、わたしもついて行っていいですか?」
散歩に出かけようとしたら、ヒナちゃんに声をかけられた。
ゲンとヒナちゃんは、『上級魔法士』の資格を取得するまでは、単独での外出を禁止されている。
学院への通学経路以外で家の外に出る時は監督者の同行が必要なのだ。
だが、現在は私が監督者という事になっているので、私と一緒であれば外出しても問題無いのだ。
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。ではわたしがベビーカーを押して行きますね」
ゲンはキアと一緒に、バトラーと剣の稽古をしていたので声をかけないでおいた。
剣術大会も近いし、剣の修行も最後の大詰めって感じだ。
屋敷を出て公園までの道をのんびり歩いていく。
ヒナちゃんはにこにこしながらベビーカーを押している。
「ふふふっ、二人とも可愛いですね。ジオちゃんは起きている時はキリっとしてるけど、眠っている時は天使みたいです!ルルちゃんの方は起きている時も穏やかな顔をしてますよね」
「そうなんだよ!ジオの天使の様な顔が見られるのってこの時だけなんだよね!」
・・・本人に言ったら、絶対寝ない!って言いそうだから、この話題はジオ様が起きている時には話していないのだ。
それにしてもやっぱり、女の子って赤ちゃんが好きなんだな。
レダもこの子たちの事が大のお気に入りだったからね。
「ヒナちゃんは子供好きなんだ?」
「そうですね、特に今まで赤ちゃんと接する機会はなかったんですけど、ジオちゃんやルルちゃんを見ていたら本当にかわいくって!」
「ヒナちゃんも赤ちゃんが欲しくなっちゃった?」
「あはははは、でも、その前に彼氏を見つけないといけないですよね」
「ヒナちゃん、学院ではモテモテなんでしょ?」
「うーん、これと言ってピンとくる相手がいないんですよ」
ヒナちゃんは恩人であるゲンに好意を持っているみたいなんだけど、ゲンにはシアちゃんっていう恋人がいるからね。
「キア君とかどうなの?」
キア君はヒナちゃんに結構熱心にアピールしているみたいだけど・・・
「面白くっていい人なんですけど・・・そういうのとはちょっと違うかなって」
キア君は、かわいい女の子とみると片っ端から声をかけるから、本気に見えないんだよね・・・残念!
「まあ、いつか運命の相手に出会える時を楽しみにしておきます!」
公園に着くとレィアさんが娘のレィナちゃんを連れて散歩に来ていた。
「あら、こんにちはララさん、それにヒナちゃん」
「こんにちは、レィアさん」
「こんにちは、わぁ!レィナちゃん、大きくなりましたね」
「赤ちゃんってしばらく見ないとすぐに大きくなるよね」
「ふふふっ、ララさんの赤ちゃん達も、ずいぶん大きくなってますよ」
「ええ、ルルも最近は良く動く様になってきました」
「レィナは活発過ぎて困ってるのよ。でも最近は、このハンカチを握らせるとおとなしくなるので少し助かってるわ」
そういえばレィナちゃん、起きているのにいつもよりおとなしいと思ったらハンカチを握りしめていた。
「赤ちゃんってこういうふうに、お気に入りが出来たりするものなんですね?」
「レィナの場合、このハンカチじゃないとダメみたいなの。他のハンカチを与えても機嫌が悪くなってしまうのよ」
「ははは、それは大変ですね?」
その時、急に突風が吹いたのだ!
「あっ!ハンカチが!」
その突風で、レィナちゃんが握っていたハンカチが飛ばされてしまったのだ!
「たいへん!私が取って来るよ!」
レィアさんとヒナちゃんはそれぞれベビーカーを押しているからね!
動けるのは私だけだ!
私は駆け出して、宙を舞うハンカチを追いかけた。
空高く舞い上がったハンカチを追いかけていくと、高い木の枝に引っかかった。
私は木の枝に跳躍し、枝から枝に飛び移って何とか木のてっぺん付近に引っかかって、はためいていたハンカチを回収する事が出来た。
木の上に飛び上がってから気が付いたけど、今日はおしゃれなスカート姿だったよ!
スカートがめくれない様に気を付けながら木から飛び降りて、レィアさんのところへ戻ろうとしたところ・・・
ヒナちゃんが蒼白な顔で立っていた。
そういえば近くにレィアさんの姿が見当たらない。
「大変です!ララさま!」
「どうしたの?ヒナちゃん!レィアさんは?」
「ジオちゃんたちが・・・攫われてしまいました」