8話 勇者の弟子と初討伐
巨大な手がいきなり私に掴みかかってきた!
パキィィィィィン!
私はとっさにレイピアを抜いて襲い掛かってきた長い爪を払い、後ろに跳躍した。
甲高い音と共に鱗猿の爪が一本、宙に舞っていた。
(やっぱり、まだ死んでなかった!)
魔物は体内の魔結晶を破壊するか切り取れば完全に倒せる。
あるいは魔結晶と心臓を切り離しても再生ができなくなってやがて消滅する。
矢では貫通力が高すぎて、ダメージは与えても致命傷にはならなかった。
それにしても・・・
「このレイピアもすごい威力ね!」
硬そうな爪を叩き切ったが刃こぼれ一つしていなかった。
そもそも払いよけるだけで切り落とすつもりはなかったのだ。
「私でも倒せるかな?」
ここは一旦鱗猿から逃げてジオたちと合流するのが確実だろう。
だけど今の装備なら自分一人でも勝てるかもしれない。
「よし!やってみよう!」
レイピアを構えて鱗猿に切りかかる。
爪をかわして懐に入り、左脇を切り裂きつつ駆け抜ける。
(少し浅かった)
レイピアはあの硬そうな鱗を何の抵抗もなく切り裂いていた。
しかし鱗猿の胸板は厚いので脇から心臓を狙ったが傷が浅くて届かなかった。
「もっと深く切り込まないとダメね」
鱗猿が振り返る前に背中から心臓付近を切りつける。
今度はかなり深く刃が入って傷口から心臓がぱっくり見えた。
だが魔結晶を切った感触はない。
鱗猿は脇と背中から蒸気を出して苦しんでいる。
再び背中から切り付けようとしたが、警戒してなかなか背中を見せなくなった。
何度か仕掛けたが、爪に阻まれてなかなか胸に深い傷を与えられない。
だが爪もさらに数本切り落としている。
「とりあえず、爪を全部切らないとダメかな?」
地道に削っていく事にして、攻撃を仕掛ける。
背中に回り込むように走り込んだ私を爪で突き刺そうと腕を伸ばしてきた。
私は爪をかわして懐に入り込み鱗猿の左腕を肘から切り飛ばした。
「よし、片腕をとった!」
「そいつの魔結晶は右胸にある!胸の中心を縦に切り裂け!」
遠くからジオの声がした。
「わかりました!ありがとうございます!」
正面から鱗猿に突進し今度は仕掛けてきた右手を手首から切り落とす。
そして顔に向かって跳躍し、がら空きになった胸を上段から顔ごと切り裂いた。
・・・鱗猿は全身から蒸気を吐き出し、次第に体が消滅し始めた。
「よくやったな!ララ」
そばに来たジオ様が頭にポンと手を乗せた。
「ジオ様! アドバイスのおかげです!」
「だが、一人で無茶をするな!」
「・・・ごめんなさい」
怒られてしまった・・・
「もしもの事があったらと心配したぞ」
「・・・心配・・・してくれたんですか?」
「あたりまえ・・・だろう」
「えへへ、ごめんなさい」
「なんでうれしそうなんだ」
「やっと追いついたよ!」
セナ様もやってきた。
「おや?ララちゃん中級の魔物倒したのかい?」
「えっ?この魔物中級だったんですか?」
「知らないで倒したの?他にも中級の魔物が出てね、向こうでゼトも一人で戦ってるよ?」
「ジオ君がとにかくララちゃんを探す!って聞かなくって。あんなに取り乱したジオ君初めて見たよ」
「いい加減な事を言うな!」
「ジオ様・・・ありがとうございます」
ジオは相変わらず少し照れて目線をそらした。




