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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第1章 勇者の弟子
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2話 勇者様だったら

 この世界には『魔物』が存在する。


 私はまだ見たことが無いけれど、どこからともなく現れて、人間を見つけては襲いかかる。


 食べるわけでもなく、ただ人間を殺す事を目的としているらしくてこれまでにいくつもの村や町が滅びた。


 他の大陸では国が丸ごと滅びたところもあるとか?


 幸いな事にこの地域ではこれまでに魔物が発生した事は無く、どこかおとぎ話の中の事の様にとらえている人がほとんどだった。



「魔物だー!魔物が現れたぞー」

「うそだろっ!」

「この町に魔物が出るわけないじゃない」



「みんな、建物に入っていなさい。私は様子を見てくる」


 町の警備団にも所属している教官は生徒を誘導してから音のした方に走っていった。


「私も行きます」

「ついてくるな!みんなと隠れていなさい!」

「音がしたのは市場の方ですよね?」


 私は教官を追い越して現場へと急いだ。


「なんて速さだ! 追いつけない」



 市場の方から逃げ惑う人々の流れに逆らって駆け抜け、広場に出た。

 色とりどりな露店が並び人々の喧騒でにぎわっているはずの場所は、赤く染まり、もうもうと白い蒸気が視界を遮っていた。


 壊れた建物や屋台の破片が無数に散らばり、大勢の人々が血を流して倒れている。


 この短時間で多くの命が奪われた現実が突きつけられる。


 一体何が起こっているのか状況が理解できない中、人間とは別の見た事もない大きな生き物の死体もいくつか転がっている事に気が付いた。


(これは・・・魔物?)


 山で見かける動物よりも何倍も大きな異形の生き物の死骸から蒸気が噴出している。


 おそらくこれらの魔物が大勢の人々を惨殺したのだろうが、この魔物たちは誰が倒したのだろう?


 そんな疑問を考える間もなく蒸気の中から異形の生き物が姿を現した。


 牛の様なヤギの様な頭の巨人がゆっくりと立ち上がり、あたりを見回している。

 身の丈は人間の2倍を軽く超えそうだ。


 魔物はやがてけがをして逃げ遅れた男性を見つけるとゆっくりとそちらに歩き出した。

 男性はいつも獲物を買い取ってくれる市場のおじさんだった。今朝もウサギをいい値段で買い取ってくれた。


(おじさんが危ない!)


 私は思わず駆け出して、山羊頭の魔物に向かって切りかかった。


 『山羊頭』は私に気が付いて手を伸ばしてきたが、動きはそれほど速くないので、それをかわして足元に滑り込み脛に切りつけ、そのまま反対側に駆け抜けた。


「今のうちに逃げて下さい」


 『山羊頭』の注意は私の方に向いたので、男性から距離を取って自分の方におびき寄せた。


 『山羊頭』の脛を見たが切りつけた場所は何ともなってなかった。


「傷一つ付かないなんて!」


 持っていたのは訓練用の剣で刃が潰してあった。

 しかし普通の動物なら打撃でもダメージを与えられるぐらいの渾身の打ち込みだったはずだ。

 

(おじさんが逃げきるまでは注意をひかなきゃ)


 今度は太ももに切りつけてみたがやはりダメージは与えられない。


 脇腹や腕など何度か攻撃を繰り返したが同じだった。


 『山羊頭』はかなり怒っているようでむきになって私を捕まえようと捕まえようと迫ってくる。

 『山羊頭』の動きが遅いので捕まる事はないが、このままではきりがない。

 

 男性の方を見ると足を怪我しているらしくまだ逃げきれないようだった。



(勇者様だったら、こんな時でもきっと人を助けようとするんだろうな?)



 なぜかそんな事を考えていた。 


 私は手に持っていた剣を捨てて、腰にさしていたお父さんの形見の短剣を抜いた。


 刃渡りは短いが切れ味はとんでもなく良かったはずだ。


 短剣を逆手に持って、最大速度で『山羊頭』の足元に駆け込み全体重を乗せてかかとに切りつけそのまま駆け抜けた。


 距離を取って振り返ると『山羊頭』は何事もなく立っていた・・・


 ・・・かに見えたが、こちらに一歩踏み出そうとした途端に、バランスを崩して豪快に転倒した。


 舞い上がった砂煙がおさまると、かかとから蒸気を吹き出しながら『山羊頭』がもがいていた。


 「刃が通った!」


 『山羊頭』がもがいているうちに男性を助けに行こうとしたが、『山羊頭』は四つん這いでこちらに這いずってきた。


 「とどめを刺さないとダメね」


 先ほどと同じ要領で今度は腕に切りつけた。

 今度も傷口が開き蒸気が噴き出していた。

 

 何度も繰り返して『山羊頭』の全身に傷を作り頭以外は身動きできなくなっていたが、それでも致命傷には至らないらしい。


 やはり短剣では相手の巨体にとどめを刺す事は出来ないようだ。


 よく見ると最初に付けたかかとの傷はふさがり始めている。


「早くとどめを刺さないと回復してしまう」


 しかし今のララには山羊頭を倒す決め手がない。 


 男性も避難できたみたいだし、『山羊頭』もすぐには追ってこられないだろうから、一旦この場から離れようかと思って振り返り駆け出した。


 広場の端まで走り、路地に駆け込もうとしたその瞬間・・・


 

 

 目の前に巨大な四つ足の魔物が出現した。


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