17話 勇者の弟子と色欲の魔女
その、てへぺろをしているかわいらしい女神像の顔には見覚えがあった。
「そういうことかぁ・・・・」
全ての合点がいった。
この神殿に奉られている女神の正体は・・・・・『色欲の魔女』だったのだ!
殆どが砂漠のこの大陸で、唯一この地域だけに植物が生い茂っていたのは、この地に『色欲の魔女』が得意とする『繁殖の魔法』が掛けられていたからだったのだ。
そして、この民族の性欲が旺盛なのって・・・多分彼らは『色欲の魔女』の子孫だよね?
以前に会った時の『色欲の魔女』はこの国の人たちと同じ褐色の肌だった。
それに、あらためて見ると、女神像の顔はなんとなくレダに面影が似ている気がする。
きっと彼女はこの地で子供を産みまくったのではないだろうか?
この大陸全体的に『性』に対して奔放なのは、絶対彼女の影響だよ!
そしてあの『木の実の魔物』は色欲の魔女の魔法と共鳴してその催淫効果を高めてしまっていたのだ!
どおりで魔女の私まで欲情してしまったはずだよ。
実際、過去に『色欲の魔女』と会った時も、私は老婆の体でありながら、かなり激しく欲情してしまったのだ。
まさかあの年で若い男性とあんな事に・・・
おっと!これは別のお話だった!
とにかく、私が催淫魔法にかかっていた時点で気付くべきだったよ。
でも『色欲の魔女』の魔法だったとしたら・・・発動に条件があるのだ。
彼女は『色欲の魔女』という二つ名のため勘違いされがちなのだが、その本質は『恋する乙女』なのだ!
彼女は、関係を持つ相手の事を常に本気で愛している。
決して誰でも構わずという事ではない。
相手が拒んだら無理強いはしないし、自分にその気がなければ相手の申し出はきっぱりと断る。
あくまでも相思相愛の相手としか、関係を持たないのだ。
ある意味、『純愛の魔女』と呼んでもいいくらいだ。
・・・ただ、相思相愛の相手が、あまりにも多過ぎたのだが・・・。
そしてその条件は、彼女が使う魔法にも反映されいるのだ。
つまり、今回私たちを苦しめた(?)催淫魔法は、本気で愛している相手にのみ発動していたのだ。
奇しくも私とシンはお互いに本気で愛し合っている事を再確認してしまった!
そして、シンのレダに対する気持ちも・・・本気の恋愛感情だったのだ!
同情や父性愛ではなく、ちゃんと異性として愛していたのだ!
・・・レダの今の年齢を考えたら・・・どうかと思う点はあるにはあるが、とにかく良かったね!レダ!
そしてゴア国王と妃たちも、全員がちゃんと相思相愛だった!
なんと!ゴア国王は、あの後順番に妃の全員と事を交えていたのだった。
とんでもない体力だよ!
それから・・・考えたくないけど・・・ゴア国王の私への愛情も、どうやら本物らしい。
単にエッチがしたいだけでは、『色欲の魔女』の魔法は発動しないのだ。
本気で相手を愛し、慈しむ心があって、初めてあの、『上級の魔物』さえも退けたエッチパワーが炸裂するのだ!
単に私とエッチがしたいだけだと思って適当に受け流してたけど、本気で愛してくれているのなら、ちゃんと対応しないといけない。
・・・やっぱり、一回ぐらいだったら・・・・・って!本当にそれは無いからね!
向こうが本気だったとしてもこっちにその気が全くないんだから、きちんとお断りさせて頂きます!
ジオ様は・・・催淫魔法にかかっていなかったからわからないけど・・・疑うまでもないよね!
もちろん私のジオ様への愛情がとんでもなく強烈だったって事も確認できたし・・・
催淫魔法にかかっている間、何度ジオ様と脳内エッチした事か・・・
・・・ちょっと気になったのでジオ様にも聞いてみた。
(確かに強力な催淫魔法が俺に働いているのは感じていた。ララを強く愛する様に作用していた様だが、ララの事は元から強く愛していたから特に変化はない)
・・・なんか、さらっとすごく嬉しい事を言われてしまった・・・
そうか、『勇者』ってあらゆる状態異常が効かないけど、状態異常が掛けられている事自体は感知する事が出来るんだ!
そうでなければ仲間の危機とかに気がつけないからね。
「そういえば、私の母乳って、どうしてあんな効果が有ったんだろう?」
(あれはララ自身がやった事だ。ララは普段からルルに健康で穏やかに過ごしていて欲しいと強く願っていただろう?)
「確かにそれは思っています。母親なら当然だと思いますが?」
(おそらくその思いが無意識のうちに『強欲の魔女』の魔法として発動していたのだろう。自身の体質を改変して、母乳にその様な効果を与えてしまったのだ)
・・・そうだったんだ・・・我ながらすごいな、『強欲の魔女』
「ルルが良く眠るのってそのためだったんだ」
(それもあるだろうがルル自身の性格もあるのだろうな)
いずれにしても私の母乳を飲んでルルは健康に育ってるって事だね!
良かった良かった!
ルルの事を思い出したら無性に会いたくなってしまった。
今回は、ほとんどルルをシィラにまかせっきりだったから、たっぷりスキンシップして取り戻さないとね!
上級の魔物も完全に消滅したし、とりあえず、ぐっすり眠っているレダをシンが抱きかかえてレダの屋敷に戻る事にした。
ゴア国王と妃たちは、まだ行為の真っ最中なのでこのまま放っておく事にした。
・・・あれっ?もしかして二周目に入ってるかも?
でも、本人たちが楽しそうだからまあいいか!
レダの屋敷に戻るとシィラがルルを抱いて出迎えてくれた。
「会いたかったよ!ルル!」
私が抱きしめるとルルはきゃっきゃと声を出して喜んだ。
「ルル様はここ最近はあまり眠らずに、いつも楽しそうに笑っていらっしゃいましたよ」
「そうなんだ!珍しいね」
「だんだん、活発に活動する時期に入ったのかもしれませんね」
「そっかぁ、ルルももうすぐはいはいしたり立ち上がったりするのかぁ!」
子供の成長ってほんとに楽しみだよね!
それから数日間は、魔物の襲撃の後始末などに追われていた。
海からの魔物たちの侵攻は、ジオ様とシンで『上級の魔物』を倒した後は、自然に収束していったそうだ。
『色欲の魔女』の地下神殿は、元々子宝に恵まれるご利益があると評判だったらしいが、この国の人たちには、あまり必要が無くて廃れていたらしい。
今回なぜ、これほど活性化してしまったのか理由が分からなかった。
『木の実の魔物』のせいで神殿が活性化したのか、神殿が活性化したせいで『木の実の魔物』が発生したのか、それも不明だ。
いずれにしても、現在、神殿の催淫魔法というか、繁殖魔法はかなり活性化した状態が続いていて、男女でうっかり神殿に踏み込んでしまうと、その場でいきなり子作りを始めてしまうという状況なので、その気がある男女以外は立ち入らない様に制限している。
一方で、この魔法は、不妊治療にも効果があるみたいで、さりげなく生殖機能障害の治癒の魔法も組み込まれていた。
ガチで不妊で悩んでいる夫婦もこの神殿に入れば確実に妊娠できてしまう。
更に、排卵周期の補正魔法や、妊娠異常修復魔法など、致せり尽くせりで、この神殿で子作りをするとかなりの高確率で健康な赤ちゃんを妊娠できてしまうのだ!
使い方によっては画期的な事かもしれないね!
『色欲の魔女』は自分自身の恋愛や生殖活動にも真剣だけど、人の恋愛や生殖活動を応援するのも大好きなのだ。
そして数日後・・・魔物の襲撃の後始末などが大体片付いたので、私達はシンの国に帰る事になった。
「ララ殿!儂の子を産む気になったらいつでも歓迎するぞ!」
・・・ゴア国王は今回、16人の妃全員を妊娠させてしまったのでしばらく子供は作らなくてもいいんじゃないのかな?
帝国の王都に戻った私は、今度はシンとレダ達にしばしの別れを告げる事になっている。
「ララがいなくなると寂しいよぉ!」
レダが私にしがみ付いてきた。
すっかり私の事をお母さんみたいに思ってしまった様だ。
「時間が出来たらまた会いに来るからね」
私の方も実の娘みたいで、本当にかわいいと思っている。
ルルが男の子だから、次は女の子も欲しいなって思ってしまったよ!
「ずっと会えなかったのにすぐお別れなんてさみしいです。早く戻って来て下さいね!ララ」
ミラは、密林の王国に同行できなかったのが相当寂しかったらしい。
再会するなりキスされてしまった。
「ララ、離れていてもララの事は愛している」
「シン、私もシンの事は忘れません。この帝国に戻ってきたら、その時はシンの妻ですから」
そう、私は帝国の中にいる時のみ『皇后』であり『大聖女』であるのだが、帝国の外に出ると、シンと婚姻関係ではなくなるのだ。
私の国では重婚は認められていない。
表向きジオ様は死んだ事になっているのだが、私はジオ様と婚姻関係を解消しない事にしているので、原則私は再婚できない事になっているのだ。
「次に会う時までには気持ちの整理をつけておきますね」
「ああ、気長に待つから焦らなくてもいい」
今回は、結局、ジオ様とシンの間で気持ちの整理がつけきれずに、中途半端に終わってしまった。
やっぱり、今までの固定観念が捨てきれずに、複数の相手と同時に本気で愛し合うという事に対して気持ちを割り切る事が出来なかったのだ。
まあ、エッチするだけが全てじゃないんだけど・・・シンと心が通じ合っているのは間違いないし、ある意味それ自体が既に浮気している様なものなだけど・・・今はそれで充分かな?
この大陸での経験は、自分の固定観念を根本から見つめ直す事になったけど、基本的には愛する人を大切にするって事に間違いは無いって事だよね!
こうして私の人生観に大きな変化をもたらした砂漠の大陸に、一旦別れを告げたのだった。
第二部 第6章 完結です。




