9話 勇者様と女戦士たち
『中級の魔物』は次から次へと海から上陸してくる。
戦士たちだけでは『中級の魔物』を倒すのに時間がかかり過ぎて劣勢になってしまうので、私たちが即座に対応しなければならない。
私も、かなりハイペースで倒しているが、それにしてもジオ様のペースは半端じゃない。
赤ちゃんの体になっても勇者の能力自体は全く変わらないのだが、体が小さくなった分機動力が増している。
体格的な不利はあるのだが、ジオ様はそれを補うための工夫と鍛錬を怠らない。
それに関しては私という前例がいたので、それを参考にしたのだと言っている。
確かに私は女性という身体的な不利を克服する戦い方を編み出してきた。
赤ちゃんサイズなら赤ちゃんサイズなりの戦い方があるという事らしい。
その上で勇者の力は使える訳だから、強くなるもの当然と言える。
この、『静慮の魔女』を見つける旅で、一緒にいくつもの戦いをこなしてきたが、戦いの度にジオ様の強さは増しているのだ。
『勇者』としての集大成ともいえる『終焉の魔物』との戦いを生き延びた『勇者』は、更なる高みへと成長を続けているのだ。
ジオ様は私にとって夫であると同時に師匠でもあるのだ。
師匠が常に自分の前に居続けてくれるのは、大変心強い。
ジオ様がいなかった1年間、私は『勇者』として弟子のゲンやみんなの支えになる様にがんばって来た。
『勇者代理』として、の自覚も責任感も十分に芽生えて来たと自分でも思う。
でも、自分を支えてくれる存在がいるのって、本当に素晴らしい事なんだなって再認識している。
・・・にしても・・・ジオ様、ちょっと飛ばし過ぎじゃないかな?
ジオ様は、最も魔物が集中している場所で、他の戦士のフォローをしながら『中級の魔物』を倒している。
私もジオ様の近くに行って共闘したいのだが、今私のいる場所でも次々と『中級の魔物』が上陸してくるので、持ち場を離れられないのだ。
そして、ふと気がつくと、ジオ様の周りは圧倒的に女戦士の比率が高くなっていた。
かわいい赤ちゃんがイケメンな活躍をして自分の危機を助けてくれるのだ。女性にとっては二重の意味で嬉しいだろう。
それにしても、何でジオ様の周りに男性の戦士が少ないのか気になっていたのだが・・・どうやら男性の戦士たちは気がつくと私の周辺に集まっていたのだ。
どうりでさっきから、私が助けるのが男性ばっかりだと思ったよ!
目の前で巨漢の男性戦士が魔物にやられそうになっているので私が助けに入るのだが・・・その度に結婚を申し込まれるのだ。
実戦の最中に求婚はやめてほしい!
中には私に助けてほしくて、わざと魔物にやられそうなふりをしている戦士もいた。
屈強な巨漢の戦士が、下手な演技で助けを求めている様子がはっきり言ってキモイ!
「あーもうっ!私と結婚したかったら一体でも多く魔物を倒してその強さを見せて下さい!」
めんどくさいので一言言わせてもらった。
「おお!一番魔物を倒したやつが大聖女様と結婚できるぞ!」
「おい!その魔物は俺のだ!お前は引っ込んでろ!」
「なんだと!大聖女様とやるのは俺だ!」
「あっちの獲物は俺が倒すからお前は手を出すなよ!」
「何言ってんだ、あの魔物は俺のだ!」
男どもは突然本気の強さを発揮し始めた。
・・・強さを見せろとは言ったけど、必ずしも結婚するとは言ってないからね!
でも、少し余裕が出来た私は、ジオ様の方を確認した。
丁度その時、魔物の攻撃を受け流して後方に跳んだジオ様を、女戦士の一人が胸で挟んでキャッチしたのだ!
巨大化した女性戦士の胸の谷間に、ジオ様は完全に埋没してしまった!
元が子供のレダでさえ、巨大化した時はそれなりのボリュームになるのだ。
成人女性が巨大化すると、胸の大きさもかなりのものになり、普通のサイズの赤ちゃんなら、完全に挟み込む事が出来てしまうのだ。
ああ!それっ!・・・私がやりたかったのに!
授乳期間中で増量しているとはいえ、わたしの胸ではジオ様を完全に挟み込む事は出来ない。
せいぜいがほっぺたをパフパフと挟んであげられるくらいだ。
・・・いや、実は時々無理を言って挟まさせてもらっていたのだが・・・
そして一人がジオ様を胸で挟んだのを見た他の女性戦士たちも、ジオ様の周りに群がってしまった。
みんな自分の胸でジオ様を挟もうと、取り合いになってしまったのだ!
ジオ様が・・・胸の大海原の上を漂う小舟の様に翻弄されていた。
・・・って!みんな!魔物が襲って来てるよ!
女戦士たちがジオ様に夢中になっている隙に、周りを中級の魔物で囲まれてしまったのだ!
これは私も加勢に行かないと!
そう思って、ジオ様の方へ駆け出そうとしたら・・・
「うわ!助けてくれ!」
「こっちもどうにもならねえ!」
「大聖女様!俺を先に助けてくれ!」
調子に乗って『中級の魔物』に戦いを挑んでいた男性戦士たちが、再び劣勢になっていたのだ!
複数人で協力し合って一体の中級の魔物に挑めばいいものを一人一人が他を出し抜いて私にいいところを見せようとして、別々の中級の魔物に挑んでいたのだ。
・・・つまり、全員が同時にピンチになっていたのだ!
「ああ、もうっ!これでは誰も私とは結婚できませんね!」
さすがに呆れてしまったが、目の前で危険な状態の男性戦士たちを見捨てる訳にはいかない。
ざっと見て、最も緊急度の高そうなところから応援に入った。
魔物にダメージを与えて、形勢が逆転したら、次に危なそうな戦士の応援に移る。
順番にこれを繰り返さないといけない。
・・・そして、応援に入る度に求婚されるので、ほんとにめんどくさい。
これじゃいつまでたってもジオ様のところに行けないよ!
ジオ様の方を見ると、ジオ様は、胸の海原を抜け出して、『中級の魔物』の群れを次々と殲滅していた。
・・・そして、魔物の攻勢が少し落ち着くと、再び胸の海原にもみくちゃにされ始めていたのだった。
・・・そんな事の繰り返しで、わたしがジオ様の元にたどり着くまでに、数えきれないほどの魔物を倒し、数えきれないほどの求婚される羽目になってしまったのだった。




