7話 勇者様と防衛の要
各地で魔物の襲撃に備えて準備が開始された。
シンと私、それにジオ様が討伐作戦に参加するとなって、町はその話題で持ち切りになっていた。
何しろ三人ともこの国で最強であるはずのゴア国王に勝利している。
中でも赤ちゃんでありながら圧倒的な強さを見せつけたジオ様が、魔物とどのように戦うのか注目の的になっているらしいのだ。
「すっかりジオ殿はこの町の有名人になってしまったな」
「うん、ほんとこの国の人って強さへのこだわりが半端ないよね」
シンと私、それにジオ様とレダの4人は遊撃部隊として行動するため、各防衛作戦場所の状況把握のため視察にまわっていた。
すると行く先々で、ジオ様の戦いぶりが見たいとせがまれてしまうのだ。
(少しデモンストレーションでもした方が良いのだろうか?)
「ジオ様がそんなサービスしなくてもいいですよ」
実際魔物が来てジオ様の戦いぶりを見たらみんな度肝を抜かすだろうな。
そんな話をしながら、私たちは河口の防衛線に到着した。
「わあ!こんな事になってたんだ!」
大河の河口には見事な防波堤が出来ていた。
河口部分が一直線に浅瀬になって白い波を立てている。
「数日でこんなものが作れるんだ?」
「国民が総動員で人海戦術で岩を運んできました」
河口前線を担当する指揮官が答えてくれた。
この指揮官もゴアの妃の一人だ。
「家の建築などに使用する岩を運んで来て河口に沈め、水深を浅くしたのです。これで水中を通過する魔物を漏らさず発見する事が出来ます」
「なるほど、防波堤部分は水深が人の足首ぐらいの深さになっているのだな?」
「はい、魔物は必ず防波堤を越えなければ川上に侵攻する事は出来ません。ここで可能な限り魔物を殲滅し、通過した個体は情報を把握して次の防衛ラインに伝達する事が出来ます」
力業だけど見事な作戦だよ。
それにしても、幅数百メートルはありそうな河口を、よく岩で埋め尽くしたものだよ。岩の一個一個が家ぐらいの大きさで、それが無数に川底に積んであるのだ。
気の遠くなるような重労働をこなせたのは、国民全員が大きくなって力仕事をこなす事が出来るからだね
「これだけのものを作っておけば海からの魔物の侵攻を妨げるだけでなく、水害対策にもなる。今後この川沿いの開発も可能となるだろう」
シンはこの国の今後の発展の事も考えているのだ。
「はい、それも考えに入れての対策です」
次に川の上流に移動して渓谷になっている第二防衛ラインへやって来た。
ここでは川の両岸の崖の上に大量の岩が用意してあった。
「魔物がこの地点に到着したら、この岩を上から落とします」
この防衛ラインを担当する指揮官が説明してくれた。
この指揮官も、もちろんゴア国王の妃の一人だ。
「これだけの岩を落とせば『中級の魔物』でも倒す事が出来るだろうな」
「はい、『下級の魔物』まで全てを倒す事は難しいでしょうが、大型の魔物なら狙うのも簡単です」
岩の物量が半端ないからね。
そのまま生き埋めにして動けなくする事も出来そうだよ。
最後に森の防衛ラインにやって来た。
ここはすでに木々による天然のバリケードが存在するのだ。
魔物がここまで到達した場合、小型の『下級の魔物』は木々の間をすり抜けてしまうが、『中級の魔物』サイズになると、木々を破壊しながらでないと王都に進む事が出来ない。
そこで足止めを喰らっている魔物を叩こうという作戦だ。
「儂がいる限りここから先に魔物は通さん!」
この防衛ラインは国王ゴアが自ら陣頭指揮する事になっている。
「ここまでの防衛ラインとあたしたちがいるから親父殿のところまで魔物は来ないよ!」
レダがゴア国王にどや顔で言った。
「『上級の魔物』が出現したら突破させるのではないか?」
「その時はジオ君がやっつけてくれるよ!ねっ!」
レダがだっこしているジオ様に笑いかけた。
そう、レダはジオ様がすっかり気に入ってしまって、視察の間、ずっとジオ様をだっこしているのだ。
「その様な赤子の力を借りずとも、『上級の魔物』は儂が討伐してくれるわ!」
「その赤ちゃんに負けたくせに」
「あの時はまだ本気を出していなかったのだ!儂が本気をだせば、そ奴を倒す事など赤子の手を捻るも同然だ!」
いや、元々赤子なんだけど・・・その赤子の手に拳を潰されたよね?
うん、でもこれだけ準備してれば最悪の事態でも対処可能だと思うよ。
「今回の魔物の侵攻はこれまでにない規模になる可能性があると予言に出ている。くれぐれも油断無き様に」
シンがゴア国王に警告した。
「無論だ!ここは儂の国だ。何があっても儂が皆を守る!」
エロ親父、エロい事だけでなく、国全体の事もちゃんと考えているんだな。
国王らしい一面を見て少し見直したよ。
エロ親父が一瞬かっこよく見えてしまった。
元々見た目はそれなりにダンディなイケ親父なのだ。
・・・だからと言って子供を産む気は無いけどね。
「何せこの国の女は全て儂のものだ!全員を抱くまで一人も殺させん!」
・・・・・どこまでもエロい事しか考えていないブレないエロ親父だった。




