5話 勇者様と最強の赤ちゃん
(すまないララ、適当に吹っ飛ばされておけばよかった。咄嗟に受け止めてしまった)
(いえ、ジオ様は悪くありません)
あの時、ジオ様がふっとばされていたら、それはそれで大問題になっていたと思うよ。
・・・それに、ジオ様がエロ親父の攻撃を真っ向から跳ね返した時は、正直すかっとしたのだ。
「ゴア殿にも困ったものだ。強い相手を見つけると見境がなくなってしまうのだ」
そう言えば、私の時もそうだったな・・・
「ほんとにごめんなさい・・・馬鹿な親父殿で・・・」
「いいのよ、レダ」
あの後、宴は中止になって、私達はレダの屋敷に戻っていた。
「それにしてもジオ君ってすごいね!親父殿の拳を正面から受け止めるなんて!」
「う・・・うん、ちょっと変わってるのよジオは」
「ジオ君のお父さんもすごく強かったもんね!」
この前、大人に戻ったジオ様を私の夫としてレダに紹介しているのだ。
勇者だと紹介する訳にいかなかったので、その事は言っていない。
ミラにはある程度までは本当の事を話したんだけど、レダには理解が追いつかないと思って詳しい話をしていなかったのだ。
「レダ、じつはまだ話していない事があるんだけど、私との秘密は守れるかな?」
「うん、ララとの秘密は必ず守るよ!」
「ふふっ、レダはいい子だね!」
私はレダの頭をなでなでした。
「実はこの前紹介した私の夫のジオ様は、死んだ事になってる先代勇者なんだ」
「ええ!そうだったんですね!」
「ジオ様は特別な任務のために死んだ事になってるの、それで今の勇者は私って事になってるんだ」
「そうだったんだ!ララってすごく強いと思ったら勇者だったんだ!」
「正式には、私はまだ勇者の力は引き継いでいないんだけどね」
「それでもララが強い事にかわりはないよ」
「それで、この子なんだけど、父親の少しだけ勇者の力が使えるの」
さすがに赤ちゃんの体になって生きながらえたって話は出来ない。
魔女の事にも触れなければならないからね!
「へえ、そうなんですね!勇者の力って子供に受け継がれるものだったんですか?」
「普通はそんな事は無いんだけど、この子だけ特別みたいなの」
・・・ちょっといいわけが苦しくなってきたかな。
「とにかく今言った事は秘密だから誰にも言わないでね!」
「うん、わかった!絶対誰にも言わないよ!」
「ありがとね!レダ」
「しかし、ジオ君の事はしばらくは噂になるだろうな」
「とりあえず『すごい赤ちゃん』という事で押し切るよ!」
「ララ様・・・それ、何の解決にもなって無いですよ」
部屋の傍らでルルの世話をしていたシィラに突っ込まれた。
翌日、外に出ると、案の定色々な人に声をかけられた。
「いやあ!昨日はびっくりしたよ!さすが、大聖女様のお子さんだけあってすごい赤ちゃんだったよ!」
「ゴア陛下の拳を砕くなんて!ほんとにすごい赤ちゃんだねぇ」
「大聖女様からお生まれになるとみんな、すごい赤ちゃんになるのかねぇ」
「もう一人の赤ちゃんも何か特別な力があるんですか?」
「大聖女様!ぜひ俺と子供を作ってください!」
・・・町の人たちは、すでに『すごい赤ちゃん』という事で勝手に納得していたらしい。
特に詳しい事情を根掘り葉掘り聞いてくる人はいなかったのだ。
・・・そして、どさくさにまぎれで求婚してくる男性が何人もいた。
「ここのみんなは純粋に強いか弱いかしか見ないから、その理由とか、そう言うのはわりとどうでもいいんだよね」
レダが教えてくれた。
「あはは、あまり難しく考える事は無かったみたいだね」
「昔からこの部族は強いものが正しい!って考え方だからね」
・・・力こそ正義ってやつだね。
「だた、強い人は注目されるから、これからみんなジオ君の事をほっておかないと思うよ」
・・・それって・・・赤ちゃんのジオ様に戦いを挑む者が後を絶たないとか、そういう事だろうか?
「頼もう!」
いかつい顔をしたおじさんが話しかけてきた。
「『大聖女』様とお見受けする。ゴア殿を倒したという赤子と、ぜひ手合わせを願いたい!」
・・・ほんとに来ちゃたよ!
「あの、すみません。うちの子はそういうのやっていないので・・・」
私はおじさんの前に立ちはだかった。
「ならば力ずくでも!」
おじさんが巨大化して私に襲い掛かって来た!
私は攻撃を躱しつつ、脚をかけて重心を崩し、転倒させた喉元にレイピアの切っ先を向けた。
体が自分の二倍あろうとも重心を崩せば人はたやすく転倒できるのだ。
「これで満足ですか?この子と戦いたかったらまず私を倒してからにして下さい」
「つっ、強い!・・・俺の嫁になってくれ!」
「私より弱い人と結婚するつもりはありません」
「ならば!勝つまで再戦を申し込む」
・・・またこのパターンか・・・
「その前にあたしに勝ってからだよ!ララはあたしより強いからね!」
レダが助け舟を出してくれた。
「なんと!この国最強の戦士レダより強いというのか!・・・それはなおさら、何としてでも嫁にしたい!」
「いい加減にして!」
巨大化したレダが腹パンでおっさんを吹っ飛ばしてくれた。
・・・なんか、こんなやり取りばっかりだな、この国は・・・




