12話 勇者の弟子と砂漠の魔女
勝負がつかないかに見えた試合は、最後にジオ様が勝利した。
・・・ジオ様が最後に使った戦法は、私の得意とする戦い方の応用だった。
男性に比べて腕力に劣る私が最強の『剣聖』である理由・・・それが、今ジオ様が実践した、変則的な技の連続攻撃なのだ。
ジオ様やシンの様に、人並外れた圧倒的な身体能力があれば、基本に忠実な剣術で他を圧倒できる。
それが無い私は、新しい技を即興で編み出して連続で繰り出し、そして相手の対応が追い付かないうちに自分の剣に蓄えた相手の剣の威力を使って一気に勝負を決める戦法が最も有効なのだ。
ジオ様は毎日私と打ち合っていたため、私の戦法をすでに自分のものにしていた。
先程のシンとの戦いで、拮抗状態を打開するために、ジオ様はそれを実行したのだ。
「見事だ、ジオ。余の完敗だ」
「今のはララの技の応用だ。真に最強の剣士はララだろう」
「ははは、今度ララとも本気で戦ってみたいものだ」
そうして剣術大会が終わり、表彰式が行われた。
「さて、余に勝利したジオよ。そなたの望みを叶えてやろう」
シンってばジオ様の望みは知ってるくせにわざとらしく演技してるよ。
「さあ、望みを言うが良い」
「我が望みはララの無罪だ」
「承知した!ララの罪は全て無罪とする!」
やった!これで帝国に縛り付けられる理由が無くなったよ!
「だが、余に勝利した褒美がたったそれだけで良いのか?」
えっ?まだほかにも望みを叶えてくれるの?
「もし叶うならもう一つ」
もう一つって・・・ジオ様、いったい何を望むの?
「申してみよ」
「ララに永遠なる幸せを与えて欲しい」
ジオ様!それってどんな願いですか!
「承知した!皇帝シンの名においてここに誓おう!我、皇帝シン及び、帝国の全ての民は、わが妃、『大聖女』ララに永遠の幸福をもたらす事を約束しよう!」
ええっ!帝国の全国民が!ってどういう事?
って言うか、何で私、公式に『大聖女』って事になってるの!?
会場内が一気に沸き上がった!
「大聖女様万歳!」
「そもそも大聖女様を罪人扱いしてたのが間違いだったんだ!」
「我々は大聖女様に一生尽くします!」
「大聖女様!早く皇帝の世継ぎを産んでください!」
「これでこの帝国も盤石だ!」
「あのイケメンも大聖女様の旦那様なんですって!なんて羨ましい!」
「究極のイケメン二人が旦那様なんて、大聖女様はもう十分幸せなのでは?」
「大聖女様!幸せにしますから俺とも結婚して下さい!」
・・・場内は大変な盛り上がりだった。
「シン!私が『大聖女』ってどういう事ですか?」
後宮に戻って落ち着いたところで、シンに尋ねた。
「この王国の発端は、大昔、全く水源の無かったこの砂漠に『大聖女』が現れてオアシスをいくつも作ってくれたのがきっかけだとされているのだ」
「大昔に『大聖女』が現れたんですか?」
・・・「聖女」って肩書、そんな昔からあったんだっけ?
「伝承では『大聖女』という事になっているが、その正体は『魔女』だったのではないかという説もある」
「あっ!」
「どうしたのだ?ララ」
「いえ・・・その・・・何でもないですっ」
・・・大昔に水源の無かった砂漠に魔法でオアシスを作ったって・・・
・・・それって『強欲の魔女』・・・つまり私かもしれない・・・・
「『魔女』でも『聖女』でもどっちでも構わないのだが、この王国の民は、オアシスを作ってくれた『大聖女』に大変な恩を感じているのだ。この国で『女神』というのはその『大聖女』の事を指すのだ」
・・・当時、通りすがりにちょっとした人助けをしただけだったつもりが、大変な事になっていた。
「そして先日の高度な治癒魔法や、オアシスの町での献身的な活躍の功績を称えて、ララを帝国初の『大聖女』と認定する事が先の帝国最高議会で可決したのだ」
「そんな大そうな事に?」
「この国の民は、ララにその『大聖女』と同じくらいの恩を感じたという事だ。そして今日はその公式発表をする事になっていた。実はその時点でララの罪は無罪となる事は確定していたのだ」
「ええ!それじゃあ、ジオ様が試合に勝たなくても良かったんだ!」
「ああ、だからもう一つ望みを聞いたのだ」
「そう!それです!国民全員で私を幸せにするってどういう事ですか?」
「そのままの意味だ。帝国の国民はララに危害を加える事は許されないのは当然として、ララが不快に感じる事をしたり、不利益になる事も禁じる。そしてララが望めば全国民がララのために尽力する事になる」
「・・・それってまるで暴君じゃないですか!」
「しかしララはそれ以上に国民のために帆走するのだろう?」
「それは・・・確かに・・・多分そうしますが・・・」
「だから国民がララのために尽くすのは当然の事だ」
「・・・無罪になったらシンと離婚するつもりだったのですが・・・すでにその様な事を切り出せる状況では無くなってしまったじゃないですか」
「実はそれが狙いだったのだ」
・・・・・シンにしてやられた・・・・
「私も・・・シンとは別れたくないと思い始めていたのですが・・・」
「本当か!ララ?」
シンが嬉しそうに聞いてきた。
私はジオ様の方をチラッと見た。
ジオ様は優しい笑顔でうなずいてくれた。
「私はこれからもこの帝国内にいる間だけは、ジオ様とシン、二人の妻にでいようと思います」
「そうか!それでは世継ぎを産んでくれる決心が出来たのだな!」
「・・・それは・・・ごめんなさい!、気持ちの整理がつくまでもう少しかかりそうです」
やっぱり今まで生きてきた社会の常識を覆すのはそう簡単じゃなかった。
罪悪感を残さずシンに抱かれるには、もう少し時間が必要だ。
「そうか・・・まあ、気長に待つ事にしよう」
「あ、そう言えば!『静慮の魔女』に魔物の出現予想を聞いたんですよね?」
私の旅の本来の目的を忘れるところだった。
「ああ、それだが、今から一ケ月後に帝国の南方に位置する密林の王国に魔物の大攻勢があるというのだ」
「それって!あたしの国です!」
そうか!レダって密林の王国の王女殿下だったよ。
「それに合わせて討伐隊を組織する事になる」
「私もそれに参加します。それが本来の目的ですので!」
「ああ、そうしてくれると心強い」
・・・一ケ月後か、帝国から出られるようになったし、一旦王国に帰ろうとは思うけど、すぐにとんぼがえりする事になるかな。
でもレダの国に行くのはちょっと楽しみかもしれない。