6話 勇者様と野宿
「このきれいな山のどこかに魔物が潜んでいるんですね?」
「ああ、そうだ。町に被害が及ぶ前に倒さなければな」
「そうですね!」
この町は平和そのもので、住人たちは活気にあふれて笑顔で満ちている。
私のいた町の様にしてはいけない。
「魔物の目撃情報はここから北側の山の方だよ」
「早速出発するか」
私たちは町の城壁の外に出るため北側の門へとやって来た。
「あんたたち、町の北側は魔物の目撃情報があったから一般人は通せないよ!」
門の警備をしている兵士に呼び止められた。
「俺たちはその魔物を討伐に来た」
「騎士様には見えないけど冒険者かい?」
魔物を討伐すると賞金がもらえるし、魔物を倒した後に残る魔結晶はそのまま通貨としても使えるので民間にはそれを生業とした冒険者がいる。
「まぁそんなところだ」
「今回の魔物は『上級』かもしれないって話だ。並みの冒険者じゃ歯が立たないよ!」
「俺たちは並みじゃねぇ!」
ゼト様が前に出た。
「いや、確かにあんたは強そうだけど、そこのかわいいお嬢ちゃんも連れて行くのかい?」
「こいつはこう見えてあんたより強ええぞ」
「いや、さすがにそれは話を盛りすぎだろ?」
(ゼト様、かえって話がややこしくなってますよ!)
「まぁまぁ、危ないと思ったらすぐに逃げて帰ってきますんで!」
セナ様が兵士を説得して何とか門を通してもらった。
「『勇者』って名乗ったら話が早かったのではないですか?」
門を通り抜け森の中の道を歩きながらジオ様に尋ねてみた。
「『勇者』と知られると町をあげてもてなされたり、一緒に討伐を手伝うと志願者が名乗り出たり、厄介な事になる」
「あと、夜這いをかけられたりね?」
セナ様が割り込んできた。
「そうなんですか!?」
「こいつ結構顔がいいだろ?女の子たちが結婚を申し込んで来たり、既成事実を作ろうと宿に忍び込んできたり大変な事になったんだよね」
「余計な事を話さんでいい!」
「それからさらに女性と距離を置くようになったんだよね」
「やめろ」
(よく考えたら私も同じだった・・・しかも初対面でやらかしてしまっていた)
思い出したら恥ずかしくなって、落ち込んでしまった。
「お前は・・・別だ・・・」
「えっ?」
「お前は特別だ。・・・弟子だからな」
落ち込んだ私にジオ様なりに気を使ってくれたらしい。
「そっかそっか!ジオ君にとってララちゃんは特別な女性かぁ!」
「茶化すな!お前は!」
どうしよう!うれしくてどうしても顔が緩んでしまう!
「今日はここで野宿する」
山道を一日北に向かって歩いたところで日が暮れてきた。
「じゃあ私が夕食の用意をしますね!」
途中で出くわした野鳥を弓矢で射落としていた。食べられる野草や薬草、木の実やキノコもあったので採っておいた。
「へぇ!ララちゃん料理もできるんだ!」
「任せて下さい!調理士の修行中です」
エプロンを締めて調理を始めた。メイド服のオプションのエプロンを持って来ていたのだ。
野鳥を短剣でさばき、火を起こして、キャンプ用のナベで焼き始める。
持ってきた調味料も使って味を調え、現地調達した薬草を使った特製のソースをかけて完成だ。
野草と木の実で付け合わせのサラダも作った。これにも薬草で作った特製ドレッシングをかける。
野鳥の骨で出汁をとり、山菜とキノコでスープも作った。
「へぇ手際が良いねぇ」
「簡単なものですけど召し上がってください!」
「「「「いただきます」」」」
「・・・うまっ!なにこれ!なんで現地調達した材料でこんなおいしい料理になるの?」
「野宿でこんなうまいもんにありつけるとは思わなかったぜ!ありがとな、嬢ちゃん」
セナ様もゼト様もご満悦だった。
「あいかわらずララの料理は旨いな」
ジオ様にも気に入ってもらえた!
「しかしこれは初めて食べる味だな」
「この地域にしかない珍しい食材が色々あったので使ってみました」
「使った事ない食材なのに何でこんなにおいしく作れたの?」
セナ様が疑問に思ったらしい。
「私、鼻が利くので香りで食べられるかどうかわかるんです。舌も利くので素材を味見すれば、どう調理したらどんな味に仕上がるとか、どの調味料が合うとか何となくわかるんです」
「へぇ!何気にすごい特技だね!」
「ありがとうございます!」
「ララの料理にはいつも楽しませてもらっている」
ジオ様が優しい口調で話しかけてくれた。表情は乏しいけど少しだけ微笑んでいた。
「ジオ様・・・そう言ってもらえると・・・私もうれしいです」
ちょっと照れながら見つめ返した。
「のろけちゃって!ジオ君、最高のお嫁さん手に入れたね!」
「こいつは嫁じゃない! 弟子だ!」
「だってどう見ても新婚の幼な妻にしか見えないよ?」
ジオ様はエプロン姿で隣に座っている私を見下ろし、ちょっとだけ赤くなった。
ジオ様、これはかなり照れてると見た!
もう!顔のニマニマが止まらなくなりそう!