10話 勇者様と皇帝
「昨晩、ルルやシィラと三人ですごしていたところに、シンから使いが来たのだ」
「シンから・・・ですか?」
「そうだ、皇帝が俺を呼んでいると」
「ジオ様を?」
「ああ、俺一人でシンのところに来るように言われたのだ」
「どうして?赤ん坊であるジオ様一人でなどと?」
「シィラがララに確認をとってくると言ったら、ララには知らせずに俺だけを連れて来て欲しいというのシンからの希望だというのだ」
「どういうことなんでしょう?」
「俺も疑問に思ったが、シンが俺達に悪意を持っていない事はわかっていたし、何か理由があると思って、申し出に応じたのだ」
シンが、ジオ様一人を呼び出すって・・・一体?
「俺は使いの者に抱かれてシンの執務室に連れていかれ、シンに手渡されて執務室に入ると、そこに『静慮の魔女』がいたのだ」
「ネネが!ネネがシンのところにいたんですね?ネネはまだそこにいるの?」
「いや・・・昨晩のうちにいなくなってしまった」
・・・そっか・・・また会えなかった・・・
「でもジオ様は話が出来たんですね?」
「ああ、話をした」
「それで、『静慮の魔女』は、何と言ってました?」
「『静慮の魔女』は昨晩、突然シンの前に現れて、魔物の出現を教えてあげる代わりに、俺を連れて来る様にシンに言ったそうだ」
「ネネが?私ではなくジオ様に用があると?」
「そうだ、俺が部屋に着くと、俺とシンの二人に向かって話し始めたのだ・・・ララを不幸にしてはならないと」
「えっ!私の事?」
「そうだ、ララが不幸になるとこの世界は滅亡すると・・・今回の俺とシンの判断は、ララの心に影を落とし、やがて世界を滅亡へとに導くきっかけになる。ララが本当に望む事を二人で正しく見極めろと。そのために必要な魔法を俺にかけると言って、魔法で俺を以前の姿に戻したのだ」
「ネネが・・・ジオ様をその姿に?」
「ああ、そして言っていた。この魔法はララにも使う事が出来たはずだ。使わない理由は俺の寿命が短くなるのを防ぐためだと」
「・・・はい、その通りです。ジオ様をその姿にする事は私にも出来ました。でも、私はジオ様と一日でも長く一緒にいたかったんです。赤ちゃんからの時間を全部一緒に過ごしたかった」
歳をとらせるという事は、余命が短くなるという事で、それだけ別れの日が早くなってしまうのだ。
だから私はこの魔法の存在をジオ様に言わないでいたのだ。
「『静慮の魔女』もその事はわかっていた。だからこの魔法は三日しか持たない様にしてあるそうだ」
そうか!短時間で元に戻せば寿命は大きく減らないんだ!
「そして、その三日でどうすればララが最も幸福になるか、二人で考えて行動しろと言って『静慮の魔女』は姿を消してしまったのだ」
・・・ネネが言う・・・私の幸せが世界を救うって・・・どういう事だろ?
「とにかく、俺はシンに事情を話し相談に乗ってもらった」
「そっか、シンには話したんだ」
「ああ、ララは覚悟を決めていたし、シンにも好感を持っていた。そしてララの本心がどこにあるのか、二人で語り尽くしたのだ」
「それで、夜遅くなったのですね」
「ああ、腹を割って話すために、シンの提案で一緒に風呂に入って風呂の中で語り合ったのだ。それぞれがいかにララの事を愛しているか、そして、ララが最も幸せになる選択肢は何なのか」
・・・ちょっと待って!超絶イケメン二人が一緒にお風呂に入って、全裸で私への愛を語り尽くすって!どんなご褒美なんだ!その場にいてその様子を直接見たかったよ!
「そして二人で考え抜いた結論がこれだった」
「シンとジオ様が入れ替わる事?」
「そうだ、お互いの体を観察して気が付いたのだ、俺とシンは体格が殆んど一致している事に」
・・・イケメン二人がお互いの裸体を観察し合ったという事ですかっ!
さっきから頭の中で変な妄想が広がって大変な事になってるんですけど!
「ララは、俺とシンの二人に好意を抱いていて、シンに抱かれたいという気持ちがある事も偽りではないのだろう?」
「・・・はい・・・ごめんなさい・・・ちょっとだけシンに・・・抱かれたいという気持ちは確かにあります・・・」
ううっ、完全に見透かされているよ!
「本来ならその思いは封じ込めるしかなかったのだろうが、今回の状況や、この国の法的に許される状況になってしまった。だが、自分に意志ではないのだという大義名分に自分に気持ちを隠そうとした事によって、かえって俺に対する罪悪感が強くなってしまうのではないかと考えたのだ」
うわーっ!私の深層心理まで完全に読まれてるよ!
二人とも能力高過ぎ!
「そうです!その通りです!」
もう、ジオ様に自分の気持ちを隠してもしょうがない!
「わたしはジオ様もシンもどちらも愛しています!シンに抱かれたいというのも本心です!どちらかを選べと言われたら、それはもちろんジオ様なんですけど、シンの事も愛しているのは紛れもない私の本心なんです!」
思いっきり心の内をぶちまけてしまった!
「同時に二人の男性を愛してしまうなんて・・・これじゃあ私、『強欲の魔女』じゃなくて『色欲の魔女』ですよね?」
・・・『色欲の魔女』って、私とは別に、ちゃんといるんだけどね・・・
「ララ、人を愛する事は悪い事ではない。むしろララには男女を問わず世界中の全ての人を愛して欲しい」
「ジオ様は・・・それで構わないのですか?」
「俺の事も変わらず愛してくれるのなら俺はそれで十分だ」
「でも・・・それがジオ様の本心かどうか、不安が残ってしまいます」
「問題はそこだな。ララは俺が無理をしているのではないかという不安を抱え、罪悪感を感じてしまう。オレが口で言ってもララが信じなければ同じ事だ」
そうだ!・・・今回一番気になった点はそこだった。
「そこで、ララが俺に罪悪感を感じずにシンに抱かれるにはどうすればいいか、シンと話しあったのだ」
「そんな事まで話したんですか!」
普通、同じ女性を好きになった男性同士がする話ではないですよね?
「ララの罪悪感を拂拭するには俺がシンの他の妃と関係を持つのはどうかという案もあったのだが、現状では意味がないという事になった」
うーん、レダは論外として、ジオ様とミラがそういう関係になるのは・・・どう考えても二人とも私のためならそれくらいやりそうだけど、あくまでも事務的な作業としてだよね。
それはなんか違う気がする。
二人が本気で愛し合っていないと意味がないよ。
「いっその事、俺とシンが関係を持ってしまえばララにも後ろめたさが無くなるのではないかという案も考えてみたのだ」
えっ!
ちょっと待って!それって!!!
「そっ!それって、ジオ様とシンが!・・・その・・・肉体的な関係を結ぶという意味で・・・あってます?」
「そうでなければ意味が無いだろう?俺もシンも話をして互いに好感を持った。身体的な問題がない事もすでに確認済だ。後はこのプランでララの同意が得られれば、実行する事はやぶさかではない」
ちょと!ちょっと!ちょっと!
なんでそんな話が進んでるの!
身体的に確認済みって!・・・一体何をどうやって確認したの!
それってもう、ほどんど済ませたのと同じ事じゃないの!
頭の中をイケメン二人のいろいろな構図がぐるぐる回って、もう大変な事になってるよ!
「どうだろうか?ララ」
「どっ!どうって!・・・それはそれで夢のようなんだけど・・・そうじゃなくて!・・・なんかそれだと私が逆に疎外感を感じるかもしれない」
二人の幸せを願って私は身を引いてしまいそうだよ!
「やはりだめか・・・二人で覚悟を決めていたのだが」
なんでそんな覚悟を早々に決めてるの!
私の事を第一に考えてくれての事なんだろうけど・・・ちょっと度を過ぎてない?
もう、妄想が膨らみすぎて破裂しそうだよ!
「そして、考え抜いた結果、出した結論が、『現状維持』という事になった」
「えっ、つまり・・・何もしないという事?」
「そうだ。何も焦る事は無い。シンはララの気落ちの整理がつくまで待つと言ってくれた」
そっか・・・私が焦り過ぎてたんだよね。
「その上で、昨日はララにサプライズをプレゼントしようと二人で考えたのだ」
「もう!ほんとにびっくりしましたよ!」
サプライズ、大成功だよ!それも最高のサプライズだったよ。
「シンとの事は、これから時間をかけてじっくりと考えればいい。いつかララに迷いが無くなった時にそうすればいい。ララには常に自由でいて欲しいというのが俺とシンの出した結論だ」
「うん・・・ありがとう。二人とも最高の旦那様だよ!」
私の目から涙が溢れ出していた。
こんな最高の男性二人に愛されて、私は本当に幸せ者だよ。
あ!、そうだ、私の罪状はどうなるんだろ?
「・・・でも、世継ぎを産むまで私は無罪にならないけど、それはどうしよう」
「大丈夫だ。それなら俺に策がある」




