9話 勇者の弟子と驚喜の朝
目が覚めると外はすっかり明るくなっていた。
次第に意識がはっきりしてくると・・・昨晩の事を思い出した!
そうだ・・・私は・・・とうとうジオ様以外の男性に抱かれてしまったのだ。
その相手・・・シンは今、私を後ろから抱きしめたまま眠っている。
昨日は夜遅くまで仕事をした後、私とたくさん愛し合ったので、まだ疲れているのだろう。
私は、間違いなくシンの事を愛しているし、シンも本気で私の事を愛してくれていて、とても大切に思っていてくれている。
その事を十二分に感じる事の出来た素敵な夜だった。
ただ、夜が明けてから再認識してしまった。
私はやはり、それ以上にジオ様の事を愛していたのだと・・・
昨晩のシンはとてもやさしく私を愛してくれて、私は十分に幸福感を得る事が出来た。
・・・しかし、シンの体の特徴はあまりにもジオ様に酷似しすぎていたのだ。
シンに抱かれ、愛を確かめ合う内に、私はまるでジオ様に抱かれているかの様な錯覚に陥ってしまったのだ。
途中から、本当にジオ様に抱かれている気分になってしまって、もしかしたらジオ様の名前を口に出して呼んでしまったかもしれない。
私はシンに抱かれながら、ジオ様に抱かれる幸福感に酔いしれてしまったのだ!
どうやらその幸福感に包まれたまま寝付いてしまい、先ほど目が覚めた私は強い後悔に襲われていたのだ。
結局、愛する男性二人に申し訳ない事をしてしまった。
ジオ様に対しては、やっぱり罪悪感が残ってしまった。
他の男性に抱かれた事によって、ジオ様に対する想いの強さを再確認してしまった。
この罪悪感は、もう一生消える事が無い気がする。
シンに対しても大変失礼な事をしてしまったのだ。
真剣に私を愛し、大事に思ってくれている人に抱かれながら、別の男性に抱かれている事を想像していたのだ。
こんなひどい話は無いだろう。
私はまた傲慢になっていたのだと思う。
この国の法律で、同時に二人の男性を愛する事が許されて、自分にも二人を同時に愛する事が出来る気になっていたのだ。
・・・でも・・・法律で許されているかどうかなんて、どうでも良かったのだ。
大切なのは自分の気持ち、そして相手の気持ちだ。
法で罰せられる事が無いからと言って、自分や、自分の大切な人の気持ちを踏みにじっていい事にはならない!
私はそこを勘違いしていた。
ジオ様を愛している。ジオ様を裏切りたくない。というのが、偽りのない私の本心だったのだ!
自分の意志ではなく、周りの状況に流された結果、大きな後悔が残ってしまった。
こんな事なら、いっその事、魔法で帝国の国民全員の記憶操作でもしてしまった方がまだ良かったのかもしれない。
『勇者』である事を明かして、『勇者』の特権でごり押しする事も出来たのだ。
ジオ様や、シンを傷つけ、私自身も傷つける事になるなら、変なこだわりなんか捨てて利用できる物を最大限利用すれば良かった。
でも・・・いくら悔やんでもジオ様を裏切ってしまったという事実は、もう元には戻らないのだ。
気が付くと私の目からは、ぽろぽろと大粒の涙が流れ落ちていたのだ。
「ララ、どうした?何を泣いている」
私の耳元で声がした。
シンが目を覚ましたみたいだ。
・・・・・・違う!
この声は・・・シンの声じゃない!
この声は・・・・
この声は・・・・
「ジオ様!?」
私は咄嗟に振り返った!
・・・そこには・・・懐かしい大人の姿のジオ様の笑顔があったのだ。
「おはよう、ララ」
「・・・・・ジオ・・・様?・・・どうして?」
「話せば長くなるんだが・・・訳があって、この姿に戻る事が出来た」
どういう事?
こんな事ってあるの?
「ジオ様・・・いつ・・・から?」
「昨日の夜からだ。シンが俺と交代してくれた」
「じゃあ・・・一晩共に過ごしたのは?」
「ああ、俺だ」
ジオ様は顔を赤らめて、少し恥ずかしそうだ。
それじゃあ、シンの事をジオ様だと思ってしまったのではなく、本当にジオ様だったんだ。
「ジオ様ぁ!会いたかったです!」
私は思わジオ様の首に手を回して抱きついた。
そして唇を重ねた。
うん!ジオ様の感触だ!
ジオ様そっくりのはずだ!
何しろ本人だったんだから!
「ジオ様・・・このまま・・・いいですか?」
私は激しい口づけを交わしながらジオ様にお願いした。
「ああ・・・俺も、そうしたい」
・・・そうして、私たちは再び愛を確かめ合ったのだった・・・
「ふふっ、前にもこんな事ありましたね」
「ああ、そうだったな、初めての時だった。あの時は俺からだったな」
「どうして、はじめに教えてくれなかったんですか?」
「シンに頼まれたのだ。交代する代わりに正体を明かさないでいてくれと」
「なぜそんな条件を?」
「自分がララに愛されているか知りたかったのだろうな」
そう、私はシンだと信じたまま結ばれてしまったのだ。
「ジオ様、ごめんなさい、私はついにジオ様を裏切ってしまいました」
「これは俺の望んだ事だ。裏切ってなどいない。それに俺もある意味これで安心出来たのだ。ララは俺がいなくなった後も孤独になる事は無いと」
ジオ様、どこまでも私の事を考えてくれているのだ。
「もちろん、少しだけ嫉妬は感じてしまったが・・・しかしララが途中で俺の名前を呼んでくれて嬉しく感じてしまった」
「えっ!やっぱりジオ様の名前、呼んでました?」
「ああ、最高の瞬間に俺の名前を呼んでくれた」
ええ!やっぱりそうだったんだ!
気持ちが高ぶって気が付かなかったよ!
でも、シンが相手の時じゃなくてほんとに良かったよ。
「そうだ!一体何があったの?どうしてジオ差が元の姿に」
「それなんだが・・・昨晩、『静慮の魔女』が現れたのだ」