3話 勇者の弟子と股間蹴り大会
ついに『皇帝の股間蹴り大会』が幕を開けた!
この大会で見事皇帝の股間に蹴りを入れられた女性は、何名でも妃に向かえるという皇帝自らの勅命により、帝国全土から選ばれた64名がこの競技場に集まっている。
って言うか、私の罪をうやむやにするために、ここまで大規模なイベントを開催するって、皇帝の権力ってすごいんだなって素直に感心するよ!
同時に、私のためにここまでやってくれるシンにどうやって感謝すればいいのだろうって考えたら、確かに世継ぎを産んであげるぐらいの事をしないとつり合いがとれないという気がしてきた。
私はシンと一緒に皇帝の特別席から会場を見下ろしている。
「シン一人であの人数と戦う訳ですよね、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない、ララ以外に蹴りを入れられるつもりはない」
「でも、わざと負ければあの全員をお嫁さんに出来ますよ?」
「ははは、さすがにそれは身が持たないよ。それに俺はララ一人がいればそれで十分だ」
「私にだけ二股させておいて、シンだけ私一筋なんてずるいです!シンも他に好きな人を作ってください」
「おやっ?今の発言だと、ララは俺にも恋心を抱いているという事になるが?」
「そっ!それは言葉のあやですっ!シンとは、あくまでも罪状を軽減するための手段としての結婚ですからねっ!」
いきなり鋭いところを突かれて咄嗟に焦ってしまった。
・・・顔を赤くしながら言っても説得力無いよね?
「あはは、わかっているとも、そこまで自惚れるつもりはないよ」
「本当ですよ!勘違いしないで下さいね!」
「じゃあ、行ってくる。ここで応援していてくれ」
「もし股間が潰されても私が治してあげますから安心して蹴られてくださいね!」
「ははは!その時はよろしく頼む!そうしないとララと子作りが出来なくなってしまうからな」
「その時は、潰した相手とも子作りをする事になりますよ?」
「ははははは!確かにそうだな!」
シンは楽しそうに笑いながら競技場へと降りて行った。
それにしても・・・シンとのやり取りも、すっかり自然になってしまったな。
無意識のうちにシンの恋人の様な目線で発言してしまう事がある。
・・・少しだけ自覚はあるのだ。
私は、ほんの少しだけシンに恋心を抱き始めている。
もちろん、ジオ様への恋心は全然冷めてはいない。
むしろ今回の一件でますます惚れ直してしまったくらいだ。
でもジオ様への想いが強くなっていくのと同時に、シンへの想いも育ってしまっているのだ。
同時に二人の男性に恋心を抱く事があるなんて、自分にこんな浮気性な面があるなんて思ってもみなかった。
これまでの常識で、同時に複数の異性を好きになるのはいけない事だという意識があった。
私の住んでいた王国では王族や貴族を除き、複数の相手との結婚は法律で禁止されている。
これまでは、複数の人を好きになった時は、気持ちを押し殺したり、どちらか一人を選ばなければいけないと思い込んでいた。
それが当然の事なので、特に疑問にも感じていなかったし、同時に複数の人を好きになるのはいけない事だと漠然と思っていた。
以前の私だったら、当然の様にシンへのこの気持ちは押し殺していたに違いない。
あるいは、シンと結婚しなければならなくなった時点で、ジオ様への気持ちにけじめを付け、別れを告げていたのではないだろうか?
でもこの帝国においては、同時に複数の異性を好きになっても、複数の相手と結婚しても、それは悪い事ではないし、罪には問われないのだ。
男性にのみ多妻を認めている国なら他にもあるが、女性にも多夫を認めているこの帝国は、ある意味革新的だ。
女性の人権もきちんと男性と平等に守られているのだろう。
今まであった、常識や法律という言い訳が出来なくなって、自分の気持ちと責任だけで判断していいという状況になって、あらためて自分の気持ちに正直に向き合ってみると・・・
私は今、間違いなく二人の男性に同時に恋心を抱いてしまっているのだ!
ジオ様への想いはすでにあふれんばかりに膨れあがって、花開き、実を結ぶくらいまで成熟している。
・・・まあ、既に実を結んでしまっている訳だが・・・
シンへの想いも、抑えなくて良いと決めてから、毎日着実に気持ちが育ってしまっている事を自覚しているのだ。
このまま行ったら・・・いずれ、シンへの気持ちも花開き実を結んでしまうかもしれない!
・・・って、これから本当に実を結ばなければならないのだけれど・・・
その頃には・・・私の恋心は本心からシンの子供を産みたいと思うくらいまで育っているのだろうか?
そんな事を考えている内に、『股間蹴り大会は』の第一戦が始まろうとしていた。
対戦方法だが、シンが64人全員と一人づつ相手をしていては大変な事になるので、8人ずつ同時に8回の試合を行う事になったらしい。
各試合ごとに、8つの国から1名ずつ参戦するのだ。
8人はお互いにライバルを潰しあってもいいし、他の出場者は無視してシンの股間だけを狙ってもいい。
一試合は5分間で、その間に、一人もシンに蹴りを決められなければ全員不合格となる。
シンは基本的に逃げるだけで応戦はしない。
武器の使用は認められているので、各々、剣や槍、こん棒など得意とする武器を手にしている。
他の選手と武器で戦う事は問題無いが、シンに武器で攻撃を入れた場合は失格となる。
・・・というか死罪になるのでは?
一応この大会の特例として、素手で直接シンに攻撃を入れた場合に限り罪には問われない事になっている。
じゃあ、私の罪も!って思ったんだけど、私の場合は試合中ではなかったで、だめだと言われた。
それと、膝蹴り限定では難易度が高いので、体のどの部位でシンの股間に攻撃を決めても有効とする事になった。
格闘場のステージの中央にシンが待機して、参加選手はステージの周辺に円形に等間隔で配置されている。
いよいよ第一試合の開始だ。
試合開始の合図と同時に、選手たちは一斉にシンに向かって突進した。
しかし途中で隣の選手との距離が近づくと、それぞれが戦いを始めた。
そして相手を打ち倒した選手がシンに迫る!
しかし、シンは余裕で女性たちの攻撃を躱していた。
その間に倒された選手も体制を立て直し、再びシンに向かう。
すると再び選手同士の戦いになる。
そんな感じで、選手同士の戦いの合間にフリーになった選手がシンに迫るのだが、シンはそれを余裕で躱してステージ上を逃げ回っていた。
そして、余裕があり過ぎて、特別席に私の姿を見つけると、手を振って笑いかけてきた。
・・・その直後、女性たちの憎悪と嫉妬の目が一斉に私に向けられたのは言うまでもない。




