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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第4章 砂漠の王国
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12話 勇者様と人間社会の魔女

「ララ様!ご無事でなによりです!」


 隠し通路を抜けた先にはシィラが待っていた。


「シィラの方は大丈夫だった?」


「はい、保護されて、ここに匿まって頂きました」


「反帝国派の者に利用される可能性があったから保護する様にとシンからの指示でした」


「ありがとう!ミラ!」


 私は思わずミラの両手を握って顔を近づけた。


「いっ、いえ、わたしはシンの指示で動いただけです。では、わたしはこれで失礼します」


 ミラは顔を赤くしながらそう言って去って行った。




「ジオ様!ルル!会いたかった!」


 私はジオ様とルルに抱きついた。


(大変だったな、ララ)


「うん、思った以上に大事になってたよ!」




 私はルルにおっぱいをあげながら、ジオ様とシィラに事情を話した。




(それで、ララはどうするんだ?)


「もちろん!シンと結婚するつもりなんかないよ!」


(だがこの状況をどうやって切り抜けるつもりだ?)


「そうなんだよね、一つ間違えると戦争が始まっちゃうからね」


(魔法で解決できないのか)


「うん、『強欲の魔女』の魔法を使えば、今回関わった全員の記憶を書き換えるとか、ざっと思いつくだけでも10通り以上の解決方法は有るんだけど・・・」


(それは使いたくないんだな?)


「うん・・・直接人の心を操ったりする魔法はできれば使いたくないんだよね。人の世界で普通に生きていくのに、その手も魔法を使っちゃうと・・・もう対等の立場ではなくなっちゃう気がして」


 そうなったら、今の様に人間の世界に溶け込んで生きていけなくなって、多くの魔女がそうしている様に人間から距離を取って、孤独に生きていくしかなくなってしまう気がするのだ。


「私はまだ、この人間の社会から離れたくないんだよね」


 私はこの人生で知り合えた、たくさんの仲間や友人達と、まだ一緒に生きて行きたいのだ。




 ・・・不老不死の魔女である私は、いずれこの人間社会から離れて行かなければならない。


 だけど、できれば普通の人の一生分ぐらいの時間は人間としての生活を続けたいのだ。




(・・・それなら、シンの申し出を受けてみるのもいいんじゃないのか?)



「ジオ様!何を馬鹿な事を言ってるんですか!」


 ・・・ジオ様から、まさかの提案があった。


(前から考えていたんだ。ララは俺よりもずっと長い寿命を持っている。俺がもう一度死んだ後も、長い時間を生きて行かなければならない。ララの人生で、俺がパートナーを務められるのはごく僅かな時間に過ぎないと)


「だからこそ!ジオ様と共に生きられる時間を大切にしたいんです!」


(ララが、俺一人を大切にしてくれている事は本当に嬉しく思っている・・・だが、俺は本来、先の『終焉の魔物』との戦いでこの世からいなくなっていたはずの人間だ。そして、次に『終焉の魔物』が現れたら、今度こそ永遠の別れになるかもしれない)


「その時は!・・・また、新しい体を作ってあげます!」


(・・・次も必ず成功するという保証は無いだろう?)




 ・・・そうなのだ、前回どうしてうまくいったのか、その理屈はわかってはいない。

 もし、失敗したら、二度とジオ様とは会えなくなってしまうのだ。




(だから、ララには、俺以外のパートナーを持つ事も視野に入れておいて欲しい)



「ですが・・・ジオ様は今、こうして目の前にいる訳ですから!」




(・・・だが、このような姿では、夫としての役割を十分に果たせてはいない)




「ジオ様!・・・やっぱり・・・気が付いてました・・・よね?」


 私が時々夜中にベッドの中で一人で悶々としてた事・・・やっぱりばれてますよね?


(すまない・・・俺は完全に眠る事は無いのでな)


 私は耳までカーっと熱くなってしまった。




 ・・・そう、あの二晩だけの出来事は私にとっては、かけがえのない最高の思い出なのだ。


 今でも鮮明にその時の事を思い出す事が出来る。


 ただ・・・あまり鮮明に思い出し過ぎると・・・その・・・体も、その時の感覚を思い出してしまって・・・・・・・・・


 ・・・我慢できなくなってしまう時もあるのだ・・・


「でもっ!ジオ様の体が成長するまで我慢しますっ!」


 うん、一生できない訳じゃないもんね!

 

 ・・・でも、自分のお腹から出てきたジオ様の体とそういう事するのって、倫理的にどうなんだろう?・・・


 まあ、私のおなかを使ったってだけで、私の本当の子供ってわけじゃないからね。




(だが、そうなると人間の社会から離脱せざるを得なくなるぞ)


 犯罪者として逃げ隠れしながら生きていくか、あるいは魔女の力で人間を操って生きていくかって事になるからね。


「私は、ジオ様と二人なら、それでもかまいません。人間の社会と離別してもジオ様さえいてくれたら・・・」


(ルルはどうする?)


 ・・・そうだ、そうなればルルまで人の社会と隔離してしまう事になる。

 ルルには人間として、人間の社会の中で様々な出会いを経験して欲しい。


 かといって、ルルと別れて暮らすなんて考えられない。




「ジオ様は・・・私が他の人に抱かれても平気なんですか?」


 ・・・意地悪な質問をしてしまった。


(もちろん平気ではない。俺一人のものにしたいという気持ちはある。欲や感情が欠落した俺が、唯一、欲を感じる対象はララだけだ。だが、かといって、ララを縛り付けたいわけではない。ララにはもっと自由でいて欲しいと思っている)


「私は・・・今は自分の意志でジオ様を好きでいたいです」


(話を聞く限り、シンという皇帝は良い人物の様だ。できれば一度直接話をしてみたいものだが、ララがそれだけ高く評価しているなら問題は無いのだろう。それに、ララ自身も少なからず好意を持っているのだろう?)


「それは!・・・・・確かにドキッとする瞬間は有ります。多分、ジオ様に感じた感情と同じかもしれません。もし・・・ジオ様に先に出会っていなかったら・・・好きになっていたかもしれません」


(この国ではどちらか一人に決める必要は無いのだろう?)


「この国の法律ではそうですが・・・今までの常識とかけ離れ過ぎていて・・・まだ、実感がありません」


 複数の相手を同時に好きになる事が当たりまえに許されている世界って・・・どうなんだろう?



(さっきの話だが、俺が一番心配しているのは、俺がいなくなった後、ララが俺に遠慮して次のパートナーをいつまでも選べなくなってしまうのではないかという事だ。だったら、俺が生きている内にそれを認めてしまった方が、ララに迷いがなくなるのではないかと思ったのだ。この国の倫理観は・・・これから長い時間を生きていく事になるララにとって救いになるかもしれない)


 ・・・この国にいる間は気兼ねなく浮気が出来るって事だよね?


 そもそも、浮気って概念すら存在しなくなるわけだけど・・・




 ・・・でもジオ様から見たら、自分が死んだ後にそういう心残りがあるって事だよね。


 ジオ様自身にも葛藤は有るんだろうな・・・


 ・・・赤ちゃんが自分の死後の事を今から考えるって、どうかと思うけど・・・




 私が逆の立場だったらどう思うかな?


 もし自分が先に死ぬ事がわかってて、その後ジオ様が、私の思い出に縛り付けられて、長い時間ずっと一人で生きていくとしたら・・・


 ・・・やっぱりジオ様には、新しいパートナーを見つけて幸せになって欲しいな・・・


 ジオ様の幸せの足枷にはなりたくないよ!



「私が・・・他の男性も愛せるとわかった方が、ジオ様が安心して死ねるという事ですか?」


(そういう側面もあるという事だ・・・それに、今の俺にとってララは妻であると同時に母親という存在でもあるのだ。おかしな言い方だが、俺から見ると、自分の母親が、死んだ父親の事が忘れられずにいつまでも次の幸せを見つけられずにいる様に見えてしまう事もある)


 ジオ様、そういう感情も持っていたんだ。


(いずれ、この体が成長すればララのパートナーとして自信をもって付き合える時期が来るかもしれない。だが、それまで時間は過去の自分が、今のララの幸せを妨げているような感覚になる事が、たまにあるのだ。)


 親の再婚を心配する子供の感情っていうのもあったんだ。


(少なくとも、俺が成人するまでの間、ララのパートナーとなって支えてくれる相手がいるのは悪くないと考えたのだ)


 ジオ様はいろいろな側面から私の幸せを考えていてくれるんだな。


 やっぱり、そんなジオ様が私は一番好きだよ!




 ・・・・・一番好きなのは間違いなくジオ様なんだけど・・・




「・・・わかりました。他にいいアイデアが出なかったら・・・シンとの結婚も考えてみます」




 それからの二週間、シンは毎日私のところに来て話をしてくれた。




 ジオ様とルルに会わせたら、こんなかわいい赤子は見た事が無いと褒めてくれた。

 それからは毎日二人の事をとても可愛がってくれた。


 ジオ様は今のところ、シンの前では赤ん坊のふりをしている。


 話をすればするほど、シンの良いところがたくさん見えてきた。

 それはジオ様も同意見だった。


 シンも話をしていく中で、ますます私の事を好きになったと言ってくれている。

 勇者の活動にも理解を示してくれて、この国に滞在中は全面的にバックアップしてくれると言ってくれた。




 この四人で家庭を築くのも悪くないかなと、考える様になっていた。




 ・・・・・そして二週間後、私はシンに結論を伝えた。






「シン、あなたの妻になります」


第二部 第4章 完結です。

砂漠編はこのまま第5章に続きます。

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