9話 勇者の弟子と砂漠の王
王城の謁見の間は広かった。
私の国の王城の謁見の間よりも広いんじゃないかな?
とにかく天井が高い。
正面の扉から謁見の間に入ると両サイドに傍聴人が座っており、上座の両サイドには大臣や貴族だろうか?お偉いさんらしき人達が見える。
そして中央通路の両側には屈強な衛兵がならび、その先の正面、玉座と思われる場所に座っているのが皇帝だろうか?
この国は元々、この砂漠の王国だけが国土だったのだが、現国王が即位してから周辺の小国を占領したり、統治下に置いたりして、この大陸全土を帝国として統一したのだそうだ。
そしてその国王が帝国の初代皇帝として現在の地位についているのだ。
つまり、あの人がこの国の国王でもあり、帝国の初代皇帝でもあるのだ。
「ララ、こちらへ」
ミラに連れられて、私は謁見の間の中央へ進んだ。
・・・なんだかちょっと結婚式みたいだな。
私が中央の通路を歩いていくと傍聴席からざわめきが起こった。
「おお、あれが罪人か?何という美しさだ!」
「これほど美しい女性は見た事が無い!本当に犯罪者なのか?」
「あの顔で帝国の滅亡を企てたとは・・・信じられん」
いろいろささやかれているけど、やましいところは無いのだから、ここはにっこりと微笑んでみよう。
「おおお!なんと可憐な!この娘が犯罪を企てるはずはない!」
「そうだ!何かの間違いだ!早く釈放してやれ!」
「この容姿、きっと『聖女』様に違いない!釈放しないと祟りが下るぞ!」
「素敵ですわ!あの方の美貌に引き立てられて、簡素な貫頭衣がまるで純白のドレスの様に見えてしまいますわ!」
「それに、薄い布越しに見える完璧なボディライン!同じ女性として羨ましいですわ」
うんうん、なんかいい雰囲気になって来たよ!
体のラインが出ちゃってるのはちょっと恥ずかしいけどね。
「皆の者、騙されるな!伝承では悪しき魔女はその美貌にて人々をたぶらかしたと聞く。この者、魔女かもしれぬぞ!」
うん・・・おしい、半分正解で半分外れだね。
「確かに、見た目に惑わされてはいけないな。今回の罪状から考えるとありうるのか?」
「そうだ、帝国滅亡を企てるほどの極悪人だ!容姿にだまされるな!」
うーん、微妙な感じになったな。
謁見の間の中央にたどり着くと膝まづく様に促された。
私は片膝をついて皇帝に頭を下げた。
ミラは私の斜め後ろに待機している。
「罪人、冒険者ララ、顔を上げよ」
私は言われた通り、顔を上げて皇帝を見た。
一応、笑顔は絶やさないでおこう。
皇帝は、この国の民族衣装である布を頭からかぶっているので、顔は良く見えない。
しかし、私の顔を見て一瞬動揺したのがわかった。
そして、両サイドにいる大臣や貴族たちがざわついている。
「間近で見ると更に美しい!本当にこの世の人間なのか?」
「我が一族が身元引受人になって保釈金を肩代わりしても良いのではないか」
「いや、それなら我が屋敷に引き取ろう」
「ええい!罪人でも構わん、わが妻に・・・・」
「・・・皆の者、静粛に!」
裁判官が審議を始めた。
「では審議を始める。その者、下級冒険者ララに相違ないな?」
「はい、下級冒険者のララでございます」
「冒険者証を確認しました。相違ありません」
脇のテーブルに私の所持品や装備が並べてあった。
役員が、私の冒険者証を確認していた。
「冒険者ララよ、その方、この王都の北側に位置する町にて、この帝国の滅亡を目的とする行為を行なったと報告があるが、これを真実と認めるか?」
「認めません!そのような事実は存在しません!」
「嘘をもうすな!その場に居合わせた証人からの証言があるのだ。言い逃れはできぬ」
「証人というのは戦士シンの事でしょうか?彼をこの場に呼んで下さい!そうすれば誤解だと分かります」
「誤解ではない。その証人からそなたの犯罪行為について事細かく証言を得ている」
「待って下さい。私のどの行動が帝国に対する犯罪行為に当たるといのでしょうか?その具体的な内容を提示ください」
具体的な話になれば、間違いだって指摘が出来るよ!
「そなたの犯罪行為とは、帝国の世継ぎを根絶やしにしようとした行為である」
・・・えっ! 皇帝の世継ぎを皆殺しにしようとしたって事?
そんな事絶対にしてないんだけど?
「そんな!皇帝の世継ぎを殺そうなどと、絶対にそのような行為はしておりません!」
ほら、やっぱり何かの間違いだったよ!
「そうではない。現在皇帝には未だ世継ぎは一人もいない」
えっ!世継ぎはいない?それじゃあどういう事?
「そなたは、皇帝陛下から生殖機能を奪って、世継ぎを作れなくしようと企み、あまつさえその計画を実行に移した事は紛れもない事実であろう!」
・・・えっ!・・・そんなむちゃくちゃな理由って!
「なるほど、あの美貌で皇帝陛下をたぶらかしたのか?」
「確かに皇帝陛下といえどもあの容姿で迫られたらあらがう事は出来なかったか」
「おお、怖い、あの見た目に騙されたらナニを取られてしまうのか」
「まさに魔女ではないか!ナニを切り取って食べるわけじゃないだろうな」
「あの顔でこれまで何人の男性から奪い取って来たのだか?」
「男の敵だな。あやうく惑わされるところだった」
「同じ女性として、とても許せませんわ!」
・・・なんかとんでもない淫乱猟奇女だって思われてるんですけど・・・
「事実無根です!皇帝陛下に一度もお会いした事もないのに、そんな事できる訳が・・・・・」
・・・あれっ?・・・ちょっと待って!男性の生殖機能って・・・あれの事だよね!
・・・あれっ?
その時、皇帝陛下が頭にかぶっていた布を外した。
皇帝陛下は、輝くような豪奢な金髪と、太陽の様な金色の瞳をした美しい青年だった。
・・・・・そう、シンが皇帝陛下だったのだ。




