8話 勇者の弟子と砂漠の牢獄
私が入れられたのは、鉄格子のはまった牢獄の一室だった。
室内にはベッドと洗面台、それにトイレが付いている。
って、トイレ、外から丸見えなんだけど・・・って牢獄は普通そうか・・・
いざ、自分が入ってみるとこれはかなり恥ずかしいな。
さて、これからどうしようかな?
多分取り調べは明日だろうから、それまでに状況を整理しておこうか?
まず、私がオアシスの町で盗賊の討伐をした時に、何かこの国に対して重大な犯罪行為を犯してしまったと思われてるって事だよね?
昨日の事を順番に思い出してみたけど、犯罪になる様な行為って一つもなかったと思うんだけど・・・
とらえた盗賊が嘘の証言をして私を陥れようとしているとか?
でも、シンはこの国の役人に結構繋がりがあるみたいだから、シンに証人になってもらえれば大丈夫だよね?
あと、さっきの女性の衛兵も多分味方になってくれそうな気がする。
仲良くなれてよかったよ!
色々考えを巡らしながら、少し仮眠をとっていたら夜になっていた。
「食事の時間だ!」
鉄格子の扉越しに、食事が差し出された。
「わたしはこいつと話がある。しばらく席をはずせ」
食事を差し出した衛兵は、部下に席を外すように言った。
食事を持ってきたのはさっきの女性だった。
部下がいなくなったのを確認して小声で話し始めた。
「お姉さま!会いに来ました!」
冷徹な表情だったのが、いきなりほころんでかわいらしい表情になった。
「うん、ええと、何て呼べばいいのかな?」
「わたしの名前はミラです。お姉さまのお名前はララでよろしいのですよね?」
「うん!ララって呼び捨てでいいよ!」
「では、ララ・・・お姉さま・・・」
「ララでいいってば!ミラ!さっきはごめんね、調子に乗ってからかい過ぎちゃった。でもミラがかわいいっていうのは本当だよ!」
「まだ信じられませんが・・・ありがとうございます!・・・ララ、わたしもこのような感情になったのは初めてで、ララの裸があまりにも美しすぎて、見ていたら変な気分になってしまって、気が付いたらあのような行動に・・・」
うわっ!よっぽど恥ずかしかったんだろうな、耳まで真っ赤だ。
「それにしても、わたしにはララが悪人には思えないのですが、どうしてこのような事をなさったのでしょうか?」
「それなんだけどね・・・身に覚えがないんだけど、私は何をしたって事になっているの?」
「オアシスのある町で、ララと名のる冒険者はこの王国及び帝国全体の存亡にかかわる大罪を犯したと報告を受けています」
「そんな大それた事はしていないはずなんだけど・・・その時一緒に戦ったシンという戦士が私の無実を証明できるはずだよ!シンっていう戦士に心当たりないかな?」
「・・・それが・・・今回、ララの犯行を申告した目撃者が、シンなんです」
「ええ!なんで!?あの時一緒に戦って、お互いに信頼関係が築けたと思ったのに!」
「シンは・・・わたしの幼馴染で昔から良く知っています。このような事で嘘をつく事は絶対にありません」
「それなら、今すぐシンに会わせてよ!直接話をすればすぐに誤解がとけるから!」
「・・・今すぐ会わせる事は出来ないのです。でも明日の法廷には出席しますのでその場で真実を証明するしかありません」
「そっか、じゃあ、明日まで待つよ!」
「では、ララ!直接触れ合えないのが心苦しいのですが・・・明日までこの場所で我慢して下さい」
「うん!じゃあまた明日!」
ミラは若干名残惜しそうに帰っていった。
うーん、落ち着いたとは言ってたけど、私に対する変な感情はそのままみたいだな?
まあ、明日の法廷でシンと話が出来ればすべて解決できそうだし、今晩は人生初の牢獄生活でも満喫してみよう!
次の朝、硬いベッドで目覚めた私は、ちょっと体の節々が痛かった。
まあ、野宿と思えばいいんだけど、牢獄体験は思ったより退屈だった。
っていうか、牢獄ってそういうものだよね。
お風呂に入れないのが残念だよね。最低限の洗面しかないから身だしなみも整えられないし、法廷に出るのに少し小ぎれいにしておきたいな。
・・・そう!こんな時のための魔法だよ!
他に手段がないんだからこんな時こそ使わなきゃ!
私は、魔法で空中にお湯の塊を作り出した。
服を脱いでその中に入る。
空中に浮かぶお湯の中にいい感じに浮かんで頭だけをお湯の外に出した。
うん!湯加減もばっちりだよ!
無重力で体が浮いているみたいですごく快適だ。
そのまま、お湯を動かして体を洗わせて、肌をピカピカにする。
うーん、気持ちいいな。
このまま眠ってしましたいくらいだ。
起きたばかりだけど。
次は頭にシャンプーを発生させて、魔法で泡を動かして髪を洗う。
手で洗ってもいいんだけど、せっかくだから全部魔法でやっちゃえ!
体と髪が洗い終わったから体の周りのお湯は消滅させる。
体はこのまま空中に浮かせておこう。
その方が楽ちんだし・・・
次は体に乳液や保湿剤を塗る。
もちろん魔法で発生させて魔法で塗ってるよ!
うん!肌がつるつるピカピカになったよ!
それから髪の毛にトリートメントや整髪剤を付けて髪形を整えていく。
これも全部魔法でやっちゃう!
つやつやさらさらの素敵な髪に仕上がった!
ついでだから顔のお化粧もやっちゃおう!
唇に紅を入れて、目にシャドウもいれて、ええと、仕上がりが見たいから魔法で鏡も出しちゃおう!
魔法で出した姿見に自分を映すために、横になって浮いていた体を縦にした。
せっかくきれいになった足の裏も汚したくないから、魔法で牢獄の床をピカピカにしてから着地する。
鏡を覗き込みながら、魔法でお化粧を仕上げていく。
いつもシィラ達がやってくれるパーティー向けのメイクを思い出しながら仕上げっていったら、われながらすごい美人に仕上がったよ!
うん!これで全身完璧だ!
メイクはちょっとやり過ぎて、王室主催のパーティー向けの最高レベルの仕上がりにしちゃったかな?
それにしても魔法ってやっぱり楽だな。
普段からこんな事やってたら、完全にダメ人間になっちゃうよ。
姿見の前でポーズを決めて、全身を入念にチェックしているところにミラがやって来た。
「おはようございます!ララ。お迎えに・・・!!!」
「ララお姉さま!裸で何やってるんですか!?って、はうっ!うっ、美しすぎます!・・・・ちょっと待っててください。わたしも今すぐ脱ぎます!」
ミラが混乱して脱ぎ始めた。
・・・なぜミラが脱ぐ?
「ミラ!ちょっと待って!すぐ服を着るから!」
私は慌てて下着を着けて貫頭衣をかぶった!
ちなみに下着も貫頭衣も魔法できれいにクリーニングして仕上げてある。
まぶしいくらいの白さだよ!
「はい、準備できたよ!法廷に行くんでしょ!」
「はっ!そうでした!わたしってば何を・・・」
ミラは慌てて身なりを整えた。
「はあ、びっくりしました!全裸でそのメイクは犯罪です!」
・・・うん、確かに首から上や髪形が高級パーティー仕様なのに全裸ってのは、バランスがおかしいよね。
「・・・というか、どうやってメイクしたんですか?」
「それは秘密です」
「一応わたしが多少身だしなみを整えて差し上げようと思って、早めに来たのですが余計なお世話でしたね」
「そうなんだ!気を使ってくれてありがとうね!ミラ!」
「いえ、本当はララに触れる口実が欲しかっただけなので・・・」
ミラは赤くなって口ごもってしまった。
「一応規則なので手枷を付けさせていただきます」
ミラは鉄格子を開けて中に入ると私の手に手枷を付けた。
例の魔力を抑制する手枷だ。
原理は既に解明済みで対策も出来ているから、私には意味が無いのだが。
「では、ついて来て下さい」
「今日の法廷は皇帝陛下の御前、謁見の間にて執り行われます」




