6話 勇者の弟子と砂漠の王都
「『勇者』にあった事があるんですか?」
自分より強いのは勇者だけだと豪語するシンに聞いてみた。
「いや、直接は無いが、噂に聞いた。『終焉の魔物』なんてとんでもない奴を倒すのは俺には無理だ」
まあ、あれは人間にどうにかできる相手じゃないからね!
「だが、純粋に剣の勝負なら『勇者』にも負ける気はないがな」
結構な自身ですね・・・でも、それはどうでしょうね!
「・・・そのつもりだったんだが・・・まさか、あんたみたいなやつがいたとはな。あんたとはいつか本気で勝負がしたいものだな」
「まあ、機会があればですけど・・・」
「とりあえずこいつらの後始末をしないとな」
「私は怪我をした人たちの治療をしてきます」
「そうか、あんた治癒魔法が使えたな。すまないがよろしく頼む」
私は、怪我人の見つけては治療して回った。
幸いにもまだ一人も死亡者は出ていなかった。
どんなに重症でも生きていれば治癒魔法で元通りに直す事が出来る。
かなり危険な状態の怪我人もいたが、ぎりぎりで治療が間に合った。
町の住人の治療が一通り終わった頃には、シンが町の自警団の人たちと一緒に盗賊たちを捕縛し終わったところだった。
私は捕縛が終わった盗賊の中で、特に重症の者には治癒魔法をかけてある程度まで回復させておいた。
そのままではいずれ死んでしまうので、死なない程度まで回復させたのだ。
「あんた、この先の旅の予定はどうなってんだ?」
シンが尋ねて来た
「これからこの国の王都に行ってしばらく滞在するつもりです」
「そうか、俺もこいつらの後始末が終わったら王都に行く。じゃあ、王都でまた会おうぜ!」
「まあ、ご縁があればですけどね」
私はシンと別れて宿屋へ戻った。
(大丈夫だったか?ララ)
「はい!ジオ様、盗賊の討伐に来た戦士で、ものすごく強い人がいたのであっさり片付きました!」
「こちらも宿に盗賊が数名入ってきましたが、わたしとジオ様で撃退しました」
(シィラが囮になってくれている隙に俺が背後から倒したから姿は見られていない)
「こっちも大変だったんだね」
(その戦士というのが気になるが、何者だ?)
「この国の戦士で名前はシンって言ってました。剣の腕は私やジオ様に匹敵するくらいです。それに附加装備のレイピアと互角に渡り合える剣を持っていました。この町の自警団の人たちとは知り合いみたいでしたので、この国の戦士というのは嘘ではないと思います」
(ただの戦士では無いと思うが、今度会う事があったら油断しない方がいい)
「はい!そのつもりです。王都に戻ると言ってたので王都で遭遇するかもしれません。気を付けておきましょう」
ルルは相変わらずよく眠っているので、私も一緒に寝る事にした。
翌朝、少し遅めに目が覚めると、宿の周りが騒々しい。
町の人達が昨日の後始末で朝から働いているのかな?
シィラもいないので、着替えて部屋を出た。
「あっ、お客さん、ようやくお目覚めかい!宿の前にあんたに礼を言いたいってやつが集まってるんだ。顔を出してやってくれないか?」
「えっ?そんな事になってたんですか?」
「ララ様がこの宿に泊まっていると聞きつけた町の方々が、朝からずっと待っていらっしゃいます」
私が目覚めるまでシィラが、時間を持たせてくれていたらしい。
「ララ様が顔を出さないと鎮まりそうにありません」
なんか、宿の前が大変な事になっていた。
私は宿の外に出た。
「おお!昨日の聖女様だ!」
「何言ってるんだ!騎士様だろう?危ない所を盗賊から助けてくれたんだ」
「こっちは、瀕死の重傷を負ったはずなのに、きれいさっぱり傷を治してくれたんだぞ!」
「あたしは夫と子供たちを助けてもらいました」
「あの神々しさはやはり聖女に違いない!」
「町が救われたのはあなた様のおかげです!」
「ララ様、昨日は大活躍だったみたいですね」
「うん、とにかく片っ端から手あたり次第に人助けしてたからね」
「ララ様、わしはこの町の町長です。皆を代表してお礼を言わせてください」
年配の男性が前に出てきた。
「そんな、私一人ではなくてシンという人と二人で盗賊を撃退したのですから」
「そのシンから頼まれたのですよ。あなたにお礼を言ってくれと」
「シンが?私にですか?」
「はい、あなたがいなければもっと被害が拡大していたと、シンはそう言ってました」
「こちらこそ、シンがいてくれて助かりました。そういえばシンはどうしていますか?」
「彼は既に盗賊の幹部を引き連れて王都に向かいました。そうそう、この件に関しては国から謝礼が出るはずなので、王都につ言ったら、王城に出頭する様にと託っておりました」
げっ!めんどくさいから王城には近寄らないつもりだったのに・・・
とは言っても王都に向かわない訳にはいかない。
この国の王都付近における魔物の大量発生・・・つまり『静慮の魔女』の出現予想時期が迫って来ているのだ。
町長の話が終わると、再び次から次へと町の人々が集まって来てしまって、口々にお礼を言ってくるので、これではキリがない。
すると人ごみの向こうからシィラの声がした。
「ララ様、出発の用意が整いました」
シィラが気を利かせて魔動馬車の準備をしていてくれたのだ。
「すみません!先を急ぐ旅ですのでこれで失礼します!」
私は、取り囲んでいた町長や町の人たちを振り切って、魔動馬車に飛び乗り、オアシスの町を後にした。
(大変だったな、ララ)
「はい、ジオ様がいつも勇者だという事を隠して討伐後は迅速に撤退していた理由があらためてよくわかりました」
昨晩は事が片付いた後、宿で眠らないで、夜中のうちに出発すべきだった。
シンはこれがわかっていて先に出発していたのではないだろうか?
「私たちも王都に急ぐよ!」
私たちは魔動馬車で砂漠をひたすら走り続けた。
あのオアシスの町から、王都までの間には、もう町も何も無いはずなのだ。
途中、何度か砂漠の魔物に遭遇し、戦闘となったが、人目が無い場所であればジオ様が活躍できるので、さほど大きな問題は無かった。
そして、砂漠を数日間走り抜け、目の前に王都が見えてきた。
王都は砂漠の中にある台地に作られており、台地の周辺部分には多少なりとも植物が生えていた。
広大な台地部分はその全周を高い強固な砂岩の壁て囲われていた。
私たちは王都の城門にたどり着き、入場手続きを行なった。
「冒険者のララです」
私は冒険者証を門番の衛兵に提示した。
「なにっ!冒険者ララだと!」
いきなり周りを十人ほどの衛兵に囲まれた。
「冒険者ララ!おまえに逮捕状が出ている!」




