1話 勇者の弟子と人魚の結婚式
第二部 第4章 【砂漠の王国】 開始します。
人魚の集落の一件のあと、私たちはしばらく王都に戻っていた。
弟子のゲン達がトラブルに巻き込まれたり、その他にもいくつかの事件が発生していてその対応に追われていたのだ。
それらの事件が片付いてようやく落ち着いた頃には、『静慮の魔女』が次に出現する可能性のある時期が近づいていた。
つまり、魔物の大量発生が起こるという事だ。
今度の予想地点は海を渡った隣の大陸だ。
隣の大陸には転移魔法陣が無いので、前回の海辺の町から海を渡るルートが最短となる。
ちょうど、テオとリュアの結婚式の日も近いので、折角だから二人の結婚式に参加してから海を渡る事にした。
「テオ!リュア!ひさしぶり!結婚おめでとう!」
「ララさん、今日はありがとうございます」
結婚式は人魚の集落で行なわれていた。
集落・・・というか町なんだけど、集落全体がカラフルに飾り立てられていた。
色とりどりの魚たちが周囲を踊る様に泳いでいる。
結婚式というよりはお祭りといった感じだ。
「へぇ!人魚の結婚式って、こんな感じなんだね?」
「ううん、これは人魚の結婚式じゃないよ」
「えっ!そうなの?」
「人魚には結婚式って習慣がないもの。そもそも結婚なんてしないし」
そうだった。女性しかいないもんね!
基本的に長寿だし、子孫を残す時は、その時だけ人間の男性と関係を持って、人魚の子を産むんだった。
「この結婚式はあたしとテオで考えたんだよ!」
なるほど、人間の町のお祭りを参考にしたな。
何だか色々でたらめだけど、こういうのは楽しい思い出として残ればいいんだよね!
結婚式はクライマックスになって、二人は結婚の誓いを立てた。
誓いの方法は剣士の結婚式の様式を真似ていた。
テオは英雄の剣を掲げ、リュアも自分の剣を掲げている。
二人はそれぞれの剣に誓いを立てて、はれて夫婦となった。
テオとリュアは抱き合ってキスをした。
「思い出すなぁ。私たちの結婚式もあんな感じだったよね?」
(そうだな、あの時は死を覚悟していた。まさか今もこうしてララと一緒にいられるとは思っていなかった)
「そうですか?私は絶対二人で生き残るって信じてましたよ!」
(ララのその思いのおかげだな。俺が今こうして生きているのは)
「ジオさま・・・」
私とジオ様もキスを交わした。
「ララっていつも赤ちゃんとキスしてるよね?」
リュアがいつの間にか私たちの前にいた。
「死んだ旦那の名前つけてるし、子供に変なのめり込み方しない方がいいよ」
「だっ!大丈夫だよ!私、子供が大好きなだけだよ!」
「ふふっ、それだけかわいければわからなくもないけどね!あたしも早く子供が欲しいな」
「リュアは、どっちの子供を産むの?」
「あたしは両方欲しいんだよね!でも最初は人間の子供かな?」
「そういえば人魚って卵から生まれるの?」
「そうだよ!あっ、そうか!先に人魚の卵を産んで、それから人間の赤ちゃんを作れば両方同時に生まれるかも!」
「その時はおれが卵を温めるよ。ご先祖様もそうしてたらしいからな」
そういえば伝承にそんな話があったな。
って言うか、魚って卵温めるんだっけ?
「うれしい!テオ!早速子供作りしましょう!」
リュアは勢いよく婚礼の衣装を脱ぎ捨て全裸になった。
・・・と言っても普段の姿なのだが。
そしてテオの服も脱がし始めたのだ。
「わああ、リュア、今はやめておこう!夜になってからだ!」
テオは必死に抵抗しているが既に半裸状態だ。
「なんでよ、あたし達もう夫婦なんだし、誰にも気兼ねなく愛し合って良いんだよ!」
・・・いや、人前では気兼ねしようよ。
「あはは、じゃあ、私たちはそろそろ出発するね!」
二人の時間が始まってしまいそうなので、おいとまする事にしよう。
「ララさんたちは今度は海の向こうの国に行くんですよね?」
「はい、これから海を渡ります」
「そうだ!海の向こうの国の今の王様は暴君だから気を付けてね」
「暴君?」
「うん、かなり乱暴で容赦ないって噂だよ。それに女好きで美女を見つけたら、片っ端から自分のものにしてしまうらしいから、ララも狙われるかもしれないよ」
「あはは、ありがとう、リュア。気を付けるよ!じゃあ、お幸せに!」
「ララさん、ありがとう」
「じゃあまたね!ララ!」
私は、ほとんど全裸になってしまったテオを見ない様に、別れを言って去って行った。
あのままあの場にいたら、いろいろ気まずいものを見せられてしまいそうだ。
・・・それにしても人魚っておおらかだな。
初代の人魚になったっていう魔女も、おおらかな性格だったのかもしれないな。
私とジオ様は断崖の上の別荘に戻って来た。
「ただいま!シィラ、ルルは元気だった?」
「おかえりなさいませ、ララ様、ジオ様、結婚式はいかがでした?」
「うん!にぎやかな結婚式だったよ!」
私はシィラからルルを受け取った。
「ルルもいい子にしてたかな?」
ルルに頬摺りする。
ルルも嬉しそうに、にこにこしている。
「では、いよいよ明日は新大陸に向けて出発ですね」
「うん!初めての国だからどんなところか楽しみだよ!」
翌朝、私たちは魔動馬車で海を渡る旅に出発した。




