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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第3章 勇者と海
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12話 勇者様と人魚の英雄

 『下級の魔物』の群れを抜けると、その先には一回り大きい『中級の魔物』の群れがいた。



 やはり、地上の魔物と異なる、魚介類系の魔物だった。



 その中で、腕の生えた鮫のような魔物が、猛スピードでこっちに突っ込んできた!


(俺に任せろ)


 ジオ様が私の腕から飛び出した。


 『腕鮫』は大きな口を開けてジオ様に噛みつこうとして来る。


 いや・・・噛みつくというか、軽々と丸のみだろう。

 『腕鮫』の口は大人でも丸のみにできるくらい大きく開いている。

 そして、口から逃れようとした獲物は両手で捕まえるのだろうか?

 口の両脇で指を開いて構えている。



 ジオ様は光の剣を抜き、光の刃を伸ばす。


 『腕鮫』の大きな口が正にジオ様の飲み込もうとした瞬間・・・・・『腕鮫』は無数の肉片へと切り刻まれて海中に散らばった。



「・・・すごい!なんて赤ちゃんなの?」


 リュアがあっけにとられている。

 テオは驚いて声も出ない。


「ねっ!大丈夫でしょ!この子」


 肉片となった。『腕鮫』は、蒸気ではなく白濁した液体となって溶け出し、白濁は次第に透明に戻っていった。


 後には大きな魔結晶が残り、海底へと沈んでいった。




(ララ、油断するな!そっちにもいったぞ!)



 私の方に、イカの様な足の生えた魚が迫って来ていた。


 魚の前半分は魚で後ろ半分がイカの足になっているのだ。


 口を開いて迫って来たと思いきや、上下左右から足が迫って来た。


 どうやら、足で獲物を捕まえてそれから口でかじるみたいだ。



 ・・・あのイカの足に巻き付かれるのはちょっと気持ち悪いので勘弁願いたい。



 私はレイピアを抜いて、迫って来た『烏賊魚』の足を切り落とした。


 水中なので水の抵抗はあるが、レイピアは細身なので比較的水の抵抗は少ない。

 その上『切断特性』を附加してあるので、水流さえも切断しているのだ。


 おかげで水中でも遜色ない速さで振る事が出来る。


 私はレイピアで迫りくるイカの足を次々と切り落とした。


 全ての足を失った『烏賊魚』は口しか攻撃手段がなくった。


 大口を開けて迫ってくるイカ足の無い『烏賊魚』は、うまく泳げない様で動きがかなり鈍くなった。


 私はそんな『烏賊魚』を余裕で切り刻んだ。


 『烏賊魚』も無数の肉片となって、白濁した液体となって溶け出した。




「あなたもすごいわ!さすが『勇者』ね!あたしたちも負けてられないわ!」


 テオを乗せたリュアはイソギンチャクの様な魔物と戦っていた。


 無数の触手が迫って来るが、テオとリュアの二人で次々と触手を切り落としている。


 よく見るとイソギンチャクの様な魔物は足の生えたカメの甲羅のようなもの上から触手が生えていた。


 片側の触手が減って来た『亀巾着』は歩き出して向きを変え、反対側の触手で攻撃してきた。


 その間に、数の減った側の触手は再生を始めている。

 これではキリがない。



「手伝おうか?」


 私はリュア達に声をかけた。


「大丈夫だ!」


 テオの剣が青白く光り輝いた!


 そして光輝く刀身が長さを増した。


 その剣の一振りで、『亀巾着』の触手を一気に薙ぎ払った!




(『光の剣』の同類みたいだな)


 ジオ様の言う通り、テオの家に伝わる『英雄の剣』は、おそらく『遺跡装備』だ。




 テオはそのまま、亀の甲羅も一刀両断にした。


 甲羅の中から魔結晶がこぼれ落ち、『亀巾着』は白濁した液体となって溶け出した。




「すごいじゃない!テオ!」


 そして『英雄の剣』の威力だけでなく、テオの腕前もかなりものだ。


「海の魔物相手に一人でずっと戦い続けていましたから」


「テオの強さは、人魚たちの間では結構有名なのよ!」


 リュアがテオの事を自慢している。


「リュアのサポートがあってこそだよ」


「テオのためだもん!」



 なんか、この二人、いい雰囲気じゃないの!


 

「ジオ様!私たちも行きますよ!」


(ああ、敵はまだまだいるぞ)




 私達四人は、迫りくる『中級の魔物』を次々と倒していった。



 やがて・・・その先に、大きな影が立ち塞がっていた。




 上半身は人型で一見、巨大な人魚の様にも見えるだが、頭は蛸の様で口髭の様に無数の蛸の足が生えている。

 両腕は鱗と棘に覆われていて、腰から下はウミヘビだ。

 各部のディティールはかなり気持ち悪い巨大な魔物がそこにいた。



「これが上級の魔物よ!」



 『上級の魔物』は右手に持った三又の銛で攻撃を仕掛けてきた。

 銛は厳密には手に持っているのではなくて右手から生えている様だが・・・


 銛は水中とは思えない速度で迫って来た。


 間一髪で躱すが、銛を繰り出した際の水流で一気に押し流される。

 あれだけ巨大な銛を繰り出せば周囲の水流もバカに出来ない。


 私たちは後方に残っていた『中級の魔物』たちの中に押し戻された。


 私とジオ様は二手に分かれてそれそれ『中級の魔物』の残党を駆逐し始めた。


「テオとリュアは『上級の魔物』をお願い!」


「わかったわ!」


「ここは任せたぞ!」


 リュアはテオを乗せて、再び『上級の魔物』の方へ向かっていった。



「ジオ様!ここは一気に片付けましょう!」


(ああ!早く彼らに追いつこう)


 ジオ様は、水中を高速で移動しながら、無数の『下級の魔物』を跳ね飛ばしながら、『中級の魔物』を次々とウと倒していく。



 私は試してみたい魔法があったのでそれを発動した。


「『ウィンドブレード!』」


 水中に巨大な風の刃が出現した。


 それをレイピアにまとわりつかせて固定する。


 レイピアの刃が何倍にも長くなったような状態になった。


 私は『風の刃』で『中級の魔物』を一閃する。


 『風の刃』は水の抵抗など無いかのように、一瞬で魔物の胴体を切断した。



 ・・・そう、『ウィンドブレード』には水の抵抗など関係ないのだ。


 風系の魔法は、一見空気で刃を作るので水中では威力が半減すると思われがちで、水中の魔物にウィンド系の魔法は効果が無いというのが通説だ。


 だが、実際にはそうではないのだ。


 『ウィンドスラッシュ』などの風系切断魔法は、空気で刃を作るのではなく、空間に亀裂を作っているのだ。

 空気中で使用すれば、薄い真空状態の刃が出来て対象物を切り裂く魔法だ。

 切断は出来るが、相手の刃を跳ね飛ばしたり、打撃的なダメージを与える事は出来ない。


 そしてこれを水中で使用すればどうなるか?


 水中に空気の刃が出来るのではなく、水中に真空状態の亀裂が出来るのだ。


 これをレイピアに固定すると、一見巨大な刃は本来その大きさで受ける水の抵抗に関係なく高速で振り回す事ができて、その延長上にあるものを海水ごと一刀両断にする事が出来るのだ。


 相手が水中に特化した魔物で、いかに水中での移動がこちらより速いと言っても、所詮は水の抵抗による限界はある。


 だが、水の抵抗の影響を受けない『風の刃』は、それをはるかに上回る速度で水中の魔物を切断できてしまうのだ。


 これによって、水中の魔物たちは、水中特化型の優位性を完全に失ってしまった。

 いくら水中での動きが速いとは言っても、地上の魔物に比べたら速度自体は遅いのだ。

 私から見たら止まっているようなものだ。


 私は、集まってくる魔物を一方的に蹂躙した。




 うーん、着眼点は良かったんだけど、戦闘が簡単すぎてつまんなくなっちゃたな。


 などと不謹慎な事を考えつつ、ジオ様の方を見ると、ジオ様も『ウィンドスラッシュ』を複数展開して、周囲の『下級の魔物』を一気に駆逐していた。


 そして下級の魔物がいなくなったところで、残った『中級の魔物』を『光の剣』で倒しているのだ。


 よく見ると、『ウィンドスラッシュ』の速度が通常よりも速い。


 そう!水の方が空気より波の伝搬速度が速いからだ!


 『ウィンドスラッシュ』は空気を移動させているのではなくて、亀裂を移動させているのだ。

 だから、空気中よりも水中の方が亀裂の移動が速くなるのだ。

 私の『ウィンドブレード』と同じ理屈だ。


 そして『光の剣』も、『ウィンドブレード』と同様に水の抵抗を受けない。


 結果としてジオ様は、地上での戦闘よりも早いペースで、水中の魔物を殲滅しているのだ。



 私とジオ様は、それぞれが普段以上の速さで魔物を駆逐していった。


 おかげで、あっという間に夥しい数の中級と下級の魔物を全て駆逐してしまった。



「テオたちのところに戻りましょう!」


(そうだな、さすがに彼らだけでは厳しいだろう)


 過去の伝承では、人魚と英雄は、魔物の王と相打ちになっている。




 彼らだけでは、倒せたとしても相打ちになる可能性があるのだ。


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