11話 勇者の弟子と人魚の集落
人魚の集落を守るため、海の中で魔物と戦う事になった。
私とジオ様は、水中戦闘の準備を始めた。
ジオ様は、もう本格的に勇者として活動が出来そうなので、今の体形に合わせた勇者装備を用意してある。
赤ちゃんサイズだが、大人体形の時と共通の外観デザインで、性能も同じだ。
まあ、精巧に出来たコスプレ衣装に見えてしまうのは仕方ないが・・・
私は装備の上半身だけを装着した。
・・・下半身は何もつけていない・・・当然下着も。
テオさんに見られると恥ずかしいのでとりあえず腰にタオルを巻いている。
「お待たせしました!さあ、行きましょう!」
「ええと・・・ララさんと、その赤ん坊も連れて行くのですか?」
「はい!一緒に戦います!」
本格的な戦闘装備を身に付けた赤ちゃんって、確かに違和感しかないだろうな。
「ララさん?下は装備を着けなくていいんですか?」
テオさんが赤くなっている。
やはり、私が腰から下にタオルを巻いているだけなのが気になるらしい。
「私はこれで大丈夫です!」
「・・・わかりました。ではおれの船で集落の近くの岩礁まで行きます」
私はジオ様を抱いてテオさんの船に乗った。
ベンチに腰掛けようとした時、船が揺れて私はバランスを崩してベンチに勢いよくしりもちをついてしまった。
「いたたたた」
「ララさん、大丈夫ですか?・・・!」
テオさんは私を助けようと、手を差し伸べようとしたが、途中で慌てて手を引っ込めて目をそらしたのだ。
「すみません!ララさん。その・・・見てませんので・・・」
「あっ!」
私はしりもちをついた時に少し足を開いてしまっていたのだった。
慌てて足を閉じてタオルの端を整える。
「すみません!余計なお気遣いを!」
・・・もしかして穿いていないのを見られてしまったかも?
と言っても聞く訳にもいかないし・・・無かった事にしよう!
「じゃあシィラ!行ってくるね!ルルをよろしく!ルナたちには知らせておいたからもうすぐ来ると思うよ」
「かしこまりました。お気をつけて」
「じゃあ、テオさん、お願いします」
テオさんは船を動かし始めた。
船は岩礁の間を避けながら器用に進む。
「この辺りで待つように言われました」
テオさんは船を岩礁に繋いで固定する。
しばらくすると、水中に金色の髪の毛が現れた。
金色の髪の毛の主は、水面から跳ね上がり、岩の上に着地してそのまま岩に腰かけた。
わあ!本物の人魚だぁ!
岩場には、町にあった人魚の像にそっくりな人魚が腰かけている。
腰から下は足は無く、鱗に覆われた魚の姿になっており、上半身は戦士の鎧のようなものを装着している。
「テオ!ありがとう!助けに来てくれて!」
「いや、俺の方こそ、今までに何度命を救ってもらった事か」
人魚は金髪の少女だった。
どことなく雰囲気は私に似ていなくもないが、顔つきはだいぶ違う。
私より少し幼く見えるが人魚の年齢と外観の通りかどうかはわからない。
・・・でも幼い顔つきの割に、胸は私よりも大きかった。
「この人は?」
人魚の少女が私を睨んだ。
「魔物討伐を手伝ってくれる事になったララさんだ」
「他の人間には知らせないでって言ったのに」
人魚は私がいる事に不満そうだ。
「ララさんは大丈夫ですよ」
「『勇者』ララです。宜しく願いします」
「・・・『勇者』?ですって?・・・何言ってるの?あなたは勇者じゃなくて・・・」
私はあわてて人魚の口をふさいだ!
・・・そして小声で人魚に話しかけた。
「あなた、私の事が分かるの?」
「ええ、ネネの同類でしょ?」
「お願い!この事は秘密にして!」
「手伝ってくれるなら、まあいいけど」
「どうしましたか?」
テオさんが状況が分からずにきょとんとしている。
「大丈夫、問題ないわ。あたしはリュアよ」
「よろしくね!リュアさん!」
「戦いは水中になるわ。テオはこれを飲んで」
リュアと名のった人魚は、真珠のような物をテオに渡した。
「テオにはあたし達人魚の血が流れてるから、それを飲めば水中でも息が出来る様になるわ」
へえ、そんな便利なものがあったんだ。
テオさんは、真珠のようなものを飲み込んだ。
「でもこれは普通の人間が飲んでも効果が無いの。あなたたちはどうするの?」
「私は大丈夫!」
自分に魔法をかけて人魚の姿になった。
これって、下半身の変化だけでなく、水中で呼吸も出来るようにしてあるのだ。
「えっ!ララさんも人魚だったんですか?」
テオさんが驚いている。
「これは勇者の能力の一つです!」
・・・ほんとは魔女の魔法なんだけど・・・まあ、似たようなもんだから!
「そうか、先日見た人魚はララさんだったんですね?どうりでリュアと胸の大きさが違ったわけだ」
胸しか見てないのか!顔も違うんだけど!
「ええ、あの時はまだ教える訳にはいかなかったので・・・」
「その子はどうするの?」
(俺も問題ない)
ジオ様は長時間呼吸しなくても大丈夫らしい・・・『勇者』って本当に何でもありだな。
「この子も水中でも大丈夫です!」
「そう、準備はいいわね?じゃあ、人魚の集落に行くわ!ついて来て!」
リュアは海中に潜った。
それにテオも続いて海に飛びこむ。
私もジオ様を抱いて海の中に飛び込んだ。
リュアは結構な速度で潜っていく。
テオはリュアに手を引いてもらっている。
私はジオ様を胸に抱いて彼らについて行った。
海中は深くなるほど日の光が届かなくなって暗くなるのだが、途中から逆に目の前が明るくなってきた。
明るい方に近づくと海底に町があった。
「ここが人魚の集落よ」
集落って言うか、町だった。
海底深くに町があったのだ。
そして、大勢の人魚がいた。
(人魚ってこんなにいたんだな)
そして、人魚たちはみんな武装していた。
「リュア!連れてきましたか?」
リュアより年上の人魚がリュアに話しかけた。
人間で言ったら20代後半くらいか?
ここにいる人魚の中では一番年上に見える。
「ええ長老、彼がテオ。英雄の子孫よ」
・・・長老だったんだ。
長老でこの外観って事は、これ以上容姿は老けないんだろうな。
「よく来て下さった、英雄の血をひきし者よ」
「テオです。リュアから受けた恩を返すために来ました」
「宜しく頼みますよ。テオ」
「それと・・・もう一人の、人魚・・・ではないですね・・・とその赤子は?」
長老がリュアに尋ねた。
「この人は・・・えっと、人間の勇者と・・・そういえばその子は?」
「『勇者』ララです。この子は私の息子のジオです」
「ええっ?その子、ララさんの子供だったんですか?」
テオがこのタイミングで驚いた。
そういえば言ってなかったっけ?
「なんだ、あなた子持ちだったんだ」
リュアさんがなぜか少しほっとした顔をした。
「そういえば当代の勇者は先代勇者の子を産んだと聞いた事があります」
「はい!先代勇者ジオ様の子のジオです!」
「・・・同じ名前なんだ」
「しかし、どうして戦場に赤子を?」
「この子も一緒に戦いますので」
「「「ええっ!その子が?」」」
見事に三人ハモったな。
「いくら勇者の子でもそれは!」
「大丈夫です!まあ見ててください」
「いずれにしても勇者様が参戦して下さるとは心強い。宜しくお願いします」
「長老様!魔物が近くまで接近しています!」
戦士の一人が長老のところにやって来た。
「よし!戦力はそろった!迎撃に出る!」
武装した人魚たちは一斉に出撃した。
「テオ!私たちも行くよ!」
「おれは君たちほど早く泳げないぞ」
「あたしの背中に乗って!」
テオがリュアの背中にまたがるとリュアは一気に泳ぎ出した。
「ジオ様!私たちも行きますよ」
(ああ、行こう)
私は、ジオ様を抱いたまま、リュアについて行った。
ジオ様は小回りは聞くが最大速度は私より遅いので、長距離移動は私が抱いていた方が早いのだ。
少し進むと前方で人魚たちと『下級の魔物』が戦っていた。
海底の『下級の魔物』は地上と異なり、魚介類に近い形状のものが多い。
人魚の戦士たちはみな、それなりに手練れの様で、『下級の魔物』程度はものともしない様だった。
ただ、とんでもなく数が多い。
ざっと見ただけで数千はいるのではないだろうか?
百人近い人魚の戦士が、次々に倒しているのに全く数が減る気配がない。
「あなたたちは先に行って!『中級の魔物』や『上級の魔物』を頼みます」
人魚の戦士がリュアさんに声をかけた。
そうだ、今回は『上級の魔物』もいるって話だったな。
「テオ!あたしたちは先に進むよ!ララさんたちもお願い!」
「うん!行こう!」
テオさんを乗せたリュアさんと、ジオ様を抱いた私は、夥しい数の『下級の魔物』をすり抜けてその先に向かった。




