3話 勇者様のパーティー
「はじめまして、かわいらしいお嬢さん。セナと申します」
「俺はゼトだ」
「はじめまして、セナ様、ゼト様。ララと申します」
翌日、勇者様のパーティーメンバーを紹介された。
ゼト様は『剣豪』、セナ様は『上級魔術師』だそうだ。
『剣豪』とは剣を極め上級剣士の頂点に上り詰めた者に与えられる称号だ。つまり現在この国で一番強い剣士という事だ。
さらに上には『剣聖』という称号があるが100年以上空席のままだという。
ちなみに私の『剣精』は単なる二つ名で称号ではない。
『上級魔術師』とは『上級魔法士』の中でもより高度な魔法知識と魔法操作技術を持ち合わせた者に与えられる称号だ。
セナ様はこの国で最高位の魔法使いという事になる。
『上級魔法』が使えれば『上級魔法士』に認定されるが、「使える」だけであって「使いこなせる」とは限らない。
上級魔法陣を描くのにえらく時間がかかる上、一回使用したら数日間寝込んでしまうため、実戦で使用する事はめったにない。
さらに制御が難しく過去に上級魔法を暴走させて周りを巻き込み自分も死亡するという大惨事をおこした上級魔法士もいたそうだ。
そのため上級魔法は国王または上級魔術師の許可が無ければ使用できない決まりになっている。
つまりセナ様は自分の判断で上級魔法を使う事が許された数少ない魔法士の一人という事になる。
「ララさんには以前からお会いしたかったんですよ」
そんなセナ様がニコニコしながら話しかけてきた。
「『上級魔法ヘルフレイム』の魔法陣をあっという間に描き上げたそうだね?」
「えーっと・・・?入学試験の時の話ですか?」
「ええ、その時の試験官は僕の知り合いでね。君を魔法陣研究の講座に勧誘したが断られたといたく嘆いていましたよ」
「魔法陣は描けても魔法が使えないのでと言ってお断りしたのですが・・・」
「それなんだよね。なぜ君は魔法が使えないのに上級魔法の魔法陣を覚えたのかな?」
「・・・町の学校の魔法の授業の時間って私だけする事が無くて暇なので魔法陣を描いていたら覚えたんです。上級魔法の魔法陣ってとてもきれいなので・・・」
「うん、君の描いた魔法陣はとりわけきれいだったってあいつも感心してたよ。ところで・・・」
「おい!時間が無いんだ。俺の方からもいいか?」
ゼト様が話に割り込んできた。
「ジオ、こいつ本当に連れて行っても大丈夫か?」
「ああ、足手まといにはならないだろう」
「試してもいいか?」
「手短にな」
とんとん拍子に『剣豪』ゼト様と打ち合いをする事になってしまった。
中庭の練習場でゼト様と対峙する。
構えた瞬間、私は真横へ跳躍した。
私がいた場所はゼト様に両断されている。
「ほう、今のをかわすか?」
「まだ、はじめの合図ありませんでしたよね?」
「戦場でそんなものあるわけないだろう?」
ゼト様が話し終わる前に私は再び後ろへ跳躍・・・と同時に私がいた場所をゼト様が薙ぎ払っていた。
「なるほど、こちらが行動を起こす前に読んでいるな?」
「そうでなければ間に合いませんので!」
会話をしながら、攻撃を先読みして跳躍を繰り返す。
「だが、それでは俺は倒せんぞ」
「いえ、普通に考えて『下級剣士』なりたての私が『剣豪』であるゼト様を倒すとか無理ですよね?」
「普通の『下級剣士』なら最初の一撃で死んでいた」
「ジオ様に鍛えられていますので!」
「なるほど、ではこれはどうだ」
キィィィィィィン
私が回避した先にゼト様が先回りしていた。ギリギリで剣で受け流して進路をずらしてゼト様の脇をすり抜ける。
「私の回避を先読みしましたね?」
キィンキィンキィンキィンキィンキィン
「だが、それすらも読んでいたな?」
キィンキィンキィンキィンキィンキィン
「今の会話の流れだとそうゆう展開になる空気でしたよね?」
キィンキィンキィンキィンキィンキィン
「戯言を」
ゼト様の連続攻撃を受け流しながら会話を続ける。
(でもこのままだときりがないわね)
反撃の隙など全く見当たらない。いずれ自分の体力が尽きたところで終わりだ。
(この状況どうやったら終わるんだろう?)
腕試しなんだから「まいった」と言えばいいのだろうか?
なんかきっかけが掴めなくなっていた。
私は唐突に回避行動をやめて動きを停止した。
ゼト様の剣は容赦なく私を一刀両断にすべく振り下ろされた。
刃が当たるその瞬間、私は最小限の動きで体をずらし、ゼト様の心臓めがけて突きを出した。
「そこまで」
ジオ様の声で双方動きを止めた。
私の剣はゼト様の心臓に突き刺さる寸前、
ゼト様の剣はあそこから切り返し、私の首を切り落とす寸前だった。




