11話 勇者の弟子と魔物の報告
廃墟だった空き家を別荘として貰ってしまった。
『例の女性』がなかなか現れないので、空いた時間で家の内装や、家具などを整えていたら、かなり充実した住みやすい家になった。
家には結界魔法や、防御特性の附加処理も行なっておいた。
折角だから地下室を作って転移魔法陣を設置した。
これでいつでも王都の屋敷からこの村やエルの町に来る事が出来る様になった。
調理器具などをそろえるために、転移魔法陣で一旦屋敷に戻ったら、シィラがついて来てしまった。
「別荘があるのでしたら、当然メイドが必要です」
まあ、確かにいてくれると色々便利なのだが・・・
少し手狭になるから、部屋を増築しようかな?
『例の女性』が現れるまで、特にやる事も無いので、家の増築をしたり、家具を作ったり、学校で剣を教えたり、たまに『下級の魔物』を退治したりしながら、田舎でのスローライフを満喫していた。
(ララ、毎日忙しなく働いていて、全然スローライフではない気がするが?)
「え?そうですか?私としては結構のんびりしているつもりですよ?」
(のんびりの基準が間違っている気がするが・・・まあいいか)
そんなスローライフが三週間経過した。
「そろそろ、この地域に現れる時期を過ぎてしまいます。今回は外れかもしれないですね」
(そうなると、次の場所に移動する事になるか?)
「はい、ジオ様。次のポイントは国外になりますから、そろそろ移動の準備を考えないといけないですね」
この家もかなり快適で住みやすくなったので少し名残惜しいが、本来の目的を忘れてはいけない。
「エルや、村長さん、それに学校のみんなにもお別れをしないといけません」
そんな話をジオ様としていると、誰かがドアをノックした。
シィラがドアを開けると村長さんだった。
「ララさん!大変だよ!この近くに『中級の魔物』が出たそうだよ!」
えっ!その情報は!
「村長さん!その話はどこから来たんですか?」
「隣の村に目撃情報があったそうだよ!」
しまった!もう一つの村だった。確率二分の一を外してしまった!
「それって、旅の女性が目撃したって話ですよね?」
「詳しい事は分からんが、そんな話みたいだよ。たった今隣村から早馬で伝令が来たんだ。町の方にも伝わってるはずだよ」
「村長さん、隣の村まで早馬でどれくらいですか?」
「馬で一時間くらいかねぇ?」
一時間前ならまだ捕まえられるかもしれない。
「今から隣村に行ってきます!」
私は、装備を整えて、ジオ様をスリングに入れた。
「シィラ!ルルをお願い!」
「かしこまりました」
「村長さん!念のため、村の皆さんが町に避難する準備を!」
「ちょっと!ララさん。魔物のところに赤ちゃんを連れて行くのかい?」
「この子は大丈夫です。心配しないで下さい。じゃあ、行ってきます」
私は玄関を出て全速力で駆け出した。
隣の村まで早馬で一時間という事は、私の脚なら10分あれば着くはず。
間に合えばいいのだけれど・・・
私は村と村を繋ぐ山道を急いだ。
途中、何度か『下級の魔物』の群れに遭遇したが、減速せずに、すれ違いざまに殲滅していった。
魔物の出現率が上がっている。『中級の魔物』も近いのかもしれない。
予想通り10分程度で隣村が見えてきた。
もう一つの村と同じで、塀に囲まれ、頑丈な門がある。
私は減速して、門番に尋ねる。
「すみません、魔物の目撃情報があったって聞いたのですが?」
「ああ、ついさっき旅の女性が尋ねて来てね。魔物を目撃したから村長に合わせてくれって言って・・・」
「村長の家はどこですか?」
「ああ、この通りをまっすぐ行った突き当りの大きな家だよ」
「ありがとうございます!」
私は門番にお礼を言って、村長の家に駆け付けた。
「ごめんください!村長さんはいらっしゃいますか?」
ドアをノックして、叫んだら、村長さんが出てきた。
白いひげの長いおじいさんだった。
「これはこれは、今日はきれいなお客さんの多い日だねぇ」
「すみません。わたしの前に来た女性ですが・・・」
「ああ、魔物の事を知らせてくれた方ですね?」
「そうです!まだ中にいますか?」
「先を急いでいるそうで、丁度あなたと入れ違いで出ていったところですよ」
しまった!一足遅かった!
「どちらに行かれたかわかりますか?」
「さあ?次は別の国に行くと言ってましたが・・・」
ここから隣国へつながる街道は一本だ!追いかければ間に合うかもしれない。
「ありがとうございました!失礼します」
せわしなくてほんとに失礼だが、事は一刻を争う。
私はさっきの門のところへ戻った。
「すみません。旅の女性はここを通りましたか?」
「ああ、さっきあんたが来る前にここを出て、街道を向こうに行ったよ」
やはり、隣国へ向かう街道で正解だ。
「ありがとうございます!」
私は門を出て、街道に出ると最大速度で駆け出した。
相手は『魔女』だ。
普通に隣国まで街道を歩いていくとは考えにくい。
人目が無くなったところで、別の手段で移動しているかもしれない。
だけど、まだ街道を歩いていたら出会える可能性はある。
私は、かなり常識はずれな速度で街道を走っている。
普段は他の通行人に危険が及ぶので、こんな速度で街道は走らないのだが、今は緊急事態だ。
途中、数人の旅人と遭遇したが、向こうからすると突風が吹いた様にしか思わないだろうな。
そして、前方に女性の人影を発見した!
私は走りながら大声で叫んだ。
「待って!ネネ!」




