10話 勇者様と空き家の修理
剣を飛ばされた男の子はあっけにとられていた。
「今のはどうやったんだ!最後のは剣が見えなかったぞ?」
最後はうっかり、加減を間違えてしまった。
普通の人には剣速が速くて見えなかっただろうな。
「ふふっ、どう?これで先生と認めてくれるかな?」
「少しは出来るみたいだな。でもお前なんか『剣聖』には遠く及ばねえぞ!」
私がその『剣聖』なんだけど・・・別に言わなくてもいいかな。
「すごいよお姉ちゃん!僕にも剣を教えて!」
「僕も僕も!」
他の小さい子たちも集まって来た。
「うん!教えてあげるよ!みんなもっと強くなれるよ!」
私は子供達に剣の指導をしてあげる事になった。
一人ずつ、軽く打ち合ってみてから、アドバイスをする。
さっきの男の子も、意外と素直に私の指示通りに稽古をしていた。
生意気だけど、純粋に強くなりたいって気持ちは本物なんだろうな。
なんかちょっと弟子のゲンに似ている気がした。
「ありがとうございました。ララさん。また明日もお願いしてもいいですか?」
「はい!しばらくはこの村にいますので、滞在中は大丈夫ですよ」
「助かります!子供たちも喜びます」
こうして、私は、毎日村の学校で剣の指導をする事になった。
さて、一旦家に帰るかな。
魔動馬車での生活も快適なのだが、せっかくだから、家にも住めるようにしたい。
朽ち果てた家屋をどうやって再生するかだけど・・・
魔法を使ってしまえば簡単なんだけど、いきなりピカピカの新築同様の家に変ってたら、みんな不審がるよね?
少し時間はかかるけど、地道に手作業で直していこう!
まずは材木が必要だよね!
森に行って木を伐り出そう。
魔動馬車で森に来たけど、森の入り口付近はまだ若くて細い木が多いので少し奥に入ってみた。
魔動馬車は道の無い不整地でも快適に走る事が出来るのだ。
しばらく走ると、大きな木が生い茂った場所に出た。
「わあ!立派な木がたくさん生えてますね!」
(これは黒樫だな)
「黒樫って、硬くて丈夫な高級木材ですよね?」
(ああ、加工しづらいから、あまり使われないみたいだな)
「でも丈夫な方がいいですよね?じゃあこれにしましょう!」
(俺も手伝うぞ)
「ありがとうございます!ジオ様。では、木を切倒して、運びやすいサイズに切断してもらえますか?」
(わかった、少し離れてろ)
ジオ様は光の剣を抜くと刃を長めに発動し、丁度良い大きさの大木を一刀両断にした。
そしてその大木が倒れてくる前に、大木に向かって跳躍し、縦横無尽に切り刻んだ。
大木は倒れながらバラバラになり、正確に切断された材木となって降り注いだ。
「お見事です!ジオ様」
ジオ様の正確な剣さばきがあれば、一瞬で材木が作れてしまう。
黒樫は大木だったので、一本の木から家の補修には十分すぎるほどの材木をとる事が出来た。
(これを魔動馬車の屋根の上に積めばいいんだな?)
「はい、出来ますか?」
ジオ様は材木を両手でひょいっと持ち上げると、魔動馬車の上に放り投げた。
材木は正確に魔動馬車の屋根の上に乗っかったのだ。
そして、次々と材木を放り投げて、あっという間に全て積み終わってしまった。
・・・赤ちゃんが巨大な材木をひょいひょい放り投げる姿って、相変わらずシュールだな。
十分な材木が確保できたので、わたしとジオ様は空き家に戻って来た。
「さて、まずは、屋根の修理からかな?」
このままだと雨が降ってきたら雨漏りが大変そうだからね!
「ジオ様、材木からこの大きさの板を切り出してもらえますか?」
私は屋根から落ちていた、屋根材の板をジオ様に見せた。
(ああ、わかった。これと同じ大きさでいいんだな?)
「はい!そうです!」
ジオ様に材木を切り出してもらって、私は屋根の上で、それを使って壊れた個所を直していく。
ジオ様が放り投げた板を、私が受け取ってそれを打ち付けていくのだ。
誰も見ていないからできるけど、人が見ていたらびっくりするだろうな。
ジオ様の手際がいいので、作業はサクサクと進み、夕方には屋根の修復が完了した。
翌日は朝から散歩がてら学校に行って、剣の指導をして、その後は空き家の修復の続きだ。
「じゃあ今日は家の中の床板かな?」
床板は殆ど腐りかけていて、踏み抜くと危ないから全部張り替えちゃおう!
床の補修も屋根と同じ要領でジオ様と分担して、夕方頃には滞りなく完了した。
今日はこんな所かな?
そんな感じで、毎日のんびりと、散歩したり、剣の指導をしたり、空き家の補修をして、『例の女性』が現れるのを待った。
それと、村の近くに魔物の気配を感じた時は、ジオ様と二人でこっそり退治しておいた。
『例の女性』はなかなか現れず、一週間後には空き家の修復が完了してしまった。
「やったぁ!ジオ様!家が完成しましたよ!」
(こういうのも達成感があっていいものだな)
ジオ様も、ものづくりの楽しさに目覚めた様だ。
リフォームが完了した空き家は、屋根と外壁のほとんどを黒樫に張り替えたので、真っ黒な家になってしまった。
なんか、王都のお屋敷みたいだな。
そういえばお屋敷の玄関扉も今にして思えば黒樫だったのかもしれない。
内装は、さすがに真っ黒だと陰気になってしまうので、明るい色の壁紙を貼った。
ベッドなどの家具も、ついでに作ったので、今晩からこの家に住む事が出来る。
一応、リフォーム完了を報告するために村長さんを連れてきた。
「おやおや、こんな短期間で立派になったもんだねえ!」
村長さんは家を見たとたんにびっくりしていた。
「これはもしかして!黒樫を使ったのかい?」
あっ!勝手に使ったらまずかったのかな?高級木材だし。
「すみません、勝手に黒樫を切ってしまって!必要でしたら代金をお支払いします」
「いや、森に生えてる野生の木だから誰のものでもないんだが、よく切れたね?黒樫は、材木にすれば高く売れるんだが、木を切り倒すのが一苦労でね。斧もなかなか通らないし、切り出す手間をかけるほど人手が無くて放置してたんだよ」
そうだったのか?
ジオ様が一刀両断にしてしまったから大して手間がかからなかったけど、普通は大変な作業だったんだな。
「私が立ち去った後は、この家はどうぞご自由に使って下さい」
「何言ってるんだい。こんなに立派にしちまったらもったいなくて使えないよ。この家はもうあんたのもんだ!今後も別荘として時々使っておくれよ」
・・・なんか、別荘が手に入ってしまった。




