1話 勇者様と魔女の痕跡
第二部 第二章 開始します。
ここ最近の魔物の出現頻度は明らかに増加傾向にある。
魔物の出現を予見し、人間に警告してくれている『例の女性』は、おそらく何かを知っているに違いない。
『傲慢の魔女』が、魔物を召喚したり操ったりしていた事についての情報も得られるかもしれないのだ。
私は魔物の出現を予見する『例の女性』を探し出し、会って情報を聞き出す事にした。
だが、相手は神出鬼没だ。
報告を受けてから対応していたのでは、間に合わないのだ。
「どうやって探せばいいんだろう?」
(ララはあの魔女の事をどれくらい知っているんだ?)
ジオ様が、悩んでる私に問いかけた。
「彼女は過去の『強欲の魔女』の記憶の中に何度か現れているんです」
そう、私が見た彼女の姿は過去の『強欲の魔女』が最後に見た姿と全く一緒だった。
つまり、その時から数百年以上生き続けているという事だ。
「でも、以前の記憶にある彼女は、人間のために魔物の出現を予告するなんて、そんな事をする性格ではありませんでした」
(どういう事だ?)
「何か目的があってやっているのだと思いますが・・・」
私は過去の情報を探っていた。
「基本的に魔女は人間には関心がありません。以前の彼女も人間に全く興味がありませんでした。良くも悪くも、人間のために行動を起こす事は無かったです。」
(『傲慢の魔女』の様に人間を嫌っていた訳ではないのか?)
「彼女も特殊です。あそこまで人間を忌み嫌う理由がわかりません」
『傲慢の魔女』が人間を嫌う理由も調査しないといけないよね。
(ララは人間が好きだよな?)
「はい!大好きです!・・・でも私は私で、魔女の中では異端です。というか、『強欲の魔女』が魔女の中でも異端なんです」
(『強欲の魔女』は昔から人間に友好的だったのだろう?)
「正確に言うとそうではないんです。過去の強欲の魔女の大半が、その名の通り、自己中心的な性格で、己の欲望しか考えず、生涯にわたって欲にまみれた人生を送っていました。自分の欲望のために平気で人を傷つけたり陥れる者もいました」
(だが、物語に出て来る、人間に親切にしてくれる魔女は『強欲の魔女』なんだろう?)
「はい、私の持っている過去の『強欲の魔女』の記憶の中に、共通するエピソードがいくつもありますのでそれは間違いないと思います」
(『強欲の魔女』なのに『強欲』ではないんだな?)
「それは『強欲の魔女』の覚醒条件によるものです」
(確か『全ての欲が満たされる』という条件だったな?)
「そうです。強欲の魔女は、生まれつき誰よりも強い欲望を持っているにもかかわらず、全ての欲が満たされて思い残す事が無くなるまで『魔女』として覚醒する事はありません」
(・・・それは不可能ではないのか?)
「はい、ですから『強欲の魔女』として生を受けた者の大半が、魔女として覚醒せずに人間として一生を終えていました」
(では、覚醒した魔女はどうやったんだ?)
「過去に覚醒した『強欲の魔女』は幸福に満ちた人生を送り、全てを手に入れて、思い残す事無く生涯を終え、亡くなる直前に魔女として覚醒していたんです」
(それで老婆だったのか?)
「はい!全てを手に入れて満足した後には、誰かの手助けをしてあげたいって気持ちだけが残ったみたいです」
(なるほどな・・・ララはどうしてこんなに早く覚醒できたんだ?)
「私は逆に欲が強すぎて、欲しい物はすぐに手に入れないと気が済まない性格だったので、ガンガン手に入れまくっていました・・・そして最後に残った欲が・・・ジオ様と結ばれて、赤ちゃんができたらいいなぁって、それだけだったので・・・」
(・・・意外と無欲なんじゃないのか?)
「そんな事ありません!ジオ様と結ばれて、その赤ちゃんを身籠るって、女の子にとっては究極の願望なんですよ!これはまさに究極の強欲です!私は世界中の女の子にとっての最高の幸せを独り占めにしてしまったんですから、『強欲の魔女』として目覚めるのは当然の結果です!」
思わず力説してしまった!
(そこまで言われると、さすがに恥ずかしいというか・・・ちょっと引くんだが・・・)
「とにかく、私自身が満足すればそれでよかったみたいでした。その上、最愛のジオ様を自分のお腹の中で育てて、無事に再会できたし、私たちの子供のルルはめちゃくちゃ可愛いし、今の生活も幸せいっぱい過ぎて、もうおつりが来るくらい私の欲は満たされまくっているんです!」
(確かに・・・ララの場合はかなり特殊なケースだな)
「ですから、私を含めて『魔女』として覚醒した後の『強欲の魔女』は、自分が満たされているので他人に対して何かをしてあげたいって意識が強いんだと思います」
(なるほどな。それなら『強欲の魔女』が人間に敵意をもって覚醒する事は無いんだろうな)
「はい!この溢れるほどの幸せを他のみんなにも分けてあげたい!っていうのが今の私の欲望です!」
(ある意味、それも強欲なのだろうか?)
魔女として覚醒した後も、やりたい事はいっぱいあるからね!
(ところで、『例の女性』の二つ名は何と言うんだ?)
「彼女は『静慮の魔女』と呼ばれていました」




