12話 勇者の弟子と強欲の魔女
私は子育てをしながら、魔物の討伐に行ったり、たまに学院に顔を出したりしていたが、その合間にも『魔女』についての考察をまとめていた。
私は『魔女』だった。
一年前、『終焉の魔物』との決戦の前日に『魔女』として覚醒した。
当時、覚醒直後は、魔法が使えなかった私が、強力な魔力に目覚めたというだけだった。
膨大な魔力を持て余しつつ、訳が分からないまま、『終焉の魔物』と戦ったのだ。
・・・あの時、魔女としての知識と記憶が完全であれば、違った結果があったかもしれない。
なぜその時に覚醒したのか、理由もわからなかった。
覚醒の直前に、『勇者の後継者』として継承の秘術を行なった事と、ジオ様と結ばれたのが同時で、そのどちらかがきっかけだったのだろうかと考えていた。
しかし、後になってわかったのだが、きっかけはそれだけでは無かった。
私が『強欲の魔女』として覚醒した本当のきっかけは、ルルを身籠った事だったのだ。
この世界には、数人の魔女がいる。
私はこれまでに、私を含めて、少なくとも4人の魔女の存在を把握している。
一人目は『傲慢の魔女』
『魔王』と名のって私の前に現れ、人類を一掃しようとたくらんでいる。
二人目は 私の母親だ。
直接会った記憶は無く、現在は生死不明だ。
三人目は、魔物の出現を予告して回っている女性。
以前一度だけ会ったが、今回その痕跡を確認できた・・・彼女は『魔女』だった。
そして私・・・『強欲の魔女』
魔女は覚醒するまでは、私の様に自覚もなく、普通の人間として暮らしている。
覚醒せずに人間として生涯を終える事も多い。
魔女は人間の男性との間に子を生す事が出来る。
子供が男の子の場合は人間として生まれる。
女の子の場合・・・人間なのか?魔女なのか?・・・覚醒するまでそれはわからない。
私が魔女として覚醒した後、私の頭の中には、少しずつ、過去の『強欲の魔女』の知識と記憶が『現れて』きた。
『思い出した』という感じではなかった。
過去に生きていた、『強欲の魔女』だった人物の記憶の断片を、客観的に見ているという感覚が近い。
他国の宗教には、人は死んでも魂は不滅で、再び別の人として生まれ変わるという考え方もある。
だとしたら、過去に生きていた『強欲の魔女』は私自身だったのかもしれない。
でも、私は、違うのではないかと考えている。
今では私の中には過去に生きた何十人もの『強欲の魔女』だった人物の記憶の断片がある。
だが、それは自分の記憶というよりは、他人の記憶を垣間見ているという感覚だ。
そして、過去に存在した『強欲の魔女』の、その殆どが、魔女として覚醒せずに人間として天寿を全うしていた。
過去に『強欲の魔女』として覚醒したのは三人だけだった。
そして、その三人とも、『魔女』となったのは、その寿命が尽きる直前だった。
魔女は不老不死と言われているが、あながち間違ってはいない。
三人の『強欲の魔女』は、覚醒後それぞれが長い時間生きていたのだ。
最も短い者でも三百年、最も長生きした『強欲の魔女』は千年以上の時を生きていた。
魔女にはそれぞれ異なる『性質』がある。
私の性質は『強欲』だった。
魔女はその性質によって覚醒に必要な条件が異なる。
『強欲の魔女』の覚醒条件は『全ての欲が満たされる事』だった。
・・・これはつまり、『強欲の魔女』が覚醒する事は、ほとんどあり得ないという事を意味する。
過去の『強欲の魔女』たちは皆、その名の通り強欲だった。
欲の種類は様々だが、欲というのは満たされれば更に大きくなる。
ほとんどの『強欲の魔女』は生涯、欲を膨らませ続け、結局全ての欲を満たす事が出来ずにその一生を終えた。
覚醒した『強欲の魔女』は、幸福に満ちた生涯を送り、その人生に満足して死を受け入れたその時に覚醒していたのだ。
私は欲が強いと自覚している。
しかし私の欲は、主に知識欲と達成欲だった。
それらはどちらも努力で手に入る物だ。
欲しいものが、自分の努力で手に入る。
私はそれが楽しくて仕方なかった。
楽しみながら私の欲は満たされていった。
だが、私が最後に欲しいと思ったものは、手に入れる事が出来ないものだった。
それは『運命』によって、拒絶されていたからだ。
それが手に入らないと悟った時、私はそれが手に入れば、他には何もいらないと、心の底からから強く願った。
強欲な私の欲が、それだけに集約されていったのだ。
手に入らないという現実を突きつけられるほど、手に入れたいという欲求は強くなるものだ。
私の欲はさらに膨れ上がっていった。
ところが、手に入らないからこそ、強く欲していたはずものが・・・
・・・手に入らなかったはずのものが、手に入ってしまったのだ!
強欲な私が最後の最後に求めたことが、実現してしまったのだ!
私が最後に願った事はふたつあった。
・・・その一つは・・・ジオ様と結ばれる事・・・
・・・もう一つは・・・ジオ様との間に子供を持つ事・・・
そう、私はジオ様とルルによって『魔女』になったのだ。
第二部第一章 完結です。
近日中に第二章開始します。




