1話 勇者の弟子と調理実習
勇者様の弟子になり、学院生活が始まって半年が過ぎた。
「おはようございます!ララ」
「おはよう、ララ」
教室に入ると、友人のリィナとエルが話しかけてきた。
「おはよう!リィナ!エル!」
入学当初は変に悪目立ちしたせいで、まともな友達を作るのは難しいかな?と諦めかけていたが、剣術講座と調理士の講座で一緒だった二人とは打ち解ける事が出来てすっかり仲良くなっていた。
リィナは商人の娘でエルは下級貴族の娘だ。
「下級剣士認定試験合格おめでとう」
「ありがとう、リィナ」
「それにしても入学半年で『下級剣士』か、・・・さすが『剣精様』ね!『上級剣士』になるのも時間の問題ね!」
「さすがにそれは無理だって!」
「でも『身体強化』が使えないのに『下級剣士』になれたのってララだけでしょ?十分規格外だわ」
「規格以下だから苦労してるんだって!」
「私たちは『身体強化』使ってもララの足元にも及ばないもんね」
二人とも護身用に剣術の講座にも参加している。
『身体強化』が使えるのでおそらく卒業までには『下級剣士』レベルにはなるかもしれない。
もっとも、二人の場合は剣術はメインの講座ではないので『剣士』の資格をとる事は必須ではない。
剣術の認定試験は年に数回行われる公式剣術大会で上位の成績を収めた者が挑戦できる。
私は入学後最初の公式大会の一般部門で優勝し、その後、下級剣士認定試験をクリアした。
剣士や騎士を目指す生徒は3~4年かけて『下級剣士』を取得して学院を卒業するのだそうだ。
そのうち何人かは『中級剣士』まで到達する。
在学中に『上級剣士』に至ったのはこの学院の歴史上に数えるほどしかいないらしい。
弓術の講座も始まった時点で私の腕前がすでに講師と同レベルだったのでこちらも騒然となってしまった。
まぁ、すでに狩りで生計を立てていたぐらいなので当然と言えば当然だった。
講座の時間は自主的に狩りに行って腕を磨きつつ、調理講座で使用する材料の調達をしていた。
近いうちに認定試験を受けて講座終了となる予定だ。
薬学の講座はさすが王都の学院だけあって知識の宝庫だ。
知らなかった薬草の種類や用途など、まだまだたくさん出てくる。
料理に活用できそうな薬草の情報も次々見つかるので当分は続けたい。
調理士の講座も基本的な履修項目はクリアしてしまった。
何しろすでに並みの料理人以上においしい料理が作れるので、講師の先生も私に教える事が早々に少なくなってしまった。
先生には近いうちに調理士の認定試験を受けてはどうかと進められている。
しかし私としてはジオ様のためにもっと料理の腕を磨きたいので調理士の講座は続けるつもりだ。
まだまだ知らない料理や食材がたくさんあるのだ。
調理士の講座では最近は創作料理の実習が多くなっている。
今日の食材は王都の市場で見つけた旬の魚だ。
初めて使う食材なので、まずは身を小さく切り取って軽く火で炙って味見してみる。
うまみがあっておいしいがちょっと癖のある味で、人によって好みがわかれるかもしれない。
私はこれまでの経験からこの食材に最適な調理方法と味付けを導き出して調理を始める。
「どうかな?」
リィナとエルに試食をお願いした。
「「おいしい!」」
「この魚あんまり好きじゃなかったんだけど、どうやったらこんなにおいしくなるの?」
「ほんと!ララが料理すると何でもおいしくなるよね!」
「えへへ、いつも肉料理に使う調理方法を少しアレンジしてみたんだけど?」
「剣術の天才なのに料理も天才ってなに?」
「おまけに学科の成績もトップで学院一の美少女なんて、天は2物も3物も4物もララにばっかり与えすぎだよ!」
「その代わり魔法が全く使えないけどね」
「不思議だよね?魔力が無いわけじゃないんでしょ?」
「体内には魔力はあるみたいなんだけど、体が魔力を全く流さない体質なんだって。ごくまれにそういう体質の人っているらしいよ」
「でもララを見てるとあまり困ってるように見えないよね?」
「もう!こう見えて結構苦労してるんだよ?」
「ふふふっ、知ってるよ!ララが誰よりも努力家だって!」
「だから私たちララの事が大好きなんだよ!」
「ありがとう!私もリィナとエルが大好きだよっ!」
私は二人に抱きついた。