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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第二部 魔女の軌跡 第1章 勇者の子育て
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8話 勇者様と腕ならし

(俺もそろそろ魔物と戦ってみようと思う)




 ジオ様はだいぶ自在に動ける様になってきたので実際に魔物討伐に参加すると言い出した。


「ジオ様、まだ無理しなくてもいいんですよ?」


(今、自分がどこまで動けるか把握しておかなければ、いざという時、ルルを守れないだろう?)


 普通、赤ちゃんはいざという時の事までは考えないと思うのだが?


「わかりました。様子見という事で一緒に行きましょう」




 ちょうど、王都から半日くらいの場所にある村の付近で『中級の魔物』の目撃情報があったのだ。




 現在『勇者パーティー』は私と、レンとルナの三人で活動している。


 私の産休中は、私の弟子のゲンとその彼女のシアちゃん、それとシアちゃんの従兄でゲンの友人のキア君が私の代わりにパーティーに参加して、レンとルナを手伝っていた。


 私が復活した後は、彼ら三人は冒険者パーティー『黒曜石の剣』として活動している。


 ・・・もっともまだ彼らは学院の生徒なので、あくまでもメインは学院の授業だが。




「レン、ルナ、今日の討伐はジオ様が参加する事になりました」


 レンとルナが迎えに来たので、事情を説明する。


「ジオ様、大丈夫なのですか?」

「まだ、無理されなくても良いのでは?」


 二人とも、やはりまだ小さいジオ様を心配している。


「あはは、私も同じ事言ったんだけど、ジオ様的にはもう万全なんだって!」


「わかった、ララがそれで良いのならかまわないよ」



「じゃあ、出発しようか。ルルはレィアさんに預ける事にしたから!」



 私は眠ったままのルルをかごに入れて肩にかけた。


 魔物討伐の装備に赤ちゃんの入ったかごをさげているという、ちょっと不思議な格好になった。


 ジオ様にはとりあえず乳母車に入ってもらって、シィラに押してもらう。




 ゼトさんの家に行くと、ゼトさんは仕事に行って不在で、レィアさんとレィナちゃんが迎えてくれた。


「では、レィアさん、ルルを一日お願いします。身の回りはうちのメイドのシィラがやりますので、レィアさんは授乳だけをお願いします」


「わかりました、ララさん。母乳ならいくらでも出ますので問題ありません」


「ほんと羨ましいです」


「いえ、大きすぎて大変なんですよ。わたくしはララさんの方が羨ましいです」



「ララ様、そろそろ出発された方が」


 話が終わらなくなりそうだったので、シィラが気を利かせてくれた。



「そうですね、では、レィアさん、行ってまいります」


「お気をつけて」



 ジオ様は一人で歩けるのだが、さすがに王都を出るまでは、他の人に見られるとまずいので、私が布製のスリングに入れて胸に下げていく事にした。


 乳母車やかごは、後でかさばるので、これが一番お手軽だ。


 ジオ様と常に密着していられるし!


 もっともアーマー越しではあるのだが・・・




 今日の目的地は王都から近すぎて『転移魔法陣』が使えない。

 目的地から最も近い魔法陣がうちの地下だから意味が無いのだ。



 なので、王都の中をジオ様を抱えて歩いていく。


 人の多い街中を最大速度で駆け抜ける訳にもいかないのでこれも仕方ない。



 そして当然の様に通行人から声をかけられる。


 私が出産後、赤ちゃんを連れて街中を歩くのは、そういえばこれが初めてだった。


「勇者様、こんにちは。もしかして、勇者様の赤ちゃんですか?」

「何だって!勇者様が赤ちゃん連れで歩いてるって」

「えー!勇者様の赤ちゃんだって!見たい見たい!」

「わぁ!こんなかわいい赤ちゃん見た事ない!」

「へぇ!ジオ様そっくりじゃねえか!」


 あっという間に人垣に囲まれてしまった!


 ジオ様も大勢の人に注目されて少し困惑している。


「あの、これから魔物の討伐に行かなければならないのでちょっと通して下さい」


 私は何とか人垣を抜けて先に進んだ。




 そんな事が、何回か発生し、王都を出るまで、少し時間がかかってしまった。




 王都の外に出て、人気のない所まで来たので、ジオ様を下におろした。


(すまなかったな、ララ。ここまで運んでもらって)


「いえ、ジオ様はまだ全然軽いので大丈夫ですよ!」


(ここからは人目も無いからペースを上げていくぞ)


「はい!ジオ様。レンとルナも大丈夫?」


「こっちは問題ないよ」


「わたしも大丈夫です」


(では、いくぞ)




 ジオ様の姿が、フッと消えた。


 高速で移動したのだ。


 私たちもそれについて行く。


 ジオ様は生後一か月の乳児とは思えない身のこなしで、森の中を疾走していく。

 走るというよりは、連続で跳躍を繰り返している感じだ。


 私たち四人は、既に常人の数倍の速度で走っている。

 足を交互に地面に着くというよりは、大きく地面を蹴って跳躍を繰り返すような走り方だ。

 一歩の歩幅はとんでもなく広い。


 ジオ様の場合はそれがさらに極端になったと思えばいい。

 一回の跳躍でゆうに数十メートルは跳んでいる。


 少し離れると、豆粒の様に小さく見えるので、何か小さい物体が石礫のように高速で飛んでいる様にしか見えない。


 そしてジオ様はだんだんと速度を上げている。


 これ、もうすぐレン達がついてこられなくなるかも。


 まあ、目的地はわかってるし、問題ないかな。




 ジオ様と私は、最終的に普通の人の全力疾走の10倍以上の速度で移動していた。



 おかげで、予定よりもだいぶ早く目的地に着いてしまった。



「ジオ様、疲れてませんか?」


(勇者の回復能力も正常に働いている。疲労はない)


 勇者って、体が赤ちゃんでも関係ないんだな。


「ジオ様、そろそろ村が近くなるので、スリングに入ってください」


 村が近いので、街道にちらほらと村人の姿が見え始めた。


(ああ、仕方ないな、そうしよう)


 私がスリングの布を広げるとジオ様はその中に飛び乗った。

 そして器用に中に潜り込み、赤ちゃんっぽく収まった。



「ララ!ジオ様!速すぎです」


 ルナとレンが追いついてきた。


「あはは、ジオ様がどこまで動けるか試してみたかったんだって」


「赤ちゃんの体でこれだけ動けるって、勇者ってほんとにすごいんですね」




 そんなジオ様は、スリングの中で普通の赤ちゃんっぽくふるまっていた。


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