5話 勇者様と入浴
ルルが生まれてから数週間が過ぎた。
ジオ様はすっかりルルの世話をマスターして、授乳以外は大体の世話をお願いできるようになっていた。
『イクメン赤ちゃん勇者』という謎の肩書がジオ様についてしまった。
ルルの世話は、もちろんシィラや他のメイドたち、それにバトラーも全面的に協力してくれているので人手が足りないという事は全然ないのだが、ジオ様が自分でできるだけルルの世話をやりたいそうなのだ。
おかげで私は、勇者としての魔物の討伐や、学院の講師としての仕事など、存分に仕事をする事が出来ていた。
もちろん、母親として、ルルと過ごす時間もしっかりと確保している。
もっともルルは良く寝るので、一緒に過ごすと言っても授乳の時以外は、添い寝して私も昼寝しているだけなのだが・・・
どちらかというとジオ様とゆっくりらぶらぶトークをする時間になっている。
育児って、こんなに楽でいいのだろうか?
ルルの授乳周期は規則的で、大体4~5時間周期で安定してきた。
朝出かける前に授乳して、昼休みに帰ってきて授乳、夕方仕事から帰って授乳といった感じで、王都近郊の魔物討伐や、学院の講師だったら問題ないのだった。
学院からだったら、私は5分あれば帰って来られる。
今日は王都近郊で『中級の魔物』も目撃情報があり、昼の授乳のあと、レンとルナと共に、魔物の討伐に行ってきた。
サクッと片付けて、夕方前には家に帰って来たのだ。
(おかえりララ。ルルはまだ眠っているがそろそろ授乳の時間だ)
「ジオ様!今日もルルのお世話ありがとうございます!ルル、ただいま!あなたはほんとによく眠りますね」
ルルのほっぺたを指でつんつんとしたら、ルルがパチッと目を開けた。
「あっ!起こしちゃった!」
私はルルが泣き出すより早く、おっぱいをルルにくわえさせた。
ルルは口に乳首が入ると勢いよくおっぱいを飲み始める。
(さすがに授乳だけは俺には無理だな)
ジオ様、ちょっと完璧主義なところがあるので、自分に出来ない事があるのは不本意みたいだ。
「そうだ!ジオ様、このあと一緒にルルをお風呂に入れませんか?」
(風呂って普通の風呂か?入れて大丈夫なのか?)
「はい!そろそろ大丈夫だと思います」
ルルが満足いくまで母乳を飲ませると、シィラが入浴の準備を済ませてくれたので、お風呂に向かった。
ルルは私がだっこして運んでいるのだが、ジオ様は私の隣を自分足で歩いている。
屋敷内の者は皆事情を知っているので、屋敷内ならジオ様は問題なく自由に行動ができる。
外でこの光景を見られたら大騒ぎになってしまうが・・・
それにしてもジオ様が短い足で一生懸命歩いている姿は本当に微笑ましい。
(どうした?そんなにゆっくり歩かなくても問題ないぞ?)
私がジオ様に合わせてゆっくり歩いていたら、ジオ様にそう言われた。
「ジオ様、それ以上早く足を動かすと、足の動きが見えなくなってしまいますのでこのくらいでいいんです」
そう、ジオ様のかわいらしい歩み姿を見るには、このくらいの速さがいいのだ。
浴場についたら、洗い場の横のかごの中にタオルを敷きその上にルルを寝かせた。
「ジオ様、少しの間ルルを見ていて下さい」
(わかった。と言ってもルルはいつもどおり大人しいが)
「ふふっ、ちょっと待って下さいね」
私は服を脱いで裸になった。
(ララ!何をしている!)
「何って、先に自分の体を洗うんです。赤ちゃんに触れるので、きれにいにしておかないと」
ジオ様は真っ赤になって横を向いてしまった。
「ジオ様、もしかして照れてるんですか? そう言えば結婚してからまだ一度も一緒にお風呂に入った事が無かったですね?」
私は自分の体を洗いながら、ジオ様に話しかけた。
「夫婦って結婚したらお風呂も一緒に入るものなのですよ」
(そうなのか?)
全ての夫婦がそうなのか知らないが、そういう事にしておこう。
「だから私たちもこれからは毎日一緒に入りましょう!」
私は体を洗った後、髪も洗って、とりあえず髪はタオルでまとめ上げた。
「さあ、ジオ様もご自分の体を洗って下さい」
(俺も・・・脱ぐのか?)
「当たり前です。お風呂に入るのに服を着たままでどうするんですか?」
ジオ様は、シィラ特製の、新生児サイズのちょっとかっこいい男の子用の子供服を着ている。
「早く脱がないと私が脱がせちゃいますよ?」
(・・・わかった、自分で脱ぐ・・・)
ジオ様は小さな手で器用にボタンを外し服を脱ぎ始めた。
・・・愁いを帯びた表情のイケメン男子が私の目の前で顔を赤らめながら全裸になっていった!
久しぶりに見るジオ様の裸体!・・・まあ、赤ちゃんなのだが・・・
私の脳内で以前見たジオ様の大人の体に変換してみたら、ちょっと興奮してしまった。
「そうだ!ジオ様自身に赤ちゃんの洗い方を体験してもらえばいいんです!」
(どういうことだ?)
「私がジオ様をルルに見立てて洗いますので、段取りを覚えて下さい」
私はジオ様を抱き上げて膝の上に寝かせた。
(わっ!ララ、何をするんだ!)
ジオ様はパニックになって、私の膝の上で暴れ始めた。
太腿の上でジオ様がぐりんぐりん動くので、ちょっと変な気分になってしまった。
「ジオ様!大人しくしてください!ルルのためにやってるんですから」
(・・・そうだった、すまない)
ルルの名前を出したらジオ様が大人しくなった。
ふう、危なかった。あやうく赤ちゃんの体のジオ様といけない事をしたい気分になってしまいそうだった。
さすがに今のジオ様の体では無理だ。
・・・もっと、体が成長してからでないと・・・




