3話 勇者の弟子と戦場の視察
昨日の王都大襲撃は王都の周囲各地で同時に発生していた。
私が『傲慢の魔女』と対決した場所と、レン達が対応した場所については状況を把握しているので、今日はそれ以外の場所を回る事にした。
私たちは、昨日の決戦の場所に次いで過酷な状況だったと報告のあったエリアの視察に来た。
ここは昨日、ゼトさんが、対応してくれていたらしい。
城壁はかろうじて破壊されなかったが、かなりダメージを受けていて、あと一歩で破壊されてもおかしくない状況だった。
ゼトさんたちが、何とか防衛してくれたのだろう。
「よお、嬢ちゃん!もう動いても大丈夫なのか?」
先にゼトさんが調査に来ていた。
「はい、昨日無事に出産しましたので、私はもう普通に活動できます」
「いや、普通じゃねえだろ嬢ちゃん。レィアなんかまだ歩くのは辛いって言ってたぞ」
「あはは、私は回復能力と治癒魔法ですっかり元通りになっちゃいました」
「そうか、便利だな嬢ちゃんは!」
「ジオも無事に復活したんだな?」
「はい!ちっちゃくなっちゃいましたけど元気です。さすがにまだ出歩くのは無理ですけど」
「落ち着いたら今度会いに行くよ。娘も連れてな」
「ゼトさんとレィアさんの娘さんですね!見るのが楽しみです!」
「すっげえかわいいぞ!見たら驚くぞ」
「うちの子だってすごくかわいいですから楽しみにしててください」
「可愛さだったらうちの子の方が勝ちだな」
「その勝負、受けて立ちますよ!絶対負けません!」
「この間は負けちまったが、今度は負けねえからな!」
「今回も勝ちは私が頂いた様なものです!」
「なにこんなとこで『剣聖』と『剣豪』が勝負してんのさ!」
気が付くと隣にセナ様がいた。
「あっ、セナ様、お久しぶりです!」
「ひさしぶり、ララちゃん。ジオ君、復活したんだね」
「はい!おかげさまで無事に復活しました」
そして、いつの間にか周りを大勢のギャラリーに囲まれていた。
「何だって!『剣聖』と『剣豪』の勝負が見られるって!」
「そりゃすげえ!どんな勝負が始まるんだ!」
「伝説の剣術大会の再来か?こりゃ見逃せないぞ」
「なになに!今から始まるの」
・・・なんかとんでもない騒ぎになっていた。
「あはははは! みんな!剣の勝負じゃなくて親ばか対決だよ!」
セナ様は爆笑していた。
「なんだ、剣術試合じゃないのか」
「そういえば、勇者様、無事出産されたんですね!おめでとうございます!」
「そうか!そいつはめでたいや!」
「そういえば、ゼト様のところもお子さんが生まれたんだよな?」
「って事はレィア様のお子さんだよな、きっとかわいいんだろうな」
「いや!勇者様のお子さんの方がかわいいだろ!」
「何言ってんだ、俺はレィア様に憧れて騎士団に入ったんだ!レィア様のお子さんの方がかわいいに決まってる」
「天使の様な美しさの勇者様のお子さんだぞ、天使の様に可愛いに決まってるだろ!」
なんか騎士団の団員たちが真っ二つに割れて論争が始まってしまった。
「おめえら!まじめに仕事しろ!そしてうちの子の応援、宜しくな!」
「あっ!ゼトさん、ずるいです。皆さん!うちの子の方がかわいいですから!こっちの応援お願いしますね!」
「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」」
周りの人たちは仕事に戻るどころか更に盛り上がってしまった。
「よし!おれは勇者様のお子さんに賭けるぞ!」
「おれはレィア様のお子さんだ!」
「いや、難しいぞこれは・・・」
「でも父親の顔なら圧倒的に先代勇者様だろう?」
「確かにそうだな、よしっ!おれは勇者様側に賭けた!」
・・・なんか賭け事まで始まってしまった。
「しまった!父親を比べられると勝ち目がねえ。だが、安心しろ!うちの娘は母親似だ!」
ゼトさん、なりふり構ってられなくなったみたいだけど・・・ゼトさん的にはそれでいいのだろか?
でも、私も負けれられない!
「うちの子は父親似ですけど将来超絶美形になるのは間違いありませんから!」
ジオ様そっくりなんだもん、かわいくない訳がない!
「それで、これってどうやって勝敗決めるの?」
セナ様から素朴な疑問が発せられた。
結局、レィア様や子供たちが落ち着いたら、騎士団詰め所に子供たちのお披露目に来るという事で落ち着いた。
「ここの戦況はどうでした?」
親バカ対決がひと段落して、ようやく本題に入る事が出来た。
「とにかく魔物の数が多くてまいったぜ!『中級の魔物』も次から次へと出て来るんで、俺や他の上級剣士はその対応に掛かりっきりだったぜ」
「そんで、最後には『上級の魔物』も出てきちまったからな」
「僕のところにも出てきたんだよね」
セナ様はゼト様と別のエリアを担当していた。
「そして僕たちのところにもだよ」
レンとルナも異なるエリアだ。
「つまり4体の『上級の魔物』が別の場所で同時に出現したって事だよね?」
「最後にララちゃんが倒した3体を合せると一日で7体の『上級の魔物』が出現した事になるね」
「一日に同じ場所でこんだけの上級の魔物が出現するなんて前代未聞じゃないのか?」
「一年前にもあったけどね」
「・・・『終焉の魔物』か・・・確かにあの時はこんなもんじゃなかったが」
「『傲慢の魔女』は魔物を召喚して自在に操る魔法を習得したんです」
私は昨日、『傲慢の魔女』と直接対峙して確信した。
彼女は魔法で魔物を召喚し、意のままに操る事が出来るのだ。
「それって『強欲の魔女』にも出来る事なのかい?」
セナ様が私に尋ねた。
『強欲の魔女』というのは、私の魔女としての二つ名だ。
覚醒した私は、過去の『強欲の魔女』の知識と記憶の断片を持っている。
「今はまだ・・・できないかな?」
過去に『強欲の魔女』が魔物を操る魔法を習得した事は無いと思う。
そもそも『強欲の魔女』は、そんな事をしようと考えないだろう。
「それって、いずれは出来るって事?」
「やろうと思えばできるかもしれないけど・・・いつになるかはわからないし、必要にならなければ習得しないと思ます」
確かに、それができたら画期的な事かもしれないけど・・・
「今は、当てにしない方がいいって事だね」
「すみません。そう思って頂いた方がいいです」
「あっ、いけない!そろそろ授乳の時間だった!いったん家に帰りますね」
少しゆっくりしすぎた。
家でルルが泣いてるかもしれない。
「情報交換もできたし、今日はもう大丈夫だよ」
「はい、セナ様!ありがとうございます」
私は全速力で家に向かって走った。




