12話 勇者様と朝練
お砂糖回です。
「んっ、んっ、んっ!」
「何をしている」
朝の訓練の前にストレッチをやっていたらジオ様がいつもより少し早くやってきた。
「ストレッチですよ、いつも朝の訓練の前にやってるんです。こうやって体をほぐしておいた方が動きやすくなりますので」
「そうゆうものなのか?」
「ジオ様はやりませんか?」
「俺の体は勇者の特性で常に最善の状態が保たれているから必要ない」
「そうなんですか?それは便利ですね。すみません、もうちょっと待っててください」
「んっ、んっ、んっ、んっ!」
「毎朝やっているのか?」
「そうですよ、柔軟もやってます。関節の可動範囲を少しでも大きくしておいた方が、いざという時攻撃の範囲や回避の幅が広くなりますので」
「なるほど・・・」
「んっ、んっ、んっ、んっ!」
「・・・・・・」
今の私は朝の訓練用に薄手の服にスパッツと体のラインの出る姿だ。
目の前で女の子が足を広げたり結構きわどいポーズをしてるにもかかわらず、ジオ様は無表情にそれを眺めている。
「ジオ様もやりませんか?」
「俺には必要ないんだが?」
「体だけでなく気分も良くなりますよ?それにひとりでやるより一緒にやってくれる人がいた方が嬉しいです」
試しに誘ってみた。
「いや・・・いい」
「それじゃ、少し手伝ってもらっても良いですか?」
「なんだ?」
「背中を押してもらって良いですか?」
私は地面におしりをついて両足を左右に開き、手を前に伸ばす。
「こうか?」
ジオ様は背中を優しく少しだけ押してくれた。
「あはっ!」
(そっとさわりすぎてかえってくすぐったい!)
「もっと強く押していいですよ。胸が地面に着くまで」
「そんなに押して大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
「では行くぞ」
ジオ様はゆっくりと優しく力を加えていってくれた。
私の体はペタンと地面に密着する。
「柔らかいな?お前は。柔らかすぎてどこまで力をかけていいか加減がわからなかったぞ」
「関節が柔らかくなるように毎日柔軟をやってますから」
「関節もそうだが筋肉自体が柔らかいな?こんな柔らかい体でよくあんな戦い方ができるものだ」
ジオ様は自分の手のひらを眺めながら何か考えていた。
「初めて会った時も思ったが、勇敢に魔物と戦っていた戦士を抱きかかえたら思ったより軽く、溶けそうなくらい柔らかくて意外だった。まるで普通のか弱い少女の様に」
「ひどい、私、普通のか弱い女の子なんですけど!」
ぷいっと怒ったふうに横を向いた。
「いや、すまない。でもか弱くはないだろう?」
普段から感情の変化が少ない勇者様がちょっとだけあわててるのはおもしろい。
「ふふっ、体を柔らかく保っているから戦えるんですよ?」
「私は『身体強化』が出来ませんので力勝負では勝てません。『加速』を使われたらスピードでも勝てません。ですからタイミングを見計らって最善の瞬間に最適な動きで対処する必要があるんです」
「そのために、筋肉をガチガチに鍛えるより、素早さと柔軟性を重視した鍛え方をしています」
「なるほど、そういう事か」
ジオ様はどうやら納得したらしい。
「その結果として、あのような無駄のない美しい動きになるのか」
ジオ様に何気に「美しい」と言われてしまった!
「・・・私、美しいですか?」
「ああ、きれいだといつも思っている」
ボンッ!と頭から火が出た感覚がした(火魔法は使えないけど)
顔が真っ赤になるのを感じて両頬に手を当てた。
(ジオ様にきれいって言われた! 無自覚に言ってるんだろうけど・・・)
その顔で正面から目を見つめて「きれいだ」と言うのは反則だ。
「どうした?」
「なんでもないです!」
戦い方の話だって分かってはいるのだけど、嬉しくって仕方がない!
へにゃへにゃっと本当に全身がとろけてしまいそうになった。




