エピローグ1
ずっと夢を見ていた。
何もなかった世界で見つけた、ただ一人の大切な人。
弟子であり
娘であり
妹であり
戦友であり
師であり
恋人であり
そして妻であり
絶対に失いたくない人。
そんな人に守られて安らぎに満ちたまどろみの時間を過ごしていた。
そんな夢だった。
目を開けると、視界がぼやけていた。
自分は今までどうしていたんだろう?
そもそも自分は何なんだ?
ゆっくりと瞬きを繰り返すと、次第に焦点が合ってきた。
視界が鮮明になるにつれて、記憶も次第によみがえってきた。
そして一番大切な人の事を思い出した。
「おかえりなさい、ジオ様」
目の前には、輝くような金色の髪に、澄み渡る空のような青い瞳があった。
「・・・・・」
一番大切な人の名前を呼ぼうとしたが声が出なかった。
「ジオ様? 私がわかりますか?」
ずっと夢で見ていた笑顔がそこにあった。
「・・・・・」
やはり声が出ない。
声だけでなく、体が思うように動かない。
手を伸ばそうとしたが、うまく手が持ち上がらない。
のどに全身の力を集中して声を絞り出す。
「・・・・・・・ラ・・・・・ラ!」
とても言葉とは言えないが、大切な人の名前を発音する事ができた!
「・・・ジオさまぁ!」
ララの目から涙が溢れ出した。
ララは俺を抱き上げ、俺の顔に頬摺りした。
(俺の体はいったいどうなっている?)
ララがこんなに軽々と俺を持ち上げられるはずがない。
頬摺りするララの頬は相変わらずなめらかでやわらかい。
しかし今は涙でびしょびしょに濡れていた。
俺は何とか手を動かしてララの頬の涙をぬぐった。
・・・そして気が付いた。
ララの頬にさわった俺の手は赤子のように小さな手だった。
「ふふっ、ジオ様、おどろかれました?」
驚愕している俺を見て、ララが少しいたずらっぽく笑った。
ララは俺を顔から離し、お互いの顔が見えるように向かい合わせに抱きかかえた。
「ジオ様はたった今、私のおなかから生まれたんですよ!」
ララはちょっとだけ得意げに微笑んだ。
(どういうことだ!)
おぼろげな記憶を少しずつ手繰りよせる。
俺とララは『終焉の魔物』と対決し、俺は肉体を捨てて精神体となり、勇者の力の根源たるこの世界の理と一つになって『終焉の魔物』を消滅させた。
その後、肉体を失った俺は消滅する運命だった。
だが、精神体となった俺をララは自分の中に取り込んだのだ。
「あの時、体を失ったジオ様を私の体に受け入れました」
ララが俺に語り始めた。
「でも、自分の体を持たない精神体は、この世界に長くとどまる事ができません。ですから私はジオ様の体を作る事にしたんです」
(・・・体を・・・作る?)
「幸いにもあの時、私のおなかの中にはまだ、ジオ様の・・・その・・・ジオ様のがいっぱい残ってたんです!」
ララは真っ赤になりながら語り続けた。
俺もその時の事を思い出して恥ずかしくなった。
「そこからジオ様の体の情報を取り出して、私の体の赤ちゃんを作る機能を利用して、ジオ様の体を再生する事を思いついたんです」
(・・・そんな事が・・・できるのか?)
「学院で学んだ医学の知識と、『魔女』として覚醒した断片的な情報からその仕組みと方法は知ることができました。でも、その体にジオ様の精神が本当に定着するかどうかはずっと不安でした・・・」
「だからこうしてジオ様に再会できて本当に嬉しいです!」
ララは再び俺をギュッと抱きしめた。
色々ありすぎて頭の中がまだ整理できていない。
だが、こうして再びララと一緒にいる事が現実なのは間違いないという事だけで今は十分だ。
これからも二人で生きていける。
その事に比べたら赤子の体になった事など些細な事だった。
「ほぎゃー! ほぎゃー!」
その時、すぐ近くで泣き声が聞こえた。
声の方を見ると・・・・・俺がもう一人いた。
本日もう一話投稿します。




