10話 勇者の弟子と終焉の決着
『終焉の魔物』の体内に入った私は、『グラビティキャノン』で前方に穴をあけながら魔結晶の場所をめざした。
穴はすぐに修復を初めて狭くなっていくが、次々に前方に新しい穴を空けて進んでいく。
修復しかけの穴の内壁からも『中級の魔物』が湧き出てきた。
ジオ様はそれらを一刀両断してくれた。
やがて少し開けた空間に出た。
そこには直径20メートルはあろうかという巨大な魔結晶があった。
魔結晶は無数の管で周辺の壁とつながっている。
「見つけた!」
魔結晶自体は魔力が枯渇するまでは、あらゆる手段を持ってしても破壊することができない。
どういう原理かわからないが、物理的な破壊が不可能なのだ。
目の前の巨大な魔結晶は、先ほど『終焉の魔物』の巨体のほとんどを再生したにもかかわらず、赤く強い光を放っている。
すぐに魔力が枯渇する事は無いだろう。
「体を全て燃やし尽くします!」
私は魔結晶の周りに無数の魔法陣を作り出した。
周囲を球体状に隙間なく魔法陣で埋め尽くす。
全てが上級魔法『ヘルフレイム』の魔法陣だ。
今の私なら魔法陣無しでも発動できるが、あえて魔法陣にする事で、魔法を『置いておく』事が出来る。
ルイ殿下の使っていた戦法を使わしてもらう。
『ヘルフレイム』の魔法陣は、かつて私がアレンジした『改良版』だ。
これが『ヘルフレイム』の魔法陣の完成形だ。
教本に載っている『ヘルフレイム』の魔法陣より効率と出力が上がっているはずだ。
今なら私はそれがわかる。
無数の『ヘルフレイム』の魔法陣はすでに励起状態になっている。
私は更に魔力を注入する。
魔法陣が限界を超えて高速で活動し、光り輝く。
「ジオ様!脱出します!」
私とジオ様は、ふさがりかけていた空洞を全速力で駆け抜け、『終焉の魔物』の外に出た。
私たちが外に出ると同時に穴はふさがっていた。
(好都合ね!)
私は『終焉の魔物』から遠ざかりながら魔法を発動する。
「『ヘルフレイム』同時発動!!!」
『終焉の魔物』の体内で全ての『ヘルフレイム』の魔法陣が発動した。
『終焉の魔物』は内部からの熱と圧力で本体部分が膨張していく。
そして全体に無数の亀裂が走り始めた。
やがて亀裂から炎が噴出し溶岩が流れ出し、亀裂から砕けた破片と溶岩が、共にぼとぼとと海に落下していく。
『終焉の魔物』の巨大な体は中心から周囲に向かって強烈な炎に飲み込まれていった。
それは直径数キロメートルに及ぶ巨大な火の玉と化した。
まるで太陽が海の上に落ちてきたような光景だった。
まぶしくて目があけていられない。
それにすさまじい熱線を全身に感じる。
『ヘルフレイム』の炎は巨大な『終焉の魔物』の全体を燃やし尽くして消滅した。
後には巨大な魔結晶のみが宙に浮いていた。
「もう肉片は残っていないよね?」
私は魔力をほとんど使い切り、立っているのがやっとだ。
全身に脱力感を感じる。
「大丈夫か?ララ」
ジオ様が倒れそうな私を支えてくれる。
私たちは相変わらず空中に浮いている巨大な魔結晶を見上げた。
「倒したのか?」
「魔結晶以外は全て燃え尽きました。もう再生は出来ないと思いますが・・・」
だが、『終焉の魔物』の巨大な魔結晶はまだ光を放ってあいかわらず宙に浮いている。
・・・本当にこれで終わったのだろうか?
しばらくの沈黙の後、魔結晶に異変が起きた。
魔結晶が一瞬強く輝き、それがおさまると、先ほどよりほんの少し輝きが暗くなった。
そして、魔結晶から魔物の肉体が湧き出てきた。
「まだ再生できるの!?」
(読み違えた!)
『終焉の魔物』は魔結晶のみになっても再生ができたのだ。
私は海に向かって駆け出していた。
「ララ!まて!」
ジオ様も追いかけてくる。
そして魔結晶に向かって跳躍する。
『ヘルフレイム』の発動にはこの距離まで近づく必要があった。
『終焉の魔物』は魔結晶を中心に再生を始めていたが、今ならまだ一発の『ヘルフレイム』で焼き尽くせるはず。
私は残りの魔力の全てを振り絞り魔法を放った。
「『ヘルフレイム!!!』」
『終焉の魔物』の魔結晶は地獄の業火に包まれた。
私は全身の力が全て抜けていく気がした。
もういっさいの魔力が残っていないのがわかる。
私はそのまま落下していった。
「ララ!」
落下する私をジオ様が受け止めてくれた。
「大丈夫か?ララ!」
「はい、魔力を使い切っただけです」
「・・・髪と眼の色が元に戻っている」
見ると風にたなびく自分の髪が金色になっていた。
「あれ?魔力を使い切ったからですかね?」
ジオ様は私を抱きかかえて海岸に降り立った。
『ヘルフレイム』の炎は『終焉の魔物』の魔結晶の周りに再生し始めていた肉片を全て焼きつくし、消滅した。
後には再び巨大な魔結晶だけがが宙に浮いている。
「魔結晶を破壊する」
「ジオ様?」
「過去の戦いで、『終焉の魔物』討伐の後に魔結晶が残っていたという記録は無い。歴代の勇者は魔結晶もろとも『終焉の魔物』と共に消滅している。おそらく魔結晶を破壊しないと完全には終わらない」
「どうやって・・・破壊するんですか?」
魔結晶は魔力が完全に枯渇した状態でないと破壊できない。
これは大きさに関係なく全ての魔結晶に共通した特性だ。
魔道具や附加装備に利用したり、粉末にして固定魔法陣を作る顔料にする場合は、一旦魔力を枯渇させて、魔結晶が消滅するまでの短い時間に加工し、再び魔力を注入して固定させるのだ。
『終焉の魔物』の巨大な魔結晶は、あの巨体を丸ごと再生させてもわずかに輝きが衰えただけで輝きを失っていない。
おそらくあと数回、全身を再生させるだけの魔力を蓄えている。
仮にもし『終焉の魔物』が再生したとしても、私もジオ様も、もうあれを倒すだけの魔力は残っていない。
「勇者の力を開放する」
「だめです!ジオ様!」
そんな事をしたらジオ様が消滅してしまう。
何のためにここまで頑張ったのか意味がなくなる。
「このまま終わるかもしれないじゃないですか? ジオ様が犠牲になる必要はありません!」
その時、魔結晶に再び異変が起きた。
魔結晶が一瞬強く輝き、その後先ほどより更にほんの少し輝きが暗くなった。
そして・・・またしても魔物の肉体が湧き出てきた。




