4話 勇者様と結婚式
「セナ、ゼト、二人に頼みたい事がある」
ジオ様が、あらたまってセナ様とゼト様に話しかけた。
「俺とララの結婚式の立会人になってくれ」
(ジオ様!)
「ようやく覚悟を決めたんだね!よかったねララちゃん!」
「そうかそうか!おめでとう!嬢ちゃん」
二人にパシパシ叩かれた。
「えーと、無事に帰れたらって事だよね? でもそれって今言ったらダメなヤツじゃないの?」
「違う、今ここで結婚式をとり行う」
「俺はララを妻にすると決めた。けじめをつけておきたい。上級役人2名の立ち合いがあれば正式な婚姻として認められる」
「・・・そうだね、それが良いかもしれないね」
セナ様が少し真顔になった。
ゼト様もだ。
「いいな?ララ」
ジオ様と結ばれただけで十分に満足で、もう何も思い残す事はないと思ってたのに!
・・・ジオ様は結婚式の事まで考えていてくれたんだ!
「はい!もちろんです!」
私は思いっきりほほえんだ。涙が出るくらいに。
「よーし!そうと決まったら盛大に執り行おう!」
セナ様とゼト様が簡易的にだけど会場の設営を行なってくれた。
私も手伝おうとしたら主役はおとなしく待ってなさいと言われた。
ジオ様と二人で準備が整うのを待つ。
二人で並んで砂浜に腰かけて海を眺めていた。
夜も更けて満天の星空には大きな満月が浮かんでいた。
月の光が水面に反射して神秘的な光景を作り出している。
明日になったら海の向こうから『終焉の魔物』が姿を現わすとは思えないくらいの美しさだった。
「ジオ様は、・・・私が魔女でもあまり気にしていないんですね?」
ジオ様は一度私の方を見て、それから視線を月に戻した。
「月がきれいだな」
「はい、そうですね」
ジオ様は月を見上げたまま、ぽつりぽつりと語り出した。
「ララに出会う前は、月を見て美しいと感じる事などなかった」
「食事を旨いと感じる事もなかった」
「睡眠を心地よいと感じる事もなかった」
「そして人を愛おしいと思う事もなかった」
ジオ様は私の方を振り返った。
「全て、ララが俺に教えてくれた。人間だろうと魔女だろうと、俺にとっては何も変わらない」
ジオ様が私を見つめている。
「・・・ジオ様・・・」
私もジオ様を見つめ返す。
・・・どちらともなく・・・自然に唇を重ねていた。
「準備できたよー! ・・・って! あー!まだ早いよ!二人とも!ちゃんと段取り守ってよ!」
「せっ! セナ様! いつからいたんですか!」
「いや、今だけど、邪魔しちゃったかな?」
「れっ、練習してただけだっ」
ジオ様もちょっと焦ってる。
式場は木材や岩でできたモニュメントが並び、篝火が焚かれて、何となく神殿のような雰囲気になっていた。
「結婚式の様式だけど、二人とも剣士の格好だし、『剣士の結婚式』の様式でいいよね?」
「ああ、それでいい」
「私も!それが良いです!」
この国の結婚式には特に決まった様式がなく、みんな好き勝手な形で結婚式を挙げている。
『剣士の結婚式』というのは剣士同士が結婚する時に人気の様式だ。
この国の騎士団には女性の騎士も多く所属しているので、騎士同士の結婚は珍しくない。
冒険者も生死を共にしたパートナーと結婚する事が多い。
「それでは、『剣豪ゼト』及び『上級魔術師セナ』立ち合いのもと、『勇者ジオ』と『剣聖ララ』の婚礼の義をとり行う」
「両名、己の剣を掲げよ!」
「「はい」」
ジオ様と私は向かい合って立ち、剣を抜いて天に掲げる。
2本の剣に月の光が反射する。
「剣に誓いをたてよ!」
「わが命を『剣聖ララ』に捧げる事をこの剣に誓う」
ジオ様が自分の剣に誓いをたてる。
「わが命を『勇者ジオ』に捧げる事をこの剣に誓う」
私も自分の剣に誓いをたてる。
次に掲げた剣を降ろし、互いの心臓の前に突き立てる。
そしてそれぞれ相手の剣の刃に左手を添える。
「わが命を『剣聖ララ』に委ねる事をこの剣に誓う」
ジオ様が私の剣に誓いをたてる。
「わが命を『勇者ジオ』に委ねる事をこの剣に誓う」
私もジオ様の剣に誓いをたてる。
(うん!やっぱりこれがしっくりくる)
私とジオ様は3年間、毎日のように剣を交えてきた。
会話している時間より剣を交えていた時間の方がはるかに長い。
剣を交えれは気持ちはすべて通じ合える。
そんな私たちには、やはりこの結婚式が一番ふさわしい。
「互いに誓いをたてよ」
再び剣を天に掲げ、お互いの剣を交差させる。
「わが命が『剣聖ララ』と共にある事を誓う」
「わが命が『勇者ジオ』と共にある事を誓う」
私とジオ様はお互いに見つめあい、頭の上で剣を交えたまま近づいてゆく。
そして、誓いのくちづけをかわした。
「これをもって『勇者ジオ』と『剣聖ララ』は夫婦となった」
「おめでとう!ララちゃん!ジオ君!」
「おめでとう!嬢ちゃん!ジオ!」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
(やった! 本当に勇者様のお嫁さんになれちゃった!)
(ううん! 勇者でも勇者でなくてもいい! 大好きなジオ様のお嫁さんになれたんだ!)
「ララ」
「ジオ様」
剣を収めた私たちは再び抱き合ってキスをした。
ジオ様のキスは、そっと触れるやさしいやさしいキスだった。
(私は今、まちがいなく世界で一番幸せな女の子だ!)
(この幸せを『終焉の魔物』なんかに奪われてたまるものか!)
(どんな手段を使ってでも二人いっしょに生き延びてやる!)
欲張りな私は、これまでの人生で最高に欲を出していた。




