2話 勇者の弟子と魔法
「ララ! 大丈夫か?」
私たちは目的地である国の最南端の鍾乳洞の中にいた。
「ジオ様! どうなったんでしょう? 魔法陣が勝手に発動して・・・そうだ!私の魔力が魔法陣に流れて・・・」
「ララ! その髪の色と目の色は・・・?」
「え?」
私は自分の髪を見た。
(えぇー!? 黒くなってる?)
「ジオ様! 髪が黒くなってます!」
「ああ、瞳の色も黒くなってる」
「えぇー?そうなんですか?」
私はレイピアを抜いて刀身に自分の顔を映した。
「ほんとだ! 髪も眼も黒くなってます!」
(私ってばいったいどうなっちゃったの!?)
「ララちゃん、さっき魔力が流れたって言ったよね」
「はい、体の中から魔力が魔法陣に流れ込むのを感じました。初めての感覚だけどこれが『魔力』なんだなって、なんとなくわかりました」
「描いてる途中で魔法陣が完成したよね?」
「はい、私は途中までしか描いていません」
「そして、呪文を詠唱していないのに魔法陣が発動した」
「ええ、どうなっているんでしょうか?」
「ジオ君、君なら同じことができるかい?」
「ああ、魔法陣はわからんが、発動は詠唱しなくても可能だ」
「それって、つまり、私が勇者の能力を継承したって事ですか?」
「いや、先代の勇者が消滅しないと能力は発現しないはずなんだが?」
「・・・もしかして・・・継承の秘術のやり方が・・・まずかったんでしょうか?・・・」
「・・・そんな事は・・・ない・・・はずだが?・・・」
二人して赤くなってしまった。
「なになに? なんかへんな事しちゃったの?」
「してない!」
「してません!」
「はは、息ぴったりだね?」
「ところでララちゃん、何か魔法が使えるかな?」
「はい、やってみます。とりあえず『スモールファイヤー』ですかね」
私はレイピアでスモールファイヤーの魔法陣を描こうとした。
「えっ?」
レイピアを構えて魔法陣を描こうと思ったら、描く前に魔法陣は完成していた。
そしてすでに励起状態になっている。
「えぇー!なんで?」
「発動してみて!」
「はい。ス・・・」
私は呪文を唱えようとした。
ボゥゥゥゥゥゥ!
呪文を唱える前に、目の前に大きな火柱が上がった。
「えぇぇぇぇぇぇ!!! どういうこと!!!」
(とにかく消さなきゃ!)
消そうと思った瞬間、火柱は突然消えた。
鍾乳洞の天井には焼け跡が残っている。
「すみません!! 魔法のコントロールが上手くできません」
「いや、コントロールは出来てると思うよ。行程が省略されてるのと威力が強すぎただけだね」
そういえば、思った瞬間に魔法陣が出来上がってたり、魔法が発動していた。
「今度は魔法陣を描かずに、魔法陣のと魔法の発動をイメージしてごらん。炎の大きさも明確にね」
「はい、やってみます」
私はスモールファイヤーの魔法陣をイメージし、小さめの火をイメージして魔法が発動するように念じた。
ボッ!
イメージした通りの大きさで火の玉が現れた。
「できました!」
「こりゃすごいや!全部の行程を省略して発動しちゃったよ」
「俺と同じだな」
「じゃあ、やっぱり勇者の力が使えるようになったんですね?」
「嬢ちゃん、身体強化は使えるかい?」
今度はゼト様がたずねてきた
「ええと、どうすればいいんですか?」
「体の中の魔力の流れを感じ取って、強化したい能力をイメージすればいい」
「ゼト、説明が雑だよ」
「あ!でも、できそうな気がします。試しにやってみます!」
私は体内の魔力の流れを意識して全身の筋肉に巡らせる。
「じゃあ『加速』やってみます!」
筋肉の反応速度が速くなるイメージをして移動する。
「うわぁ!」
附加装備も付けていたため、普段の附加装備の『加速』がさらに増幅された感じだ。
狭い洞窟内だったので一瞬で壁に近づく。
私はあわてて方今転換したが、また次の壁、また向きを変えて次の壁と、鍾乳洞内を跳ねまわった。
「しっ、死ぬかと思いました!」
「何やってんの?ララちゃん」
「しかしすげえ速さだったな、俺でも目で追うのがやっとだったぜ」
「でも感覚がわかりました。附加装備の増幅率がさらに大ききくなったと考えれば良さそうです」
つまり附加装備無しでも附加装備と同じ事ができるわけだ。
「確かに、これは俺の能力に匹敵するな」
ジオ様が考え込んでいる。
「つまり先代勇者が死ななくても能力を継承する方法が見つかったって事かな? それって画期的な事だよ。うまくすれば同じ方法で勇者を同時に何人もそろえられるからね」
(・・・同じ方法って?)
「ねぇ!今回どうやって継承の秘術を行なったの?」
セナ様が興味津々で聞いてきた。
「だだだだ! ダメです! 教えられないし、ジオ様が他の人にするのは絶対ダメです!」
「俺もララ以外にするつもりはない!」
二人で真っ赤になって反論した。
「ふぅん? まぁいいや! 勇者が二人になっただけでもかなり戦況は有利になったからね!」
セナ様は含み笑いしつつ納得してくれた。
「もう一つの可能性は、何かがきっかけになって、封印されていたララちゃんの魔力が解放されたって事かな?勇者の継承がカギになってたとは考えにくいけど・・・」
(きっかけになった何かって・・・たぶんアレだよね・・・)
「前にも言ったけどララちゃんは上級魔法士を凌駕する魔力生成量と魔力容量を持っている可能性が高い。魔力が流れるようになったなら上級魔法も使えるはずだよ? 実際にさっき転移魔法陣を発動したからね!」
「そうか!私、『上級魔法』が使えるようになったんだ!」
(これで『終焉の魔物』に勝てるかもしれない!)
「それから、ララちゃんのその髪の色・・・」
「そうだ! 私の髪、どうなっちゃったんですか?」
明るい金色の髪、ジオ様にも褒めてもらってお気に入りだったのに・・・
「黒髪のララも神秘的できれいだ」
少し落ち込んでた私をジオ様はフォローしてくれた!
「ジオ様!ありがとうございます!」
私はジオ様を見つめ返した。
「そこ!いちゃつくのは後にしてくれないかな?」
「いちゃついていない!」
「いちゃついていません!」
「黒髪はともかく黒目なんだけど、僕の知る限りこの国に真っ黒な瞳の人はひとりもいないんだよね」
たしかに、今まで会った事が無い。
「ところで黒目黒髪といったら何か思い出さないかな?」
「・・・『魔女』ですよね?」




