11話 勇者様と終焉の前日(午前)
『終焉の魔物』討伐に出発する前日は、私のお願いでジオ様とデートしてもらう事になっている。
今回はいつもと違ってお屋敷から一緒に出掛けた。
ジオ様は普段着の勇者スタイルだ。
「今日はどこに行きたいんだ?」
「まずは学院に行きます」
学院は平日で通常の授業中だ。
「『剣聖様』! 今日はお休みではなかったんですか?」
剣術講座の練習場に顔を出すと生徒たちが集まってきた。
「今日はプライベートで見学に来ました!なんと『勇者様』も一緒です!」
「ええー!『勇者様』がどうしてこんなところに!」
「それはー、私と勇者様がお付き合いしてるからです!」
私はジオ様に抱きついた!
「「「「「ええー!!!!」」」」」
「勇者様と恋人同士って本当だったんですね!」
「今日は特別に『勇者様』が稽古をつけてくれますよ!」
「ララ、聞いてないぞ」
「ふふっ!いいじゃないですか?」
「さあみんな!勇者様に稽古をつけてもらいたい人は並んでくださーい!」
見事に全員が列に並んだ。
というか教員も全員並んでいる。
「さあ、ジオ様。お願いします。皆さん待ってますよ!」
「仕方ないか・・・」
ジオ様は練習用の剣を手に取って、生徒たちの相手をしていった。
「『勇者様』に稽古をつけてもらえるなんて、みんなに自慢できるぞ!」
「『剣聖様』だけでなく『勇者様』にも指導頂けるなんて剣士としてこれ以上の経験はないぞ!」
「というか『勇者様』と『剣聖様』って最強のカップル過ぎないか?」
ジオ様が一通り生徒と教官たちの相手をしたところで、教官の一人が話しかけてきた。
「無理を承知でお願いしたのですが『勇者様』と『剣聖様』の模擬戦を見せて頂く事は出来ないでしょうか?」
他の生徒や教官たちも期待に満ちた視線で私たちを見ている。
「仕方ないですね。私は今日はスカートなので軽くですよ」
私は練習用のミドルソードを手に取ってジオ様に対峙した。
「ジオ様、ちょっとだけお願いします」
私はスカートがめくれない様に気を付けつつ、ジオ様に打ち込んだ。
ジオ様も私が派手に宙返りや跳躍をしなくて済むような対応をしてくれる。
お互い本気を出すとみんなから見えなくなってしまうので、このくらいでちょうどいいかもしれない。
いい感じで打ち合いをしていたら、途中でジオ様が剣を収めて私の前に立ちはだかった。
みんなから私を隠すような感じだ。
「ララ、太腿が見えている」
ふと生徒たちの方を見ると、みんな顔が赤くなっていた。
しまった!スカートが完全にめくれない様には気をつけてたけど、確かに太腿ぐらいまでは見えていたかもしれない。
「みなさん!ごめんなさい!今日はここまでにします!」
ははは、ちょっと調子に乗りすぎた。
「・・・他の男には見せたくない・・・」
ジオ様がちょっと赤くなってぽそっとつぶやいた。
その後学院内をぶらぶらと歩きまわった。
知り合いに会うたびに『勇者様』と一緒にいる事に驚かれた。
学院を出ると次はギムさんの工房に顔を出した。
「よお!二人で来るなんて珍しいな?」
「今日はデートなんです!」
「はははっ!こんなとこデートで来るところじゃねえだろ」
「ギムさんにはいつもお世話になってますので」
ギムさんと附加装備の改良の話や世間話をした。
「なあ、本気で俺の弟子になんねえか?」
「私は勇者の弟子なので無理ですよ」
「ララはどこに行っても人気者だな」
その次は冒険者ギルドに来た。
「ララ! どうした!こんなところに!」
「ココさん 今日はお仕事ですか?」
「おう!今はこのギルドを拠点に仕事してんだ! ララ達はデートか?」
「はい!そうです!」
「ひさしぶりね!ララ」
「ケイさん!久しぶりです!」
「まさか本当に勇者様を落とすなんてね」
ケイさんはジオ様の方を見た。
「勇者様、あの時は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いや、こちらこそ、冷たい態度をとって申し訳なかった」
「そうだ!ララに報告があったんだ!あたしもついに彼氏ができたんだ!」
「そうなんですね!おめでとうございます」
「勇者様ほどイケメンじゃないけどね。あたしの事大事にしてくれるんだ」
「良かったですね!」
その後も知り合いの冒険者の人たちに話しかけられた。
「じゃあな!ララ!またご飯食べに行くよ!」
「はい!ココさん。お待ちしてます」
お昼ご飯は王都一と評判のレストランのランチだ。
「お待たせ!ララ」
「ひさしぶりです。ララ」
「エル、リィナ、会いたかった!」
昼食はエルとリィナも誘ったのだ。
「勇者様、お久しぶりです」
「その節はありがとうございました」
「二人の事はいつもララから聞いている」
「ララってば、ついに欲しいものを全部手に入れたね!おめでとう!」
「良かったね!ララ」
「えへへ、ありがとうエル、リィナ」
「それは違う。俺がララを手に入れたかったんだ」
「ジオ様!?」
恥ずかしげもなく何言ってるんですか?
「はは、もてもてだねぇ?ララ」
「エルはもうすぐ結婚するんでしょ?」
「まあね、親の決めた相手だけど、会ってみたらいい人だったし、断る理由もないしね。ほんとはララみたいな大恋愛もしてみたかったけどね?」
「ははは、大恋愛って、大げさだよ」
(ほんとはこれから最後の山場が残ってるんだけど・・・)
「リィナは家の仕事を手伝ってるんだよね?」
「うん、商売ってやっぱり大変だよ。恋愛してる暇なんかできないよ」
「リィナだったらきっといい相手が見つかるよ」
おいしいランチを食べながら楽しい時間を過ごした。
「じゃあね!ララ。必ず幸せになりなよ!」
「またね!ララ」
「うん、また会おうね!」




