10話 勇者様と勇者の弟子
『終焉の魔物』討伐は2日後に迫っている。
明日は訓練を休みにする事になったので、今日が討伐前の最後の訓練となる。
「ジオ様、今日は『附加装備』を着けて打ち合いをしてもいいですか?」
「ああ、そうだな。実戦に則した状態で訓練の仕上げとするか」
いつもは私の技能向上のために効率がいいので、訓練の際に装備は使用していない。
私は『附加装備』を装着した。剣も『附加装備』のレイピアだ
ジオ様は剣のみ『附加装備』のロングソードを使用している。
「いつでもいいぞ」
「では行きます!」
私は最初からトップスピードでジオ様に切りかかる。
私の『附加装備』は『倍増型』だ。
使用者の能力に比例して能力が向上する。
『剣聖』となった私は、以前よりはるかに強くなっている。
おそらく、装備無しでも『中級の魔物』を倒せるだろう。
装備時は『上級の魔物』の単独討伐も不可能では無いかもしれない。
(ジオ様が絶対やらせてくれないけど)
それはつまり、勇者に匹敵する戦闘力を意味する。
ジオ様は私の剣戟をかわすと同時にすでに私に切り込んでいる。
私はその時点でそれを予測しすでに回避し、次の攻撃に入っている。
ジオ様はそれを見て回避し、一旦距離を取った。
私はジオ様が距離を取らなければ更に次の一撃をジオ様に決めているところだった。
『剣聖』の極意とは、つまるところ『先読み』だ。
魔力を使った特殊能力ではなく、純粋に経験の蓄積によるデータベースの量と解析・判断能力だ。
これまで経験した膨大な戦闘パターン
相手の能力や性格
相手の視線やわずかなしぐさ、全身の筋肉の緊張と弛緩、重心の位置
周囲の音や振動、光の加減や匂い
様々な情報を集約して、最も勝率の高い勝ち筋を導き出す。
戦いにおいて当たり前の事だが、これを極めた者が『剣聖』となるのだ。
この国はほとんど(私が知る限りは全て)の人間が『魔力』を持っていて『魔法』が使える。
全ての『剣士』が『魔力』を用いた『身体強化』を使える。
大抵の剣士は戦闘中にそこまで思考を巡らせなくとも、『身体強化』で目の前の状況に対処できる。
ジオ様やゼト様においてもそこは変わらない。
100年以上にわたって『剣聖』が誕生しなかったのはおそらくそれが原因だ。
そう考えると、魔法も身体強化も高レベルで使えるお父さんが『剣聖』に近い技術を身に付けたのは驚異的だ。
どれだけストイックだったのだろうか。
いや、違うな。私と同じでお父さんも鍛錬が楽しかったんだろう。
生前のお父さんは常に自然体で無理をしていなかった。
自然に楽しみながら鍛錬していたらその高みに到達していたのだろう。
やっぱり私とお父さんはよく似ているんだ。
私もジオ様との毎日の鍛錬は楽しくてしょうがなかった。
今日はその集大成だ、思いっきり楽しもう!
ジオ様との最後の訓練は、結局勝敗が付かずに引き分けで終わった。




