10話 勇者様と入学式
入学式では新入生代表として挨拶をする羽目になってしまった。
貴族を差し置いて自分が代表になってはねたまれないか心配だったが、毎年主席が挨拶する決まりとの事で断れなかった。
もっとも例年は実力的に上位の貴族が主席だったらしいが・・・
私の不安に反して貴族の子息や令嬢たちは皆好意的だった。
「見て見て!あれが噂の『剣精様』よ」
「試験の時も美しかったが、今日はまた一段と神々しいな」
「あの美貌にあの物腰、平民との話だがどこかやんごとなき家の隠し種に違いない」
「人とは思えない美しさ、まさしく精霊・・・」
「ああ『剣精様』は今日も美しい・・・」
なんか色々妄想が飛び交っているんですけど・・・
私の髪と目の色はこの国の王族と同じなので王様の隠し子ではないかって説や、勇者の隠し子って説もあったらしい(ちょっと惜しい!)
ちなみに私の二つ名だが、試験以降、様々なうわさと二つ名が飛び交っていたが、最終的に、剣の精霊で『剣精』というところに落ち着きつつあるみたいだ。
なぜか『剣精様』と『様』付きで呼ばれているようだが・・・
・・・今日は晴れの入学式という事でシーラさんを筆頭にお屋敷のメイドさんたちが私を朝から徹底的に磨き上げてくれた。
普段は動きやすいように編み上げている髪を今日は編み上げずに丹念にブラッシングしてつやつやに仕上げてくれた。
腰まである金髪はゆるいウェーブがかかってボリューム感のある豪奢な髪型になっていた。
完璧な食生活のおかげで元々血色の良い肌はさらにお手入れされて、徹底的にメイクアップされていた。
一応公式の場に出る事もあるので貴族の立ち居振る舞いも簡単に指導してもらったが、体を鍛えており体幹は安定しているので、すぐにマスターした。
地元の町でも「かわいい」「かわいい」とよく言われていたので、自分の容姿がそれなりに整っている自覚はあったが、ここまでとは思っていなかった。
姿見に映る自分の姿はまるでどこぞのお姫様ではないか?
「ララ様、お美しいですよ。ジオ様にも見て頂きましょう!」
ひと仕事終えた達成感からか、普段は感情が控えめなシーラさんが少々興奮気味でジオ様を呼びに行った。
ララの前にやってきたジオ様は絶句して固まっていた。
「どう・・・かな?」
「ジオ様、何かお声をかけて差し上げて下さい」
固まっているジオ様をシーラさんが促してくれた。
「ああ・・・よく似合ってる・・・これなら入学式に出しても思い残す事はないな・・・」
・・・微妙に変な物言いになっているが、よく見るとジオ様の顔はほんのわずかに赤くなっていた。
(よしっ!これは脈ありってことじゃない!)
「ありがとうございます。お褒め頂き光栄に存じます」
満面の笑みで貴族の礼をしてみた。
「ああ・・・挨拶も・・・完璧だな・・・」
ジオ様の顔はさらに赤みを増していた。
(いける!この攻撃は勇者様に通用する!)
私の美貌は勇者の鉄壁の精神防御障壁を突破できたらしい。
私は心の中でガッツポーズをした。
(ありがとう!シーラさん!メイドさんたち!みんなのサポートのおかげね)
気を良くした私は最高の気分で学院の入学式へとやってきたのだが・・・
私を見る男子生徒たちの目線が・・・なぜか一部女子生徒も・・・恋する青少年の目になってしまっている。
朝の一件で気分が良かったし、今後の学院生活の付き合いもあるので話しかけられるたびににっこり微笑み返していたのだが、どうやら強烈な攻撃を放ちまくっていたみたいだった。
勇者の精神防御を突破するほどの攻撃を一般人のしかも思春期真っただ中の少年たちに向けたらそれは確かにこうなるよね?
新入生代表の挨拶の間、会場中からため息があふれていた。
(うーん? 明日からはもう少し地味な格好で登校しよう)