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勇者の弟子はお嫁さんになりたい!  作者: るふと
第1章 勇者の弟子
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1話 勇者様のお嫁さん

「ねえねえ、ララってそんなに何でもできるのに将来の夢とかないの?」

 友達たちが話しかけてきた。


「将来の夢ねぇ? 一番楽しいのは料理を作る事だし、それを大好きな人がおいしそうに食べてくれる時が一番幸せかな?」


「・・・それって普通にお嫁さんだよね?」

「・・・そうだよね・・・ うん!でもそれに決めた!」

「決めたって、ララ好きな人とかいるの?」

「あー、そういうのよくわかんないんだよね~」

「だよねー、男の人を好きになった事も無いのに将来の夢がお嫁さんって、どうかと思う」

「ひっどいなー、これから素敵な人と大恋愛するかもしれないじゃない?」

「・・・ちょっと想像できないんだけど・・・」


「そうだなー・・・ よし!決めたっ!」


「目標は『勇者様のお嫁さん』!」


「はぁ?! なんでそうなったの?」


「だって、この世界って勇者様のおかげでみんなの幸せが成り立ってるでしょ?

 せっかく自分の料理で誰かを幸せにするんだったら頂点を目指したいじゃない?」


「・・・お嫁さんの頂点を目指すって・・・意味が良くわからないんだけど・・・それだったらふつうは王子様とかじゃないのかな?」


「えー! 王子様のお嫁さんって窮屈そうじゃない? 勇者様のお嫁さんの方が絶対楽しいって!」


「そこ、楽しさを求める話じゃなかったよね?」


「うん! 私の夢は、世界一幸せな『勇者様のお嫁さん』!」






「お父さん、おはよう」


 ララの一日は父親の形見の短剣に朝の挨拶をするところから始まる。


 病を抱えていた父親は半年前に他界した。

 あまり多くを語らないが器用な人で山で生きていくノウハウを色々教えてくれた。

 農作物の育て方や、食べられる野草や薬草の見分け方、剣の使い方や狩りの仕方、大工仕事など、幼いころから手伝いをしてきたおかげで一通りの事は出来る様になっていた。


 お父さんに元気になってもらいたくて料理のレパートリーを増やす事にも専念した。

 体に良い食材や薬草など色々試していたので必然的に薬草の知識や狩りの腕も上達している。

 料理の腕前はお父さんもびっくりするくらいおいしいと褒めてもらえるほどになった。

 私の料理を食べると元気が出ると言っておいしそうに食べてくれるのが本当に嬉しかった。


 魔法は教えてもらったが全く使う事は出来なかった。

 ただ下級魔法でできる程度の事は、魔法が使えなくても代用が効くので生活に困る事はなかった。


 お母さんは私が生まれて間もなく亡くなったらしい。

 お父さんに聞いても悲しそうな顔をするだけで詳しく教えてくれなかった。

 私がお母さん似だったらどんな人か想像できたのだけど、髪の色も目の色もお父さん譲りの金髪碧眼で顔つきもお父さん似って言われてるからお母さんのイメージが全然わからない。




 お父さんがいたころの癖で食事はついつい作りすぎてしまうのだが全部たいらげて学校に行く事にした。

 形見の短剣と弓矢は一応護身用に持って行く。


 町の学校へは山を下って片道1時間ほどかかる。

 身体能力は高いので徒歩ではなく、道なき道を軽く跳躍しながら駆け下りていく。


 このペースでふもとの町まで1時間程度だが、普通に歩いたらおそらく片道半日ぐらいかかる距離だ。

 だから町の人が家に来る事はない。


 以前学校の友達が遊びに来たいと言うので連れてこようとしたら半分も来ないでギブアップしてしまった。


 なぜこのような山奥に住んでいたのか、お父さんは理由を教えてくれなかったが、山の生活は嫌いではなかったので、一人暮らしになっても町へは引っ越さずにいた。




 町に着いたらまず市場に向かった。

 途中でウサギを見つけたので、弓矢で射止めたのだ。


「おはよう!おじさん。ウサギを捕ったので買取りお願いします」

「おはよう、ララちゃん。いつも助かるよ」

 肉屋のおじさんはいつも獲物を高値で買い取ってくれる。


「ララちゃん!また野菜ももってきておくれよ。あんた育てた野菜は他のとこのよりおいしいって評判なんだよ」

 向かいの野菜屋のおばさんも話しかけてきた。

「おはようございます!明日はニンジンを持ってきますね!」


「山奥で一人暮らしなんて寂しくないかい? 良かったらうちの子になってもいいんだよ?」


「おいおい!何言ってるんだい!ララちゃんはうちで引き取ろうと考えてたんだ!」


「あははは! 二人ともありがとうございます。でもお父さんとの思い出が詰まった家が大好きなので大丈夫です!」


 町の人たちはみんな優しくしてくれて、私はこの町が大好きだった。




 学校は町の子供たちが読み書きや計算、国の歴史や簡単な魔法の使い方を教わるところだ。

 この国は子供の教育に熱心で、各町の学校では職人さんたちが講師として様々な仕事の指導をしてくれたり、魔物や野獣からの護身のために自警団の人が剣の稽古などもつけてくれる。


 お父さんから学校だけはきちんと卒業するようにと言われていたので、卒業までは通う事にしている。来月で卒業だ。



 1時間目は魔法の授業だが、魔法が全く使えない私は見学するしかない。


 この国では、ほとんどの人が魔法を使える。

 魔法は生まれ持った資質により使える魔法の強さが下級・中級・上級の3段階に分かれる。


 下級魔法は水や空気を動かしたり、軽い物を浮かせたり、温度を上げ下げして火をおこすなど、日常生活に役に立つ程度の魔法で、大抵は手や道具でも同じような事ができる。

 訓練次第でほとんどの人が使えるようになるそうだ。


 中級魔法は何も無い所からから水や土など物質を作りだしたり、人や大型動物を殺傷できるほどの風や水流をおこしたり、炎や雷を扱うことができる。

 軽いけがや病気を治すこともできる人もいるそうだ。

 数百人に1人ぐらいは使える人がいるそうだ。


 上級魔法をあつかえる人は数万人に1人で国内に数人しかいないそうだ。

 災害レベルの大規模魔法を一人で発動できたり、他にもいろいろとんでもないことができるって噂だ。


 訓練によって熟練度は上達するけど、下級・中級・上級の間にはそれぞれ大きな隔たりがあり、上達しても級が変化する事は無い。


 学校では私以外の子はみんな下級魔法が使えて、一人だけ中級魔法が使える子がいた。卒業したら王都の学院に通う事が決まっている。

 中級以上の魔法使いは国家魔法士の登録が必要で、学院を卒業したら国の機関に所属する事になるんだって。


 魔法の基本的な使い方は、魔法の杖を使って魔法線で地面や空中に魔法陣を描き、魔法陣に魔力を注入して活性化させ、呪文を唱えて発動させる。


 私は絵を描くのが好きなので魔法陣を描くのは得意だけど、どうしても魔法を発動させる事が出来なかった。

 たまにそうゆう人もいるらしい。


 魔法の授業は暇なのでいつも一人でひたすら魔法陣を描いていた。

 魔法陣ってどれも芸術的で美しく、細かい作業の好きな私は時間を忘れて描いてしまう。


 特に上級の魔法になるほど複雑で繊細なので描きごたえがあり、おかげで魔法陣だけなら上級魔法の魔法陣まで描ける様になってしまった。


 まぁ、発動できないからなんの意味もないのだけれど・・・


 学校にある教本の魔法陣は全て描ける様になってやる事が無くなってしまったので、最近は自分好みでアレンジしてオリジナルの魔法陣まで作り始めてしまった。


 もちろんデザイン性重視で魔法陣としては機能しないでたらめな魔法陣なんだけど・・・


 結構お気に入りのデザインの魔法陣が出来た時は絵画の先生にはすごく褒められた!

(魔法の先生にはこっぴどく怒られたけど・・・)

 私にとっては美術の授業ってことで!




 2時間目は剣の稽古だ。


 幼いころからお父さんと稽古していたおかげで剣と弓矢は誰にも負けなかった。


 生徒では私の練習相手になる子がいないので、先生相手の模擬戦になる。

 最近は先生にも負ける事が無くなってきた。


「いやー、まいった。こう見えて町の警備団の中でも結構強いはずなんだけど」


「先生、私が女の子だからって手加減してませんか?」


「手加減どころか『身体強化』を使ってない君に『身体強化』を使っても勝てないってどういう事なんだい? もう十分実力で俺より強いんじゃないかな?」


 『身体強化』は魔力を体に巡らせて、腕力や防御力、俊敏性などを向上させる技だ。魔法を使える者なら訓練次第でだいたい使えるようになる。

 私は魔法が使えないため当然『身体強化』も使えない。


「卒業後は王都の学院に行って騎士を目指す事をお勧めするよ」


「騎士・・・ですか? 全然興味ないから別にいいかな? 山で狩りをして、おいしい料理を作っている方が楽しいし・・・」






 その時遠くの方から轟音が響き渡った。


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